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腰椎椎間板ヘルニアの新たな治療 ~コンドリアーゼによる椎間板髄核融解術~ ―整形外科―

はじめに

ヒトの腰椎椎間板は5つあり、上半身の重みを下半身に伝えるとともに腰椎の前後屈や回旋などの運動を担っています。椎間板は加齢とともに変性が進み、日常生活やスポーツなどによる力学的な負荷により急に亀裂を生じることがあります。生じた亀裂から髄核という椎間板の成分が後方へ突出すること(ヘルニア)で、下肢へ向かう神経が圧迫され、腰痛、下肢の痛みやしびれが生じます(図1)。強い痛みで歩くことが困難になる場合もあります。また神経の圧迫が強い場合や非常に大きなヘルニア(巨大正中ヘルニア)が生じた場合には、下肢の脱力や排尿・排便障害を来すことがあります。この腰椎椎間板ヘルニアは通常の生活で急激に発症することが多いのですが、慢性的な腰痛や下肢痛でお困りの方の主な原因になっていることがあります。

図1.腰椎MRI矢状断像
L5-S1椎間板の後方への突出を認める(矢印)。

新しい治療について

これまでの椎間板ヘルニアの治療は、安静や痛み止めの内服、ブロック治療などの保存治療、そして保存療法の効果がない場合に、手術でヘルニアを摘出していました。 2018年8月より、椎間板髄核融解術が保険適応となり、新たな腰椎椎間板ヘルニアに対する治療の選択肢となりました。この治療法は、コンドリアーゼという薬剤を局所麻酔下に椎間板に注入することで椎間板内の髄核を化学的に溶かし、神経への圧迫を緩和します。この治療の成績は、治療後13週で有効率は約70%と報告されています。椎間板髄核融解術の特徴は、コンドリアーゼで椎間板髄核を融解させることで、皮膚切開をすることなく疼痛を軽減し、元の日常生活動作の獲得が可能なことです。

椎間板髄核融解術の方法

治療の具体的な方法は以下の通りです。

  1. 治療はX線透視室でX線(別名:レントゲン写真)を用いながら行います。検査台にご自身で横向きに寝ていただきます。
  2. X線でヘルニアがある椎間板を確認します。正面と側面の2方向から椎間板穿刺針(椎間板へ刺入する針)を挿入する場所が正確に見えるようにします(図2)。

    図2.
    X線透視で高位を確認し、局所麻酔を行う。

  3. 腰椎椎間板ヘルニアの約10~15cm外側から局所麻酔を行います。刺入する椎間板穿刺針の方向に十分に局所麻酔を浸潤させます。
  4. 椎間板穿刺針を用いてヘルニアのある椎間板を穿刺します。途中痛みが強いようであれば局所麻酔を追加します。穿刺の際、針が神経に近づいた場合には足への痛みやしびれが生じる場合があります。
  5. 単純X線で正面と側面の二方向から確認しながら、椎間板穿刺針の先端が椎間板の中央近くに来ていることを確認します(図3)。

    図3.単純X線透視:椎間板穿刺
     

  6. コンドリアーゼ1ccを椎間板内へ注入します(図4)。注入の際に一時的に痛みが出る可能性があります。注入が終わったら椎間板穿刺針を抜去します。

    図4.
    椎間板内へコンドリアーゼ1ccを注入する。

  7. 創部を消毒してガーゼもしくは絆創膏で覆います。所要時間はおおむね30~60分です。
    約3時間の安静の後に、歩行を開始します。
  8. 慶應義塾大学病院では1泊2日で治療を行っています。コンドリアーゼの効果が自覚できるようになるまでには、多くの場合、投与後2~4週間必要です。その後3か月程度かけて痛みの改善が期待できます。

合併症

本剤によるアレルギーが最も懸念されます。そのため、2回目の投与はできません。生涯に1度のみのコンドリアーゼ投与が認可されています。国内第Ⅱ/Ⅲ相試験及び第Ⅲ相試験(薬剤発売前の臨床試験)において、本剤が投与された229例中、発疹は6例(2.6%)でみられています。可能性は極めて低いですが、神経、血管、消化管に近い部位を穿刺しますのでそれぞれ損傷の可能性があります。また、穿刺後(2~4週)の一時的な腰痛、下肢痛の悪化が約30%報告されています。現在までに命にかかわるような重篤な合併症は報告されていません。

おわりに

本治療は保存治療の新たな選択肢です。腰椎椎間板ヘルニアによる痛みで困っている患者さんにとっては、治療の選択肢が増えることはとても喜ばしいことだと考えます。実際、多くの患者様が手術治療を回避することができたことを喜んでいます。一方、ヘルニアは切除しませんので、すぐに痛みが軽減しません。また、全てのタイプの腰椎椎間板ヘルニアが適応になるわけではありません。

慶應義塾大学病院整形外科脊椎脊髄班では、腰椎椎間板ヘルニアのみならず脊椎脊髄疾患の治療成績の向上や新たな治療法の研究に取り組んでいます。椎間板髄核融解術に関する質問がございましたら、脊椎脊髄班医師の外来でご相談ください。

慶應義塾大学病院整形外科脊椎脊髄班スタッフ

関連リンク

文責:整形外科外部リンク

執筆:岡田英次朗

最終更新日:2019年3月1日
記事作成日:2019年3月1日

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