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治療の難しい天疱瘡患者さんに対する抗CD20抗体療法 -皮膚科-

はじめに

自己抗体によって皮膚・粘膜に水疱を形成する一連の疾患群を自己免疫性水疱症と呼び、表皮内水疱を起こす天疱瘡群と表皮下水疱を生じる類天疱瘡群に大別されます。自己免疫性水疱症の治療は免疫抑制療法が主体で、現状ではプレドニゾロン(PSL)などステロイドの内服が中心となっています。しかし、既存の治療法のみでは病勢が制御できない症例がときに存在すること、ステロイドの長期内服に伴う副作用が大きな問題であることから、診療の現場では新しい治療法が求められています。天疱瘡と類天疱瘡では、自己抗体による水疱形成の機序が異なる可能性が指摘されており、ここでは現在進行中の天疱瘡に対する抗CD20抗体療法の医師主導治験について述べていきます。

天疱瘡に対する治療の現状

2010年に発表された天疱瘡診療ガイドラインでは、中等症以上の天疱瘡症例に対しては、プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日を標準的初期投与量として推奨しています。水疱・びらんの新生がなくなり、皮膚症状の大部分が治癒したらPSLを漸減していき、最小限のステロイド内服(PSL換算で0.2mg/kg/日または10mg/kg/日以下)と必要最小限の免疫抑制剤併用のみで皮疹が出現しない状態(「寛解」と定義されます)を治療の目標とします。ステロイドの治療効果が不十分と判断される症例では、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、血漿交換療法、免疫グロブリン大量療法(IVIG)などを併用しながら病勢を抑え、ステロイドの減量を試みます。

しかし、ステロイド治療抵抗性(ステロイドがききにくいこと)で病勢が制御できない難治例、ステロイドを減量すると再発・再燃(再び病状が悪化すること)してしまう症例が少数ながら存在します。このような症例では、結果としてステロイドの総投与量が増えてしまうため、感染症、糖尿病、骨粗鬆症、精神症状などのステロイド投与に伴う副作用のリスクが高くなるのが大きな問題です。どうしても寛解に至らない症例において、閉塞した状況を打破できる新規治療法は、天疱瘡患者さんとその診療に関わる医療従事者の悲願です。

天疱瘡に対する抗CD20抗体療法

近年、ステロイド治療抵抗性の天疱瘡症例に対する治療法として、B細胞の表面マーカーであるCD20に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブが注目されてきました。天疱瘡の原因となる自己抗体を産生する細胞は、CD20を細胞表面に発現しているB細胞、およびさらに分化した形質細胞と考えられています。リツキシマブは、B細胞を除去することによって自己抗体の産生を抑制し、天疱瘡に対する治療効果を発揮します(図1)。実際に、海外では2002年から治療抵抗性の天疱瘡に対するリツキシマブの奏功例が報告されており、ヨーロッパの天疱瘡治療ガイドラインでは、難治例に対する標準的な治療法として位置づけられるようになりました。

図1.天疱瘡における抗CD20抗体(リツキシマブ)の作用機序

図1.天疱瘡における抗CD20抗体(リツキシマブ)の作用機序

一方、日本では難治性の天疱瘡に使用された症例報告は見られるものの、保険適用外のため天疱瘡に対して日常の臨床現場でリツキシマブを使用することはできませんでした。そこで、天谷雅行教授らは、2009年より厚生労働省の「稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班」の研究の一環として、ステロイド治療抵抗性の天疱瘡・類天疱瘡の症例を対象にリツキシマブの効果・安全性の探索的研究を実施しました。国内4施設(慶應義塾大学、北海道大学、岡山大学、久留米大学)で9例の難治性の天疱瘡症例にリツキシマブを投与し、全例で有効性が見られました。この結果を受けて、2016年10月より医師主導治験が開始されました。

現在行われている医師主導治験について

医師主導治験とは製薬メーカーではなく、医師もしくは医療機関が企画・立案し、実施する臨床試験です。正式名称は、「ステロイド治療抵抗性の天疱瘡患者を対象としたリツキシマブの医師主導によるオープンラベルシングルアーム多施設共同第II相臨床試験外部リンク」です。天疱瘡と確定診断され、PSL使用中(またはPSLと「最低限の併用療法(主に免疫抑制剤)」の薬剤のうち1剤併用中)の方のうち、PSLを10mg/日に減量するまでの間に臨床症状スコア(Pemphigus Disease Area Index; PDAI)の再上昇がみられた20歳以上80歳以下の患者さんを対象としています。

具体的な方法ですが、治験参加に同意いただいた時点でのPSLの内服量を継続したまま、リツキシマブ1,000mgを2週間隔で2回、点滴静脈内投与を行います。初回投与は入院で、2回目投与は入院または外来で行います。決められたスケジュールに従ってPSLを減量し、リツキシマブ投与開始24週後の時点で寛解に到達した症例の割合で、リツキシマブが天疱瘡に対して有効であったかを評価します。

将来の展望

今回の治験の結果をもとに、治療抵抗性の天疱瘡に対するリツキシマブの薬事承認をめざしています。既存の治療法のみでは寛解に到達できなかった、難治性の天疱瘡症例における新規治療法として期待されます。また、ステロイドに依存しない治療の選択肢として、天疱瘡の治療戦略を根本的に変える可能性があり、ステロイド投与量を減らせれば、入院期間の短縮、副作用リスクの軽減につながり、難病政策という面からも有益と考えられます。

※この治療は臨床試験外部リンクのため、条件に合致した患者さんのみが受けられます。
詳しい説明が必要な方は、当科までお問い合わせ下さい。

リツキシマブ担当チーム

リツキシマブ担当チーム

文責:皮膚科外部リンク

執筆:山上淳

最終更新日:2017年3月1日
記事作成日:2017年3月1日

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