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脳卒中センター ~専門医連携による最良の治療への取り組み~

はじめに

脳卒中は、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の総称で、脳の血管が破れれば出血、血管が詰まって脳組織が破壊されると梗塞と診断されます。脳卒中に対する医療は、ここ10年ほどで急速に進歩しました。超急性期治療、慢性期治療、リハビリテーションを積極的に行うことによって、治療成績、患者さんの後遺症や治療による負担は大きく改善されてきました。

2018年12月には「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(脳卒中・循環器病対策基本法)」が国会で成立し、2019年12月から施行されたことで、国民全体に良質かつ均質な脳卒中に対する治療を提供することが求められるようになりました。

このような社会的要請、そして患者さんのご期待にお応えできるように、慶應義塾大学病院では、2020年6月に「脳卒中センター」を設立いたしました。脳卒中センターでは、複数の診療科の専門医が科の枠組みを超えて協力しながら、脳卒中の診療にあたります。例えば、救急科と放射線診断科の協力のもと、脳梗塞や軽い脳出血を神経内科が、手術を要する脳出血やくも膜下出血を脳神経外科が中心となって治療を担当します。また、理学療法、言語療法、作業療法をリハビリテーション科が、せん妄や脳卒中後のうつ症状など精神面での対応を精神神経科がそれぞれ担当しています。

さらに、看護師・ソーシャルワーカー・地域連携担当者などによる支援を通じて、社会復帰、療養環境の整備、転院調整や地元医療機関への紹介などを円滑に進め、医学的な治療以外の側面でも患者さんを包括的に支援する体制を整えています。

当院は2019年度に脳卒中学会が認定する一次脳卒中センターの認定を受けており、脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)、脳出血、くも膜下出血、脳動脈瘤(破裂・未破裂)頸動脈狭窄・閉塞、硬膜動静脈瘻もやもや病卵円孔開存に起因する脳梗塞など、脳の血管が関係する多くの疾患について、脳卒中専門医が協力して治療を行っています。

時間との勝負である脳梗塞の治療

脳の血管が詰まり、脳に十分な血液が供給されないと、神経活動は停止し、脳組織の一部が破壊されます。これが脳梗塞で、障害された脳の部位によって、手足や顔の麻痺、感覚障害、会話ができないなどの多様な症状が出現します。そのため、早期に脳の血流を再開させること(超早期再灌流)が脳梗塞治療の基本的な概念になります(Rha JH, et al. Stroke. 2007;38:967-73.)。2005年に血管に詰まった血栓を溶かす血栓溶解療法(rt-PAと呼ばれる血栓溶解薬を点滴する治療)が開始され、2015年頃には血栓回収術(血管を閉塞している血栓をカテーテルで取り除き、血管を再開通させる治療)の有効性が報告されたことで、カテーテル治療が急速に広まりました(Goyal M, et al. Lancet. 2016;387:1723-31.)。この血栓溶解療法や血栓回収術は、脳梗塞治療を大きく進展させたものの、これらの治療を受けることができるのは一部の患者さんに限られ、治療対象とならなかった場合は、抗血栓薬(血液をさらさらにする薬)や脳保護薬を用いて治療を行います。当院脳卒中センターでは、血栓溶解療法、血栓回収術を含めて治療に必要な設備・人員を整え、急性期脳梗塞の患者さんの治療に備えているほか、新しい抗血栓薬、幹細胞治療の治験や、観察研究なども行っています。このように、現時点で最善の治療を心掛けるとともに、新たな脳卒中治療を見据えた研究を同時並行で進めています。

図1.(上) ステント型レトリーバー
図1.(下) 血栓吸引カテーテル

図1.(上) ステント型レトリーバー
(下) 血栓吸引カテーテル

これらのデバイスで血栓を捕捉し回収、血管を再開通させる。

図2 (左):血管閉塞(脳底動脈)(中央):血管内治療、再開通(右):回収された血栓

図2.(左):血管閉塞(脳底動脈)(中央):血管内治療、再開通(右):回収された血栓
重度の意識障害で発症され脳底動脈という血管の閉塞を認めた。 発症早期であり、血管内治療により血栓を回収・再開通し、直後より意識の改善を認めた。

脳出血の治療

脳出血は、高血圧を背景として発症することが多く、そのほかに血管奇形や外傷なども原因となります。脳出血を発症した場合、血圧を下げること以外に有効な治療は限られていますが、出血の状況に基づいて症例ごとに内科的な管理、外科手術などを選択します。脳出血治療は予防に勝るものはなく、脳卒中専門外来では血圧治療を含めた予防管理を行っています。

くも膜下出血の治療

くも膜下出血は、文字通り、脳の表面を覆うくも膜と軟膜(くも膜下腔)に出血が起こる病気です。脳動脈瘤の破裂、外傷、血管奇形、感染症などが原因となります。予後不良の病気で、特に原因の大部分を占める脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は、発症すると約半数の方が死亡するとの報告もあります。救命できた場合でも運動や会話に後遺症が残ることも少なくなく、社会復帰がかなうのはおよそ25%に限られると報告されています。

くも膜下出血の治療は、主に急性期の再出血の予防と、発症後からおおむね2週間以内に生ずる種々の全身合併症に対する治療に大別されます。くも膜下出血を起こした動脈瘤の破裂点は血栓(かさぶた)で覆われている状態で、これが剥がれると、再度くも膜下出血を起こすことになり(再出血)、経過は悪くなります。

再出血の予防には、動脈瘤の根元にクリップと呼ばれる金属の器械をかけて、動脈瘤への血流を遮断する開頭クリッピングという方法と、動脈瘤の内部に金属のコイルを詰め、内側から血流を遮断するコイル塞栓という方法があります。クリップに関しては日本脳卒中の外科学会技術指導医・認定医が、コイルに関しては日本脳神経血管内治療学会の指導医および専門医が、当脳卒中センターに在籍しており、患者さんの動脈瘤の部位や形状、年齢や合併症などを勘案して、最良と考えられる治療法で手術を行います。

くも膜下出血後に生じる全身合併症のうち、神経機能予後に大きな影響を与える虚血性脳障害に対しては、新規脳保護療法の確立を目指した基礎研究にも取り組んでおり、豊富な治療経験と基礎研究から得た知見をもとに、最善と考える治療を行っています。

脳卒中を予防するための治療

神経内科では、脳卒中の発症・再発予防を目的として、降圧薬や抗血栓薬の投与、血液検査、頭部MRI、心機能評価、頸動脈エコー、脳血流検査など様々な検査による評価を行います。

また、当脳卒中センターでは、内科的な治療だけでは不十分と判断される場合は、脳卒中予防を目的とした外科手術にも力を入れています。例えば、くも膜下出血の予防を目的とした開頭クリッピング術、コイル塞栓術、ステント留置術、脳梗塞の予防を目的とした頭蓋外-頭蓋内バイパス手術(STA-MCAバイパス術)、頸動脈ステント留置術、頸動脈内膜剥離術などを行っています。硬膜動静脈瘻や脳動静脈奇形といったシャント疾患についても、血管内手術と開頭手術を使い分けながら、積極的に治療を行っています。

それぞれの患者さんの脳血管障害(脳卒中)の病状、背景に応じて、内科的治療、血管内治療、直達術(外科手術)の中から、各専門医が相談、検討して最良の治療法をご提案しています。

現在進行中の企業治験・観察研究

  1. 企業治験:「経口FXIa阻害剤 BMS-986177による虚血性脳卒中又は無症候性脳梗塞の再発抑制効果を検討する国際共同、第2相、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、用量反応試験」(NCT03766581)
  2. 企業治験: 「脳梗塞患者を対象としたHLCM051(MultiStem®)の有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第II/III相試験」(NCT02961504)
  3. 観察研究:「脳血管障害症例全般に関する包括的研究」(課題番号 20200065)

関連リンク

  • 脳血管障害(慶應義塾大学医学部神経内科のWebサイト)

文責:脳卒中センター

執筆:伊澤良兼

最終更新日:2021年2月1日
記事作成日:2021年2月1日

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