片頭痛の新しい治療 -神経内科-
片頭痛とは
片頭痛は有病率が8.4%と頻度の高い疾患です。若い生産年齢人口に多く、女性の方が男性よりも3.6倍多いとされています。片頭痛の頭痛は一般的には片側性および拍動性(脈打つような性状)とされていますが、両側性や非拍動性(締め付けられるような性状)のこともあり得ます。光や音に対して過敏になったり、吐き気を伴ったりすることもあります。頭痛は鎮痛薬を使用しない場合、4時間以上と比較的長く持続することが特徴です。日常生活に支障を来すことが多い疾患です。また約25%の患者さんでは閃輝暗点(せんきあんてん:視界にギザギザした光の波が起きる)を代表とする前兆が頭痛に先行します(図1)。
図1.片頭痛の症状
片頭痛の従来の治療
片頭痛の薬物治療には、頭痛が生じた際に使用する急性期治療薬(鎮痛薬)、頭痛の有無に関わらず予防的に使用する予防療法があります。急性期治療薬に関しては、アセトアミノフェンやNSAIDs、片頭痛のために開発されたセロトニン受容体作動薬であるトリプタン製剤があります。一方、予防療法としては抗てんかん薬(バルプロ酸)、降圧薬(ロメリジン、プロプラノロール)、抗うつ薬(アミトリプチリン)などが用いられていました。いずれの予防療法もほかの疾患のために開発され、後に片頭痛にも有用であることが経験的に明らかになった薬剤でした。
片頭痛の最新治療
従来の予防療法は連日の内服が必要でした。また効果が不十分な患者さん、副作用によって継続が困難であった患者さんもいらっしゃいました。片頭痛の病態に則した予防療法の開発が求められていました。そのような中、2021年に我が国でも使用可能となった新規薬剤が、抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide:CGRP)抗体と抗CGRP受容体抗体です。
CGRPは頭部の感覚を司る三叉神経系に多く発現していることが知られています。CGRPは脳の周囲の血管の平滑筋細胞に発現しているCGRP受容体に作用して、血管拡張、神経原性炎症などに関与します(図2)。
図2.抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体の作用機序
1990年頃から片頭痛の病態でCGRPが重要と考えられるようになりました。抗CGRP抗体および抗CGRP受容体抗体の開発が進み、米国では2018年以降に承認、販売されています。我が国においては2021年に3剤が承認、販売が開始されました。抗CGRP抗体としてガルカネズマブ(エムガルティ®)、フレマネズマブ(アジョビ®)、抗CGRP受容体抗体としてエレヌマブ(アイモビーグ®)があります。それぞれのプロファイルと特徴を表1に示します。いずれの薬剤も皮下注射で1か月ないしは4週間に1回です。フレマネズマブ(アジョビ®)については12週間に1回の投与も可能です。これら新薬の主な副作用は注射部位反応とされています(表1)。
表1.抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体の種類
抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体は片頭痛治療を大きく変化させています。頭痛、生活支障度ともに改善したという患者さんも多数いらっしゃいます。本治療に興味のある患者さんは是非とも慶應義塾大学病院神経内科の頭痛外来を受診していただければと思います。
関連リンク
左から:中原仁(神経内科教授)、筆者(同専任講師)
文責:神経内科
執筆:滝沢翼
最終更新日:2021年12月1日
記事作成日:2021年12月1日
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