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肝臓がんの最新治療~次世代マイクロ波アブレーション、新規分子標的薬~ ―消化器内科―

はじめに

慶應義塾大学病院では、消化器内科、一般・消化器外科、放射線科が密に連携し、様々な専門家から構成されるクラスターを形成して、肝臓がんに対する集学的治療(様々な治療を組み合わせて行う治療)を行っています。特に消化器内科では、局所療法や分子標的薬を使用した化学療法を行う役割を担っています。近年、肝臓がん局所療法の新規機器として次世代マイクロ波アブレーション(microwave ablation:MWA)が登場し、海外で広く使用されるようになりました。国内においても次世代MWA機器として、Emprint ablation system (Covidien社製)(図1)が2017年7月に保険適応となりました。また、化学療法の分野においても日本発の新たな分子標的薬としてレンバチニブ(商品名:レンビマ)が2018年3月に肝細胞がんに対して保険適応となり、今後の肝臓がんの治療成績の向上が期待されています。これらの新しい治療に関してご紹介します。

図1. Emprint ablation system (Covidien社Webサイトより)

図1. Emprint ablation system (Covidien社Webサイトより)

肝臓がん局所療法

肝臓がんの治療においては、治療した部分から肝臓がんを完全に取り除くこと(局所制御)、肝臓の機能(予備能)を温存すること、という2つの要素のバランスを考えた治療戦略を立てる必要があります。肝臓がんの局所療法とは、肝臓がんの病巣に向かって体外から針(電極やアンテナ)を差し込み、針の周りに熱を発生させることによって肝臓がんを焼灼し、局所的に治療を行う方法です。局所療法は病巣の周囲のみを焼灼することから、肝予備能に与える影響が少ないことや、全身麻酔を必要としないことから、体への負担が少ないというメリットがあります。高齢化社会で高齢のがん患者さんが増えている状況の中、有用な治療法の一つとなっています。肝臓がんの局所療法として、ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation :以下、RFA)が国内では1999年頃から広く臨床で使用されており、肝臓がんの治療法としては外科的手術に次いで高い局所制御率が得られることが分かっています。

マイクロ波アブレーション(MWA)

マイクロ波アブレーション(以下、MWA)では、同じマイクロ波を使った電子レンジと同様の原理を利用してがん細胞を熱で焼灼します。マイクロ波が水分子を回転させることによって摩擦熱が発生します。過去にも肝臓がんの局所療法の一つとして臨床に用いられていましたが、短い時間で治療が行える一方で、狭い範囲しか焼灼できないというデメリットがあり普及しませんでした。2017年7月に日本でも使用可能となった次世代MWAでは過去のMWAの弱点を克服すべく、3つの新しい技術が取り入れられました。具体的には、1) アンテナの形状を改良することにより、アンテナの先端から正確な球形の電磁場を発生させる(Field control)、2) アンテナの内部に冷却水を循環させることにより、アンテナの近くだけが過剰に熱されるのを避け、アンテナの安定した性能を保つ(Thermal control)、3) 治療中はアンテナ周囲の組織が熱によって乾燥してしまいますが、そのようなアンテナ周囲の急激な環境変化にも関わらず、一定の波長のマイクロ波を発振し続けること (Wavelength control) が可能となりました。これらの技術を使用した次世代MWA機器では、安定した球形の大きい焼灼範囲を得ることができます。

従来型のMWA機器や、冷却式電極を用いたRFAでは、焼灼域が楕円形になってしまうことや、血流により焼灼範囲が冷やされてしまう冷却効果(heat sink)などから、焼灼範囲を予測するのが難しいという欠点がありました。次世代MWAはこの欠点を克服し、完全な球形に近い焼灼範囲が得られることや、血流などの周囲環境からの影響を受けにくいことから、焼灼範囲をコントロールしやすくなりました。また、RFAでは大きい焼灼範囲を得るために、病巣に電極を複数回穿刺する必要がありましたが、次世代MWAでは、焼灼時間を長くとればとるほど大きく焼灼することが可能になり、1回の穿刺で大きい焼灼範囲を得ることが可能となりました(図2)。

図2. マイクロ波アブレーションのイメージ

図2. マイクロ波アブレーションのイメージ

当院では MWAを導入してから1年間で90件以上の治療を行っていますが、RFAと比較して明らかに短時間での治療が可能となっています(表1)。理論的には、次世代MWAには従来の治療と比べて有利な点がありますが、新しい治療のため、局所制御や生存率などの治療成績に関してはまだ十分に検討されておらず、今後のさらなる検討が望まれています。

表1. 当院におけるMWA(2017年11月〜2018年6月)とRFA(2017年8月〜11月)の比較

  MWA (90病変) RFA (33病変)
治療した腫瘍の大きさの平均 1.6 cm 1.6 cm
穿刺した回数の平均 1.4回 2.7 回
焼灼した時間の平均 4分17秒 16分27秒

マイクロ波アブレーション(MWA)の実際(よくある質問Q & A)

Q1. 針(アンテナ)はどのように穿刺しますか?

A1. 手技の方法としては従来のRFAと変わりありません。当院では超音波装置で確認しながら腫瘍に向かって針を穿刺します。腫瘍が肝臓の右葉にある場合は、右側の肋骨の間から針を穿刺します。また、腫瘍が肝臓の左葉にある場合は、心窩部(みぞおち)から針を穿刺します。

Q2. MWAを行う際には痛みはありますか?

A2. RFAの針(1.15mm)と比較して、MWAの針(1.83mm)は少し太いですが、局所麻酔薬に加えて点滴から鎮痛薬、鎮静薬(睡眠導入剤)を投与して治療を行いますので、通常痛みを感じることはありません。一般的に、肺や骨が邪魔をして超音波装置で腫瘍が見えない場合や、針を穿刺するときに肝臓が動いて治療がしづらい場合には、患者さんに息を吸う・吐く・止めるなどの呼吸の調整をお願いしながら治療を行いますが、この方法では患者さんに軽い鎮静しか行うことができず、穿刺の際に痛みを伴います。そこで、当院では特別な手術台を使って患者さんの姿勢を変えたり、お腹の中に水を注入したりして、体の中の肝臓の位置を調整することで患者さんの協力なしに針を穿刺できるよう工夫しています。この方法を用いれば、鎮静薬を十分に投与することができ、針を穿刺するときの痛みは大幅に軽減されます。

Q3. 治療にかかる時間、入院期間はどのくらいですか?

A3. 実際に腫瘍を焼灼する時間は、1つの腫瘍に対して数分程度ですが、治療がしやすくなるよう術中に様々な処置を行うため、実際の治療時間は1-2 時間かかります。具体的には、患者さんの姿勢を変えたり、お腹の中に水を注入したり、造影剤を使用したエコー検査などを行っています。入院期間に関しては、合併症が起こらないか数日間経過をみるため、入院日、手術日を合わせて約1週間の入院期間を要します。海外の報告や、当院の成績においてもRFAと比較して合併症の増加はみられず、退院直後から生活には制限なく過ごすことができます。

Q4. MWAはどのような患者さんに適していますか?

A4. RFAと比較して大きい焼灼範囲が得られることから、局所療法に適した腫瘍の中でも、比較的大きい腫瘍に対して最も高い治療効果が得られる可能性があります。ただ、肝臓がんの治療は外科手術、肝移植、カテーテルによる肝動脈化学塞栓療法、陽子線や重粒子線治療を含む放射線治療、化学療法など多岐に渡っています。腫瘍の大きさや個数だけでなく、肝臓の予備能も最適な治療を選択する上で大きな判断材料となります。また、患者さんの年齢や基礎疾患(他にある持病)も大きな判断材料となるため、治療選択には高度に専門的な判断を要します。当院では最適な治療選択を目指して様々な専門家から構成されるクラスターによるカンファレンスを毎週開催しておりますので、治療の選択に迷っておられる患者さんがいらっしゃいましたら、当院消化器内科肝臓外来までご相談ください。

Q5. MWAを行いやすくするための取り組み

A5. 一般的に治療が難しいとされる、胃・腸や肺などの他の臓器に近い腫瘍に対しても、お腹の中や胸の中に水を注入することで治療が可能になります。腫瘍と他の臓器の間に水を注入することによって、熱で他の臓器を傷めてしまうことを防ぎます。また、CTやMRIで発見された腫瘍が、超音波装置ではうまく見えない場合がありますが、造影剤を使うエコー検査を行ったり、エコー画像とCT・MRI画像を重ね合わせて腫瘍の位置を予測する方法(Volume Navigation Imaging)を用いることによって、治療が可能となります。経験のある施設では、様々な技術を駆使して治療を行っています。

図3. 当院における治療設備

図3. 当院における治療設備

マルチキナーゼ阻害薬

がん細胞は、増殖したり、転移するために必要な特有の分子を持っていますが、その分子の働きを妨げることで腫瘍を抑制する薬剤を分子標的薬と呼びます。その中でも肝細胞がんに対してはマルチキナーゼ阻害薬が有効であることが分かっています。がん細胞では、細胞が増殖するために必要な信号の伝達が異常に高まっています。また、がん細胞は栄養を獲得するために周囲の血管に向けて新しい血管を作り出します(血管新生)。マルチキナーゼ阻害薬はこのような腫瘍の増殖に関する信号の伝達や血管新生を妨げることにより抗腫瘍効果を発揮します(図4)。2018年3月に新たに肝細胞がんに対して使用可能となったマルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブ(商品名:レンビマ)の治験の成績では、レンバチニブ を投与した患者さんのうち、4割の患者さんで腫瘍が30%以上縮小したことが報告されています。新たな治療選択肢が増えたことで、肝細胞がんの治療効果の向上が期待されています。当院でもレンバチニブによる治療を積極的に行っています。

図4. マルチチロシンキナーゼ阻害薬の作用のイメージ

レンバチニブ による治療の実際(よくある質問Q & A)

Q6. レンバチニブ はどのような患者さんに適していますか?

A6. レンバチニブは、肝細胞がんが他の臓器に転移したり、再発によって手術や局所治療などの治療が難しい患者さんに有効である可能性があります。ただ、前述のように肝細胞がんの治療選択は様々な要素を考慮して判断する必要があることから、治療の適応に関しては当科肝臓外来へご相談ください。

Q7. 治療には入院が必要ですか?

A7. 当院ではレンバチニブ による治療を開始する際には、最初の1週間は入院して治療を行います。1週間の間に副作用の発現状況をみるだけでなく、薬剤の管理や注意事項に関する説明を行います。1日1回の内服薬ですので、以後は外来で治療を行うことが可能です。

Q8. どのような副作用がありますか?

A8. あらかじめ起こりうる副作用に対して備えることで、副作用を予防したり症状を軽減させることができる場合があります。

  • 高血圧: 元々血圧が高めの人は血圧を下げる薬剤(降圧薬)を併用して治療を開始します。
  • 手足症候群: 手のひらや足の裏に痛みや腫れが起こることがあります。このような副作用は手足症候群と呼ばれますが、手足症候群を防ぐために、保湿剤を手や足にこまめに塗ることをお願いしています。
  • 食欲不振・下痢: 消化に良いものを少量ずつ摂取していただくことや、香辛料や揚げ物を避けることをお勧めしています。
  • 蛋白尿・甲状腺機能低下症: 定期的な検査を行います。
  • 疲労感・倦怠感: 十分な睡眠や休息を取るようお勧めしています。

副作用による患者さんの状態に合わせて、薬の量を減らしたり、休薬することがありますが、いったん休薬しても副作用が改善すれば服用を再開することができます。

Q9. 治療の費用はどのくらいかかりますか?

A9. 70歳未満の患者さんの場合の概算
 1日12mgの服用の場合、1ヶ月の薬剤費用
 約110,000円 (2018年9月現在)
 高額療養費制度を適応した場合の1ヶ月の自己負担額
 1-3回目:約80,000円、4回目以降:約44,000円 (2018年9月現在)
上記はあくまで概算です。費用は年齢や所得、薬剤の投与量によって異なります。

肝臓病教室

慶應義塾大学病院消化器内科では、肝臓がんの治療成績の向上や新たな治療選択の開発・研究に取り組んでいます。また、肝臓病に対する患者さんへの情報提供の場として「肝臓病教室」を定期的に開催しております。患者さんだけではなく、ご家族の参加も歓迎しますので、最新の治療や知見に関心のある方は是非ご参加ください。詳細は当科Webサイトをご覧ください。

消化器内科肝臓チーム

消化器内科肝臓チーム

関連リンク

慶應義塾大学医学部消化器内科

文責:消化器内科外部リンク

執筆:谷木信仁

最終更新日:2018年11月1日
記事作成日:2018年11月1日

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