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リンパ管腫の診断・治療最前線 -小児外科-

はじめに

リンパ管腫(lymphangioma, リンパ管奇形lymphatic malformationとも呼ばれます)は多くが子どもにみられる良性腫瘤性病変です。一般的にはあまり知られていない病気です。リンパ管腫は大小様々(1 mm以下のものから数cm)の水風船のような「嚢胞」が集まって塊をつくっている病変です。嚢胞はリンパ管の一部が異常に膨らんで袋状になったもので、中身はリンパ液が主体です。リンパ管の形成異常で生じると考えられています。病変の部分は膨らんで見え、触れると柔らかく弾力性があります。発生する部位は首・わきの下の辺りが最も多いですが、全身どこにでも発生する可能性があります。大きく分けて、嚢胞がおよそ2 cm以上のものを嚢胞性、嚢胞は小さく嚢胞以外の組織が多いものを海綿状リンパ管腫と呼んでいます。

一般にリンパ管腫は幼少時に発症し、体の成長と同じペースで大きくなると考えられていますが、自然消失することもあります。体の他の場所へ転移することはありません。多くの場合、治療(外科的切除、硬化療法)が有効で病変を縮小もしくは消失させることが出来ますが、約20%は難治性で、現行の治療ではなかなか改善が得られません。少しでもよい治療法が世界中で求められており、私達も様々な工夫をしています。

治療の工夫~硬化療法~

嚢胞型のリンパ管腫に対しては病変部に硬化剤を注入する硬化療法が有効であることが知られています。硬化剤は様々ありますが、日本では保険診療として認められているのはOK-432(ピシバニール®)だけです。これはA群溶連菌を殺傷したものを凍結乾燥し粉末化したもので、日本で開発されました。リンパ嚢胞内部に注入すると強い炎症を惹起し結果として嚢胞がつぶれるように収縮し、病変全体が小さくなるという効果を示します。

リンパ管腫内はいくつかの嚢胞が小さな窓で連なるように存在しています(図1A)。1回の治療でなるべく効果を上げるためには注入したピシバニールが病変全体に行き渡ることが必要ですが、1回に使用できる容量は限られており通常の超音波を用いた注入法では十分に病変の隅々まで行き渡っているかを確認することは出来ません。そこで当科では、注入する溶液に造影剤を混ぜて、レントゲンでリアルタイムに薬液の広がりが見えるようにしています。注入後に体の向きを変えたり、揉んだりすることで、病変内に確実に薬剤を行き渡らせ、最大の効果を得ることができます(図1B)。特に小児では多くの場合このような手技には全身麻酔による鎮静を必要とするので、1回1回のチャンスから最大限の効果を上げつつ治療を進めたいものです。

図1 皮下リンパ管腫に対する硬化療法

図1 皮下リンパ管腫に対する硬化療法

検査の工夫~リンパ管シンチグラフィ~

リンパ管腫の治療のもう一つの柱は外科的切除術です。リンパ管腫には大量のリンパ液が貯留しており、周囲のリンパ液の流れと病変がどのような関係になっているのかを知っておくことは切除時に非常に助けになります。そのために有用な検査がリンパ管シンチグラフィです。これはトレーサーという放射線標識したタンパク質を皮下に投与するとリンパの流れに乗っていくためその経路をみることが出来るという検査です(図2B)。この検査とCTを組み合わせたSPECT検査で全身のリンパ液の動きと病変の関係を正確に知ることができます(図2A)。全ての患者さんに必要な検査ではありませんが、必要時には積極的に行い、適切な治療戦略を立てることに役立てています。

図2 上縦隔リンパ管腫へのリンパ液の流入像

図2 上縦隔リンパ管腫へのリンパ液の流入像

今後の展望

現行の技術で最大限の治療効果を求めることと同時に、私達はリンパ管腫の生物学的特性を元に新たな治療法を開発することを目的とした研究もおこなっています。

現在行っているのは、小児リンパ管疾患全般の疫学的調査、限局性リンパ管腫 (lymphangioma circumscriptum) に対する無水エタノールを注入する硬化療法外部リンク、様々な小児リンパ管疾患の手術で切除された組織を直接検討したり、その組織から出てくる細胞の性質を調べたりすることです。

私達はリンパ管腫の患者さんにとって最良の検査・治療を常に考えながら診療を行うとともに、病気の中心となっている細胞の性質をもっと良く知ることにより、治療の大きな進歩へつなげられるよう研究も怠りなく行っています。いつかこの病気を完全に克服し、全ての患者さんが治ることが我々の願いです。

小児外科写真

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最終更新日:2014年8月1日
記事作成日:2014年8月1日

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