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新しい鎮痛薬ヒドロモルフォンによるがん疼痛治療 ―緩和ケアセンター―

はじめに:オピオイド鎮痛薬とは

がん患者さんの約70%が、がん疼痛を経験すると言われています。がん疼痛は患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)低下につながる苦痛症状であり、緩和医療における治療対象の一つです。オピオイド鎮痛薬はがん疼痛治療で重要な役割を果たします。その代表として古くからモルヒネが利用されてきました。現在はモルヒネ以外にも様々なオピオイド鎮痛薬が利用され、がん患者さんのQOLやADL(Activity of Daily Living:日常生活動作)を維持・改善するための薬剤選択肢が増えています。本稿では最近日本でも使用可能となったオピオイド鎮痛薬の一つ、ヒドロモルフォンについてご紹介します。

オピオイド鎮痛薬の働き

内臓や筋肉・骨・皮膚などで起こった痛みの刺激は、末梢の感覚神経を通して脊髄の後角という箇所に伝達され、これが最終的に大脳に伝わることで「痛み」として認識されます。この痛み情報の伝達を抑制し痛みの感覚を和らげるための神経経路が生来備わっており、これを下行性抑制系といいます。脳幹から出た神経が脊髄後角に働きかけて、末梢神経から脊髄への痛み情報入力を抑制するものです。オピオイド鎮痛薬は、感覚神経による痛覚伝達を抑制したり、下行性抑制系の働きを賦活化することで鎮痛作用をもたらします。法律上、一部は麻薬として扱われます。

ヒドロモルフォン(ナルサス®、ナルラピド®

ヒドロモルフォンは、μオピオイド受容体に作用し鎮痛効果を発揮する半合成オピオイド鎮痛薬です。 構造的にモルヒネと類似し、鎮痛効果や副作用はモルヒネやオキシコドンとほぼ同等と言われています。海外では1920年代から利用されてきました。WHO方式がん疼痛治療法でも、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどと共に、「中等度から高度の痛みに対して使用する強オピオイド」として分類されています(WHO編. がんの痛みからの解放―WHO方式がん疼痛治療法―第2版, 東京, 金原出版, 1996による)。

日本では長らく未承認でしたが、2017年6月にヒドロモルフォン経口薬として、持続痛に対して定期服用する徐放性製剤(ナルサス®外部リンク)と、突出痛に対して臨時服用する即放性製剤(ナルラピド®外部リンク)が発売されました。ここでは、ヒドロモルフォンの薬理学的特徴などから、1)ヒドロモルフォンを選択するのはどのような場面か、2)使用にあたっての注意すべき点は何かについて、いくつかの例をお示しします。

ヒドロモルフォンを選択するのはどのような場面か?

数種のオピオイド鎮痛薬の中からヒドロモルフォンを選択するのはどのような場面においてでしょうか?いくつかの例をお示しします。

他のオピオイド鎮痛薬からの変更

オピオイド鎮痛薬を使っていて効果が不十分な場合や副作用が出た場合に、薬剤変更を行うことがあります。ヒドロモルフォン経口薬の鎮痛効果は、同用量のモルヒネ経口薬の約5倍とされています。これをもとにヒドロモルフォン1日用量を算出しますが、この換算比はあくまで目安であり、最終的には個々の患者さんの状況に応じて具体的な用量を決定します。

オピオイド鎮痛薬を少ない量から始めたい場合

例えば、経口モルヒネで定期服用に使用する徐放性製剤は20㎎/日が最少用量となります。これに対して、経口ヒドロモルフォン徐放性製剤では2㎎/日(経口モルヒネ換算で10㎎/日)が最少用量ですので、より少ない量から始めることができます。

内服負担を減らしたい場合

ヒドロモルフォン徐放性製剤は1日1回服用のため、1日に何度も錠剤をのむことに負担のある方は負担低減となります。

代謝酵素チトクロームP450(CYP)の誘導・阻害に関わる薬剤との併用時

ヒドロモルフォンの主な代謝経路は肝でのグルクロン酸抱合です。CYPによって代謝を受ける薬との相互作用は起こりません。

呼吸困難への利用の可能性(保険適用外)

モルヒネ経口薬は、鎮咳にも適用されます。日本緩和医療学会のがん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン外部リンク(2016年版)では、がんによる呼吸困難に対してモルヒネの全身投与(内服や注射など)が推奨されています。ヒドロモルフォンはモルヒネと構造が似ていることから、呼吸困難や咳嗽による苦痛が緩和できる可能性があります。欧州臨床腫瘍学会のガイドラインでは、がんによる呼吸困難の治療薬としてモルヒネ、ヒドロモルフォンを挙げていますが、現在日本では保険適用外です。

ヒドロモルフォン使用に当たって、注意すべき点は何か?

ヒドロモルフォン使用時の注意点をお示しします。

腎機能障害時、肝機能障害時

腎機能や肝機能が低下した方では、これらの機能が正常な方に比べてヒドロモルフォンの血中濃度が高くなるため、副作用が出現しないよう、慎重に観察し用量調整を継続します。

食事の影響

空腹時と比較して食後内服時で、ヒドロモルフォンの血中濃度が上昇したという報告もあります。服薬時の条件(内服予定時刻と食事の時間間隔など)をある程度決めておくことが望ましいでしょう。

オピオイド鎮痛薬としての副作用

どのオピオイド鎮痛薬でも、眠気、吐き気、便秘などの副作用に注意します。これらの症状は、オピオイド鎮痛薬以外の原因でも起こります。症状の原因を見極め、それに応じた適切な対処が必要です。

眠気:

ヒドロモルフォン開始後・増量後に眠気が強まることがありますが通常は数日で改善します。強い眠気が続く場合には医師にご相談ください。

吐き気:

ヒドロモルフォンを使い始めて吐き気がでる方もいますが、1~2週間でおさまることが多く、その間は吐き気止め(制吐剤)を併用して対応します。

便秘:

オピオイド鎮痛薬によって便秘が起こっている場合(=オピオイド誘発性便秘症、opioid-induced constipation: OIC)は、通常の排便調整(便秘薬や浣腸など)のほかにOIC治療薬ナルデメジン(スインプロイク®外部リンク、2017年6月発売)も選択肢となります。


副作用があっても、オピオイド鎮痛薬の連用中に急激に減量したり突然中止すると、退薬症候(発汗、あくび、不安、不眠、落ち着かない、など)が出現することもありますので、副作用の対症療法をしつつ徐々にオピオイド鎮痛薬を減量したり他の鎮痛薬に変更するなどの手順を踏む必要があります。副作用と考えられる症状の出現時は医師に報告し対応についてご相談ください。

服用困難時

2017年現在、日本で認可されているヒドロモルフォンは経口薬のみですので、服用困難時は他の薬剤の非経口投与(注射薬、貼付薬、坐薬など)へ変更が必要です。これも、医師に報告し対応についてご相談ください。

麻薬指定薬

ヒドロモルフォンは麻薬及び向精神薬取締法の規制対象薬で、法令に準拠した取り扱いが必要です。

今回は、新たにがん性疼痛の薬物療法における選択肢として日本でも使用可能となったヒドロモルフォンについて取り上げましたが、その他のどのオピオイド鎮痛薬にもそれぞれ特性があります。患者さん一人ひとりに合った薬剤の選択・調整が必要です。

慶應義塾大学病院の緩和ケアチーム

緩和医療では、症状に対する薬物療法以外に、ケアや環境調整なども重要です。当院では、2007年10月より緩和ケアチームが活動しています。緩和ケアチームとは、入院中の患者さんの苦痛について、主治医とともにサポートを行う多職種からなるチームです。2010年には腫瘍センター内に緩和ケア外来が設置され、2013年10月からは緩和ケアセンターとして組織化されました。外来・入院を通じて患者さんの体のつらさ、心のつらさ、療養環境の調整などについての診療・支援を行うほか、医療者向けの研修・教育活動も行っています。

関連リンク

緩和ケアチーム

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文責:緩和ケアセンター 外部リンク

執筆:瀧野陽子

最終更新日:2017年10月1日
記事作成日:2017年10月1日

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