
AED(改訂) -救急科-
AEDはAutomated External Defibrillatorの略で自動体外式電気除細動器のことです(図1)。簡単に言えば、電気ショックにより心臓の痙攣(心室細動)を治療する装置です。心臓が痙攣を起こすと人は急死します。そのきっかけは心筋梗塞、心不全、電解質異常、特別に不整脈が起こりやすい病気(QT延長症候群やブルガダ症候群など)、心臓への衝撃(心臓震盪)など様々です。心臓の痙攣は日常生活の中で突然に発症することが多いため、心肺停止を発見した家族や隣人、あるいはたまたま通りかかった人が適切に対処する必要があります。

図1.病院に配備されているAED
さて、電気除細動器は昔は大きな装置でした。しかし技術の進歩と共に小型化され、さらに心電図から心臓の痙攣を自動診断できるようになり、こうしてAEDが完成しました。AEDの使用は簡単ですし、特別な資格も必要ありません。AEDの電源を入れさえすれば、音声指示に従うだけでAEDを使うことが出来ます。しかし、予め講習を受けていないと実際に使うことは難しいかもしれません。ぜひ、動画をご覧ください。
総務省の統計によれば、わが国の病院外心肺停止は年間10万人を超え、高齢化と共にさらに増加する見込みです。その約半数は心臓急死によると考えられているので、救命には心肺蘇生法と共にAEDを組み合わせて実施することが大切です。2000年以後、救命処置の普及活動は世界的規模で進み、世界蘇生協議会(ILCOR)のガイドライン2015が世界中で実施されています。わが国では心肺蘇生法委員会が全国の救命法を統括する組織となり、ガイドライン2015の日本版が公開されています。
AEDは個人で購入することもできますが、多くの場合、人が集まる場所に、誰でも、いつでも使えるように整備されています。駅、空港、イベント会場、スポーツ大会、役所、学校、病院などがその例です。AEDの国内販売台数は2004年から2014年の10年間で63万6千台に上り、町中でAEDを見かける機会が確実に増えてきました。例えば慶應義塾大学病院には35台のAEDが廊下や病棟に配備され、誰でも使用できます(図1、図2)。

図2.AED設置場所にはAEDを示すパネルが表示されている
わが国でも市民がAEDを使用して、心肺停止の人を救命する例が増加してきました(図3)。2013年に市民がAEDを使用した件数は全国で1,489件。このうち、心肺停止の発症が目撃された件数は907件でした。907件のうち、1ヶ月後の生存率は50.2%、社会復帰率は43.1%でした。

図3.市民によるAED実施件数と一ヶ月後の生存率、社会復帰率(総務省消防庁)
さて、貴方の家族や周りの人が、急に倒れることがあるかもしれません。いざというときにパニックに陥らないように、普段からAEDの使い方を学んでおきましょう。ぜひ、動画を見てください。
動画1.心肺蘇生法 デモンストレーション(人工呼吸を行える場合)
動画をご覧になりたい方は再生ボタンをクリックして下さい。
動画2.心肺蘇生法 デモンストレーション(人工呼吸を行えない場合)
動画をご覧になりたい方は再生ボタンをクリックして下さい。
動画3.心肺蘇生法 デモンストレーション(うつ伏せで倒れた場合)
動画をご覧になりたい方は再生ボタンをクリックして下さい。
動画4.心肺蘇生法 デモンストレーション(椅子に座っている場合)
動画をご覧になりたい方は再生ボタンをクリックして下さい。
心肺蘇生に関するQ&A
Q1 毎年、全国で何人くらいの心肺停止の傷病者が救急車で搬送されているのですか?
2014年には12万人が病院外で心肺停止となり、病院に搬送されました(図4)。
Q2 市民による心肺蘇生は、どれくらい行われているのですか?
2014年には心肺停止の45%で応急処置が行われました(図4)。
Q3 マラソン等スポーツ中に心停止が起こるのはどうしてですか?
運動により心臓に負担がかかること、発汗による脱水、興奮によるアドレナリン放出によって、心筋梗塞や不整脈が起こり易くなります。
Q4 心臓震盪(しんとう)とはどんな状態ですか?
胸部に衝撃を受けた際に心臓に痙攣がおこり、心肺停止となる状態です。肋骨が軟らかい幼児から若年者に発生します。スポーツ大会や学校活動など、スポーツを行う場所にはAEDを整備することが必要です。
Q5 人工呼吸はしなくてもよいということですが、本当ですか?
口対口呼吸を躊躇する場合には、行わなくても構いません。人工呼吸を行わずに心肺蘇生を行う場合は、速やかに胸骨圧迫(心マッサージ)を行います。しかし、小児や溺れた人など、人工呼吸を行わなければならない傷病者もいるため、できるだけ口対口呼吸をできるようにして下さい。

図4.救急隊が搬送した心肺停止と、発見者が応急手当を行った件数および割合
(総務省消防庁のデータをもとに著者が作成)
関連リンク
文責:救急科、医学教育統括センタークリニカルシュミレーションラボ
執筆:吉澤 城、勝田 考信
最終更新日:2017年3月1日
記事作成日:2010年7月2日

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