
外来で受ける子宮鏡手術 -産科-
はじめに
子宮鏡とは、子宮の内腔(赤ちゃんが育つ場所)を見るために作られた径の細い内視鏡です。腟を通して子宮の入り口から子宮の内腔へ子宮鏡を挿入して、子宮内腔の様子をテレビモニター(画面)に映し出すことができます。子宮鏡検査では、この子宮鏡を用いて子宮の内腔を直接観察し病変を診断する検査であり、径が5mm以下の検査用軟性子宮鏡(ファイバースコープ)を用いるのが一般的です。一方、子宮鏡手術とは、画面に映し出された映像を見ながら手術操作を行う内視鏡手術の一つです。子宮鏡手術に用いる子宮鏡は治療を目的として作られたもの(治療用硬性子宮鏡)で、観察に使われる映像装置の他に、手術に必要な器具類を装備できる子宮鏡です。
具体的には、子宮鏡の先端から出る鋏のような機械あるいは電気メスにより病変を切除し、切除した病変をつまむことのできる機械を用いて病変を摘出する、といった一連の動作を繰り返し手術を遂行していきます。日本では、最近まで入院して行う施設がほとんどでした。従来の手術用の子宮鏡は径が10mm以上と太く、手術の前に子宮の入り口から内腔までの道を広げる操作(頚管拡張)が必要であり、手術時も疼痛の面から全身麻酔が必要でした。
しかし、近年の子宮鏡技術の革新によって、径が5mm以下の細い治療用硬性子宮鏡が開発されました。この細径の子宮鏡を使用することで、頚管拡張をすることなく麻酔も使用しない外来手術が可能となりました。この技術は、ヨーロッパを中心に現在では盛んに行われておりますが、日本では当院において先駆的に行っております。入院を必要としないで良いということが最大のメリットではありますが、適応疾患が限られることや無麻酔のため痛みが強い場合には手術が完遂できないことがあるといったデメリットもあります。

対象疾患および手術の準備
子宮内膜ポリープ、粘膜下子宮筋腫が子宮鏡手術の対象疾患となります。ただし、外来にて無麻酔で行う手術であるため、上記対象疾患の中でも短時間で終了できると予測できる疾患のみを対象としておりますのでご了承ください。なお、悪性の疑いがある場合も対象外となります。
外来子宮鏡手術を受けるための準備
- 手術の前に必要な検査:原則として、手術までに血液検査、尿検査、胸部レントゲン検査、心電図検査などを実施していただきます。なお、これらの検査に問題があった場合には、手術が延期されることがあります。
- 手術の時期:子宮鏡手術は月経終了から排卵まで(基礎体温における低温期)に行うのが原則となります。そのため、手術の前にホルモン剤を投与し、月経を変更することがあります。月経中や妊娠の可能性がある場合には手術はできません。また、手術日が排卵日前であっても、性交渉により放出された精子が女性の体内で生き残っている可能性があるので、最終月経開始から手術までの期間は避妊が必要となります。もし避妊されていない場合には、手術は延期となります。
- 手術の前に必要な処置:細径の子宮鏡を使用するので、基本的には前処置は必要ありません。しかし、子宮の入り口の大きさや子宮の内腔に至るまでの道(子宮頸管)の太さや屈曲には個人差があり、子宮鏡をスムーズにそして安全に子宮内に挿入するために、子宮頸管を拡張させることが必要な場合があります。その場合は、手術の約2時間前に子宮口からラミナリア桿等を挿入し留置する処置を行います。
手術の概要と術後の生活
場所:外来処置室で行います。
麻酔:基本的には麻酔は使用せずに行いますが、病状によっては静脈注射等による全身麻酔下で行うこともあります。麻酔を使用する場合は、当日の食事制限等があります。
手術方法:
- 子宮鏡手術では、子宮鏡の先端から生理食塩水あるいは糖水(潅流液)を腔内に注入することで、内腔を拡張し視野を確保します。その後も潅流液の注入と排出をコントロールしながら手術を行います。
- 子宮内腔の病変部を確認し、子宮鏡の先端から出る鋏の様な機械や電気メスを操作して切除します。切除された検体は機械でつかみ体外に摘出します。
- 手術時間は、15分から30分が通常ですが、1時間程度かかる場合もあります。
手術後の投薬:
手術の後は感染予防のための抗生物質を服用します。また、子宮内膜の状態を整えるための女性ホルモン剤を一定期間服用する場合があります。
手術後の生活:
(手術当日)腹痛が持続する場合もあるので、ご自宅でゆっくりしてください。性交渉や運動は避け、飲酒も控えてください。入浴(バスタブにつかる)はせず、シャワー浴のみとしてください。
(翌日以降)発熱、腹痛、出血がないかぎり通常の生活で構いませんが、処方されたお薬は最後まで正しく服用してください。
外来手術ではありますが、麻酔を使用した場合の意識の状態や、手術の合併症によっては入院して経過を見させていただくことがありますのでご了承ください。

文責:産科
執筆:升田 博隆
最終更新日:2015年6月10日
記事作成日:2015年6月10日

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