東日本震災救援レポート 医療団派遣報告 -薬剤部編-
今回派遣された薬剤師のみなさん(イメージ)
薬剤師Rさん(派遣候補のひとり):画
慶應病院では、東日本大震災に際し、被災6日後の平成23年3月17日から5月3日まで、9班にわたり救援医療団を派遣しました。
そのうち5班に薬剤師が同行しましたので、その報告をさせていただきます。
慶應病院としては、3月17日から4月6日に宮城県気仙沼市、4月5日から14日まで岩手県陸前高田市、更に4月12日から5月3日までは精神科医をリーダーとした「心のケアチーム」を福島県南相馬市に派遣しました。
派遣場所の位置関係
都庁前での出陣風景。
たくさんの薬剤師が派遣候補に名乗り出ましたが、このうち薬剤師が派遣されたのは気仙沼市と陸前高田市の計5班でした。
派遣された薬剤師に一人ずつインタビューを行いましたので、早速聞いてみましょう。
<薬剤師Iくん アウトドア派>
3月20日~23日(被災10~13日目)
宮城県気仙沼市 避難所:K-wave(気仙沼市総合体育館)
■被災地の様子はどうでしたか?
一番最初に感じたのは臭いです。活動の拠点となった市民病院は高台の上にあり、海からもだいぶ離れているのですが、魚市場と表現したらよいのか、周辺いったいが海の臭いで覆われているのにびっくりしました。
■避難所の様子はどうでしたか?
K-waveは気仙沼市の最大の避難所で1000人を超える方々を収容している場所でした。
被災1週後でしたが、比較的皆さん落ち着いて過ごしていました。ただ、季節的にまだ気温が低く、暖房器具が使用できない状況であったため、風邪の方は多く見受けられました。
避難所内を見回ってお話を聞いていても、多くの方が「大丈夫ですよ」と言うだけで、何も訴えずに気を強く持っている方が多い印象でした。東北という地域の気質なのでしょうか?
■どのような活動をしましたか?
避難所に診療所を開設して風邪のような急性期の診療や、高血圧など慢性疾患の方で震災で薬をなくされた方への薬の処方を行いました。
避難所内を回り、衛生状況の確認や、動きのとりづらい方々への往診活動などもしました。
薬剤師としては都などより送られてくる救援薬剤・資材の仕分けなども行い、各派遣団が使いやすいような状態に整えるなど行いました。
■印象に残ったことは何ですか?
医師、看護師など他職種と同じ部屋で同じ仕事をするという経験はあまりなかったので非常に貴重な経験でした。
医師は診察、薬剤師は医師の求める薬効の薬を選択、看護師がケアとそれぞれが協力し合わないと成り立たない現場環境であり、非常に大変ではあったが、これがチームで医療を行うということなのだと実感した。
■災害に関する患者さんへのアドバイス
つらい状況は他の人もと思って我慢してしまいがちではありますが、独りで抱えてしまうと時間とともにつらさが大きくなってしまいますので、いろいろな方とお互いにお話をしたり、聞いたりすることは非常に大事なことかと思います。
<薬剤師Nくん コミュニケーション重視派>
3月30日~4月1日(被災20日~22日目)
宮城県気仙沼市 気仙沼市内 避難所:気仙沼高校、九条小学校
■被災地の様子はどうでしたか?
気仙沼湾内沿岸部は津波および火災によりほぼ壊滅状態でしたが、避難所のある高台の地域は比較的被害が少ないように感じました。ライフラインは津波、火災の被害を受けていない地域ではガス以外は復旧していたようです。
港湾部では工場や住宅が立ち並んでいた地域が一面がれきと化していてとても現実とは思えなかったこと、また建物の基礎の跡すらなくなっているのを見て津波の強さと怖さを痛感したことを覚えています。
■避難所の様子はどうでしたか?
気仙沼高校では避難されてきている方々が体育館、武道場、剣道場の3ヶ所に分かれて280名前後、九条小学校では30数名の方がいらっしゃいました。
発災直後は気仙沼高校に700名近い方が避難されていたことを考えるとだいぶ落ち着いてきた時期だったと思います。4月が近いとはいえ朝晩は0度近くまで気温が下がり避難されている方々が寝泊りしている板張りの体育館はまだ底冷えしていました。
避難所では有志で夜間の見回りを行ったり、連絡当番がいたり基本的な自治がありました。
避難所内部の様子
■どのような活動をしましたか?
気仙沼高校体育館横に設置された医務室での診療および、避難所での衛生面での指導、健康相談でした。
薬剤師としては対策本部から医務室への薬剤供給、医務室で医師からの処方を調剤し患者さんへの服薬説明を行うこと、避難所内の消毒剤の配置、避難されていた方々のお薬相談を行いました。
避難所内にある仮薬局の様子。
■印象に残ったことは何ですか
避難所内をお薬相談しながら巡回していたのですが、お話しながら血圧測定をしているとほぼ全員が普段より20~30近く高い値になっていたことに驚きました。震災によるストレスや寒さによる影響だと思います。
皆さんカップラーメンなど味の濃いものを召し上がっていたので、平時の高血圧の方の食事指導のように塩分を含むスープは残すことをお勧めしようと思ったのですが、暖を取れる食事はそれくらいしかないとの話をうかがってそれ以上は何も言えませんでした。
他にもお昼に配給される食事が食パン半斤とペットボトルのウーロン茶だったこと、巡回しながらおばあさんの薬の話を聞こうとしたところ目の前で孫が津波で流されたことを淡々と話してくださったことがとても印象に残っています。
避難所で配給されていた食事。
■災害に関する患者さんへのアドバイス
今回の震災では持っていたお薬手帳も津波で流されてしまい、どんな薬を飲まれていたのかまったくわからなくなってしまった方がとても多くいらっしゃいました。
お薬手帳は持っているだけではなく、普段から名前や飲み方も覚えるようにした方がいいと思います。また高齢の方がいらっしゃるご家庭では家族の使っている薬はなるべくみんなで覚えておくことをお勧めします。
全てのページに書き込んでしまい新しく手帳が交付されたために、不要になったお薬手帳を避難袋に入れておくと、少なくとも以前の薬がわかるのでいいかもしれません。可能でしたら避難袋に一週間分くらいの薬を保管しておくと、たとえ古くなったとしても内容がわかるので効果的だと思います。
<薬剤師Mくん 体力勝負派>
4月1日~4月5日(被災22日~26日目)
宮城県気仙沼市 気仙沼高校避難所・九条小学校避難所
■被災地の様子はどうでしたか?
気仙沼港付近は、テレビ等で報道されていたような一面がれきの山が広がるような状態でした。実際に現場に立つと、オイルと生臭さが混じった異様な匂いと、見渡す限りがれきの山が広がり、想像以上の光景で異空間にいるようでしばらく言葉が出ませんでした。
■避難所の様子はどうでしたか?
衛生面等、あまり良い環境とは言えない状態でした。体育館の冷たい床の上に毛布一枚敷いて暮らしているという状態です。
■どのような活動をしましたか?
気仙沼高校避難所(避難民250名程度)の仮設診療所内での調剤業務ならびに避難所住民の持参薬確認や薬の相談。また近隣避難所の九条小学校(避難民20名程度)への巡回診療。
避難所と対策本部への薬の輸送ならびに在庫管理を行っていました。
特に震災で今まで服用していた薬が無くなって、お困りの方が結構いました。
対策本部会議風景
東京都内病院を中心に全国各地から派遣された医療チームが一堂に集まった。
対策本部室内にある薬局
東京都薬剤師会より派遣された薬剤師にて運営されており、ここから各避難所へ医薬品を搬送。医薬品は東京都より提供
気仙沼高校避難所内仮設診療所内にて
(左2人は富山県より派遣の保健士ボランティア、中央は地元医師、右二人は慶應義塾大学病院チーム)
■印象に残ったことは何ですか?
避難所の方々は大変な生活を送りながらも、皆さん協力してとても明るくそして前向きに生活しているところが印象的でした。
■災害に関する患者さんへのアドバイス
特に慢性疾患(心臓疾患、糖尿病、高血圧)を患ってらっしゃる方は、普段より内服している薬も災害で非難する際に忘れないようにして下さい。
<薬剤師Kくん 野球好きのスポーツマン>
4月5日~10日(被災25日~30日目)
岩手県陸前高田市
■被災地の様子はどうでしたか?
被災地を初めて見た時は言葉を失いました。海岸から何kmも離れた陸地が津波に呑まれ荒れ果てた状態になっていました。津波がこんな所まで来るなんて誰も予想しなかったと思います。犠牲になられた方々のご冥福をお祈りいたします。
私が派遣された時期にがれきの撤去作業が始まりました。また被災者の仮設住宅への入居が始まりました。復興に向けて第一歩を歩みだしたものの先行きが何も見えず、被災地はまだ不安に包まれていました。
■避難所の様子はどうでしたか?
私は避難所には訪問していないので分かりません。
■どのような活動をしましたか?
主に県立高田病院の支援を行いました。津波によって病院の建物が倒壊してしまったので場所を米崎コミュニティーセンターに移し、外来患者さんの診療及び市役所職員の健康診断を行いました。薬剤師としての業務は、患者さんに処方されていた薬剤の確認及び現存する薬剤への代替案の提示、調剤、服薬指導、各地から輸送されてきた薬剤の管理を行いました。
被災地にて共に業務を行った薬局の方々と。(派遣最終日)
過酷な条件の中でも笑顔を絶やすことなく業務に励んでいらっしゃいました。お陰で患者さんの気持ちがほぐれていました。私達の行った業務が被災地復興の一助となれば幸いです。
■印象に残ったことは何ですか?
被災者の方々は肉体的にも精神的にも疲労を抱えていらっしゃいました。それにも関わらず不平や不満を述べる方は一人もいらっしゃいませんでした。この未曾有の事態を団結して乗り切ろうとされていた姿が印象的でした。
また被災地では他施設の医療従事者と協力し合い診療に向かいました。全員が「震災で苦しんでいる方を助ける」という共通の目標を抱き施設間の差を乗り越えて協力しました。医療の原点を見ることが出来た気がします。
■災害に関する患者さんへのアドバイス
今回の震災では津波によって薬やお薬手帳を失くされた方が多数いらっしゃいました。聞取調査を行っても自分がどんな病気を患い、どんな薬を服用しているかを理解されている方は少なく診療が難航しました。処方された薬剤の名前や規格、用法用量が分かれば多くの情報が手に入ります。御自身の身を守るためにも自分に処方されている薬をしっかり説明出来るように普段から心掛けて下さい。薬の数が多くて覚えきれない等お困りのことがありましたら薬剤師に相談して下さい。
<薬剤師Yさん 自然大好き派のアウトドア女子>
4月9日~14日(被災後約1ヶ月)
陸前高田市
■被災地の様子はどうでしたか?
信じられない光景が広がっていました。
■避難所の様子はどうでしたか?
医師、看護師、薬剤師で6名のチームを組んで近隣の小学校や公民館などの避難所へ訪問診療を行いました。避難所では被災者の方々が助け合って生活をしていました。そこで出会った炊き出し隊長のお母さんはとても明るく振舞っていましたが、実はいくつかの持病を抱えながら日々奮闘していることを知り、心を打たれました。
避難所訪問診療の様子
■どのような活動をしましたか?
陸前高田市の仮診療所や避難所において、薬の聞き取り、調剤、薬の情報提供など。
■印象に残ったことは何ですか?
陸前高田市で壊滅的な被害を受けた県立高田病院およびその近隣の調剤薬局のスタッフが、自らが被災者であるにもかかわらず、患者さんの手を握りしめ、勇気づけながら仮診療所での医療を行っている姿に医療の原点を感じました。現地の医療スタッフの方々の負担をいくらかでも軽減できるよう、私たちは今後も支援を続けていきたいと思いました。また、避難所を訪れた際に、被災者の方たちが体の調子が多少悪くても病院にかからずに辛抱強く生活していることを知り、心が痛みました。
陸前高田市の県立高田病院
■災害に関する患者さんへのアドバイス
今回の派遣先では、津波で薬も流されてしまった患者さんも多くいらっしゃいました。そのため、ご自身が服用されている薬の情報(お薬手帳など)を保険証と一緒に常に携帯しておくことをお勧めしたいと思います。
ありがとうございました。
インタビューは以上です。
最後になりましたが、災害からの復興を薬剤部スタッフ一同心よりお祈り申し上げます。
最終更新日:2011年7月1日
記事作成日:2011年7月1日
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