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心房細動に対するカテーテルアブレーション(改訂) -循環器内科-

心房細動という不整脈

心房細動は動悸、息切れといった自覚症状や心不全を引き起こす原因になり、また脳梗塞のリスクとしても知られる厄介な不整脈です。心臓は筋肉の壁でできた袋のような臓器で、全身に血液を送るポンプの役割をしています。4つの部屋からできていて、上の部屋を心房、下の部屋を心室と呼びます。通常心臓は1分間に60-70回程度、規則正しく収縮運動をして、血液を循環させています。心臓の中の右の心房から電気が発生して、それが心臓全体に広がることで心臓の筋肉が刺激され、収縮運動が起きます。規則正しく電気が発生するため、心臓は規則正しく収縮し、結果的に動脈の触れいわゆる脈も規則正しくなります。心房細動になると心房全体に異常な電気が1分間に400-600回くらい無秩序にぐるぐる回り、心房は痙攣するような状態に陥り、心室も1分間に120回前後で不規則に収縮します。その結果、脈は不規則になり、動悸や息切れといった自覚症状が出現し、痙攣状態にある心房に血液のかたまり、血栓ができて、それが脳に飛ぶと脳梗塞を起こす、というわけです。

心房細動は発症当初は発作性といって、起きても数分から数時間で停止することが多いのですが、発症してから年数を経ると徐々に頻度が増加し、また持続時間も伸びていき、最終的には慢性心房細動といって、心房細動がずっと続くようになってしまいます。年間5%程度の頻度で発作性心房細動は慢性化していくといわれており、おおざっぱにいえば発作性心房細動の患者は20年後にはほとんど全員が慢性心房細動になってしまうということです。

心房細動の治療法

つい10年ほど前まではこの心房細動に対する治療の選択肢は、薬物療法のみでした。心房細動を含め、不整脈を抑制する薬剤は抗不整脈薬と呼ばれますが、抗不整脈薬で完全に心房細動を抑制することは困難で、また抗不整脈薬の副作用が出現することもあり、治療に難渋することもありました。近年、カテーテルアブレーションが薬物療法に代わる心房細動に対する治療法として脚光を浴びています。カテーテルアブレーションは足の付け根や頚部の血管から直径2mm程度の細いカテーテルを心臓に挿入し、カテーテル先端から高周波という特殊な電流を心臓の筋肉に流し、異常な電気の発生源を治療するという方法です。心房細動は、異常な電気がぐるぐる回ると書きましたが、その異常な電気は肺から左側の心房、左心房に還流する肺静脈という血管から出てきます(図1)。この肺静脈が左心房につながる部分に熱を加えて、肺静脈からの異常な電気を心臓に伝わらないようにするというのが、心房細動のカテーテルアブレーション治療です。これを肺静脈隔離と言います(図2)。現在では世界中で、様々な方法で心房細動に対するカテーテルアブレーションが行われています。しかし、技術的に難度が高く、未だ施設間で治療成績にばらつきがあります。

図1. CTスキャンから3次元的に作成した左心房

図1. CTスキャンから3次元的に作成した左心房
左上に前側から見た左心房、右下に後ろから見た左心房を掲載しました。肺静脈は肺から心臓に血液を戻す血管で、左心房につながっており、左上下、右上下の計4本あります。図を見ていただいてわかるように、左心房の後側に肺静脈はつながっています。

図2. 心房細動の発生の仕方とカテーテルアブレーション

図2. 心房細動の発生の仕方とカテーテルアブレーション
それぞれ左心房を後から見た図を示しています。

  1. 心房細動が発生するには、まず肺静脈内から異常な電気が発生します。ここでは左上の肺静脈内から異常な電気が出てくる様子をオレンジ色の星と線で示しました。左上だけでなく、他の肺静脈からも異常な電気が出てくる可能性があります。
  2. 肺静脈から発生した異常な電気がたくさん出てくるうちに心房で電気がまわりだして、心房細動になります。
  3. カテーテルアブレーションは図に示すように肺静脈が左心房につながる部分に熱を加えて、異常な電気が肺静脈から左心房に入らないようにする治療です。これを肺静脈の電気的隔離といいます。以前は赤いラインで示すように肺静脈4本の周りに熱を加えていました。しかし肺静脈の中で熱を加えると肺静脈の狭窄、閉塞といった合併症が起こることがわかってきました。
  4. 最近ではこの図のように左右の肺静脈をまとめて治療する方法を行う施設が増えてきました。肺静脈狭窄はほとんど心配ありませんし、成績も向上しました。

慶應病院における心房細動のカテーテルアブレーション

慶應病院での心房細動のカテーテルアブレーションの特徴を挙げます。

1.治療成績が良い

アブレーション後の治癒率ですが、発作性心房細動の場合1回目のアブレーションで約80%が治ります。1回で治らない場合には、3か月くらい間を空けて2回目のアブレーションを行いますが、それで90%-95%の方の心房細動が治ります(図3)。

図3. 慶應病院での治療成績

図3. 慶應病院での治療成績

2.透視時間・手技時間が短い

カテーテルアブレーションは必ずレントゲン透視を用いながら行いますが、施設間で手技中の透視時間には大きな差があります。透視時間が長いとそれだけX線被曝量が多いということになります。慶應病院ではCARTOシステムという3次元マッピングシステムという磁場を用いた装置を併用してアブレーションを行っており、X線透視時間が発作性心房細動で15-20分程度、持続性心房細動で20-30分程度と、非常に短いのが特徴です。また手技時間に関しても発作性心房細動では2.5-3時間程度、持続性心房細動で3-4時間程度です。

3.肺静脈隔離が大きい

肺静脈内、あるいは肺静脈に近い部分で治療を行うと肺静脈狭窄という合併症を引き起こす可能性があります。慶應病院では肺静脈内で高周波通電しないように細心の注意を払っており、可能な限り肺静脈ではなく左心房側でアブレーションを行います。結果的に、非常に大きな隔離ラインでアブレーションを行っており、肺静脈と左心房の結合部周囲の異常な電気の発生源に対しても治療効果があり、より治療効果が高くなると考えられます(図4)。

図4. 慶應病院での治療の実際

図4. 慶應病院での治療の実際
赤い点がカテーテルアブレーションを行ったポイントです。肺静脈隔離のラインが大きいことが慶應病院の特徴で、結果的に肺静脈狭窄がなく、治療成績も良好です。

4.術後のフォローをしっかり行う

慶應病院では術後3か月から6カ月ほど、患者さんにカルジオフォンというPHSが内蔵された携帯型の心電計を持っていただき(図5)、動悸出現時など心電図をすぐに記録、慶應病院に送信することが可能で、きめ細かいフォローアップをしています。

図5. カルジオフォンのパンフレット

図5. カルジオフォンのパンフレット
このような携帯型の心電計で、しっかりフォローアップします。

5.持続性心房細動に対する治療方法

慶應病院では持続性心房細動に対しても積極的に治療を行い、肺静脈と左房後壁を同時に隔離するbox型隔離を行って、良好な治療成績を修めています(図6)。より大きな範囲を隔離し、心房細動の異常な電気的興奮が旋回できる範囲を狭めることで、治療効果を発揮すると考えています。

図6. BOX隔離術

図6. BOX隔離術

6.クライオバルーンアブレーション

発作性心房細動症例に対しては、クライオバルーンと呼ばれる冷凍凝固によって治療する方法での治療も行っています。従来の高周波アブレーションよりも手技時間が短くなり、トータル2時間前後で終了します。患者さんの負担の軽減に貢献する治療と考えています。

最後に

心房 細動による症状が強い、薬物療法ではなかなかよくならない、一生抗凝固薬を飲むのに抵抗を感じる等、心房細動の治療としてカテーテルアブレーションを考えたいという方は、是非慶應病院にご相談ください。

不整脈班 中央:筆者

不整脈班 中央:筆者

文責:循環器内科外部リンク

執筆:高月 誠司

最終更新日:2016年6月1日
記事作成日:2010年6月3日

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