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頭蓋縫合早期癒合症の治療‐チーム医療の実践‐ ―形成外科―

はじめに

頭蓋縫合早期癒合症は、何らかの原因で頭蓋縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう生まれつきの病気です。発症数も少なく、さまざまな情報源で調べても十分な知識が得られません。慶應義塾大学病院では形成外科・脳神経外科・小児科・麻酔科・看護師によるチーム医療を行い、この病気の治療に力を入れております。頭蓋縫合早期癒合症について当院での取り組みをご紹介します。

図1.頭蓋縫合早期癒合症治療チーム 前列右から2番目:筆者

頭蓋縫合早期癒合症治療チーム
前列右から2番目:筆者
当院では手術治療と全身状態の管理、そして患者さんの術前術後の発達やご家族の不安をサポートできるよう、多職種によるチーム医療を行っております。

頭蓋縫合が早くに閉じるとどうなるの?

頭蓋骨は、一つの骨ではなく、いくつかの骨がつなぎ合わさって頭蓋骨を形作っています。この骨と骨とのつなぎ目を頭蓋縫合と呼びます。

母子手帳には成長曲線が書いてありますが、それを見ると身長や体重が大人の9割くらいの大きさになるのは10歳を過ぎてからです。しかし頭の大きさ(頭囲)は2歳までに大人の9割くらいの大きさになります。体が大きくなるのは背骨や腕、足の骨が大きくなるからですが、頭が大きくなるのは脳が大きくなるからです。脳が大きくなる時に、頭蓋縫合がさけるようにして広がっていくことで頭蓋骨も成長していきます。この頭蓋縫合が脳の成長途中にくっついてしまう(癒合)と、脳が成長しようとしても広がることができません。そのため脳の正常な成長と発達が妨げられてしまいます。またそれでも頑張って脳は成長しようとするために、ほかの縫合をもっと広げようとしますので、頭の形が変形してしまいます。そのため1)正常な脳発育を促すこと、2)変形した頭の形の改善のために手術が必要になります。

治療法

頭蓋縫合早期癒合症といっても患者さんの変形の程度はさまざまです。そのため当院では変形の程度や治療時期に合わせて治療法を決定しています。具体的な流れと各々の手術法について示します(図1)。

図1.治療法決定までのながれ

図1.治療法決定までのながれ

縫合切除

生後6か月以内に手術ができる矢状縫合早期癒合症に対して行います。癒合した縫合を切除して、外側の骨に3~4本の切れ込みを入れます。人工的に縫合を作ることで、脳が成長できるようになり、また今後の脳の成長に合わせて徐々に形も変わっていきます(図2)。

この方法の利点は手術時間の短さと簡便さですが、治療時期が6か月までと制限があります。手術から1週間後に退院となります。

図2.生後5か月の矢状縫合早期癒合に対して縫合切除を行った症例

図2.生後5か月の矢状縫合早期癒合に対して縫合切除を行った症例
手術前は長かった頭蓋骨(図一番左)だが、骨に切れ込みをいれて切除するだけで、術後2年で長かった頭蓋形態が改善している(図一番右)。

一期的頭蓋形成術

頭の骨をいくつかのパーツに分解して新たにきれいな形になるように組み替える手術が一期的頭蓋形成術です。一期的頭蓋形成術は1回の手術で治療が完了します。組み替えるときには骨同士を固定しないといけません。骨を固定する材料はいくつかありますが、当院では1年かけて溶けてなくなる吸収性プレートを使っています(図3)。そのため将来、体の中に異物が残ることもありません。この手術を行った場合も手術から1週間後に退院となります。

さてこの手術で、頭の容積を大きくした分、手術直後には骨のない部分ができてしまいます。ただ赤ちゃんには骨を作り出す力がありますので、しばらくすると骨のない部分にも骨ができてきます。ただ言い換えると一期的頭蓋形成術は赤ちゃん(おおよそ2歳まで)にしか実施できないということになります。

図3.生後11か月の前頭縫合早期癒合症(三角頭蓋)に対して一期的頭蓋形成術を行った症例

図3.生後11か月の前頭縫合早期癒合症(三角頭蓋)に対して一期的頭蓋形成術を行った症例
手術前はおでこが三角形にとびでている(図一番左)。手術ではテンプレートをあてて、きれいなおでことなる部分を探して、骨を組み替えて、吸収性プレートで固定している。術後2年が経過して、良好な頭蓋形態を保てている(図一番右)。

MoD法(骨延長法)

2歳を過ぎてしまうと骨を作り出す力は弱くなってしまいます。また2歳未満であっても頭蓋を非常に大きくしないといけない場合、頭蓋は大きくできたけれども、皮膚が縫い閉じられなくなってしまいます。そこで行うのが骨延長法です。骨を切ってその隙間を少しずつ伸ばしていくとその間に骨が作られていきます。また少しずつ大きくしていくために皮膚も風船のように広がっていきます。

これまでも頭蓋への骨延長法はありましたが、頭を大きくするだけで形の改善はおろそかにされていました。私たちはこれまでの治療経験から脳そのものが本来あるべき形に広がろうとする力にまかせることできれいな形に拡大できることを見出し、MoD法(Morcellation Craniotomy of Distraction Osteogenesis)を考案し、専用の骨延長器も開発しました(図4)。1日1ミリずつ大きくしていくために、一期的頭蓋形成術に比べて入院期間は長くおおそよ1か月の入院となります。また半年後に延長器を取り外す手術が必要になります。

図4.アペール症候群に対して、MoD法を行った症例

図4.アペール症候群に対して、MoD法を行った症例
術前(生後6か月、図左)。頭蓋を後方に延長(生後9か月、図中央)。頭蓋を前方に延長(生後12か月、図右)

顔の変形に対する手術(LeFort型骨延長術)

症候群性頭蓋縫合早期癒合症の場合には頭だけではなく、目が飛び出ている・受け口・いびきがひどい(上気道狭窄)といった症状もあります。特徴的な顔つきにもなりますので、改善のために顔の骨を前に移動する手術を行います。この手術のことをLeFort(ルフォー)型骨延長術と言います。他施設では手術の後に大きな装置を1か月くらいつけることになります。しかし、この装置をつけたままでは通学など日常生活に支障をきたします。私たちはこの手術にも独自の骨延長器を使いますので、延長器は髪の毛にかくれて見えませんし、日常生活も支障なく送ることができます(図5)。

図5.17歳のクルーゾン症候群に対してLeFort型骨延長を行った症例

図5.17歳のクルーゾン症候群に対してLeFort型骨延長を行った症例
術前CTでは反対咬合が確認できる(図左)が、それ以外にも眼球突出やいびきがみられた。上顎だけでなく、顔の骨全体を延長器を用いて前方移動させた(図中央)。当院で使用している延長器は棒状のもので毛髪内に隠れるため、退院後の日常生活も人目を気にすることなく送ることが可能である。延長器を抜去すると隙間には骨形成がみられ、反対咬合が改善しているのがわかる(図右)。またいびきも消失し、眼球突出も改善している。

さいごに

頭蓋縫合早期癒合症はこどもの病気です。脳の発達のことを考えると、ご家族には初診から検査をして治療を行うまで正直あまりゆっくり考える時間がありません。外来ではじっくりと説明させていただいておりますが、より詳しくお聞きになられたい方はセカンドオピニオン外来の受診をおすすめしております。また各種疾患や治療の詳細は当院形成外科の頭蓋顎顔面変形外来外部リンクの案内をご参照ください。

文責:形成外科外部リンク

執筆:坂本好昭

最終更新日:2017年7月1日
記事作成日:2017年7月1日

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