
災害リハビリテーションの取り組み ―リハビリテーション科―
災害リハビリテーションとは
地震・津波・台風などの自然災害や大規模事故などの人的災害を含む災害時には、災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team; DMAT)などによる救命救急を主体とした医療支援が重要なのはニュースなどで良く知られているところです。近年、立て続けに発生した大規模災害において、災害時要支援者である高齢者や障害児者等へのリハビリテーションや生活支援、二次障害の予防に向けた支援活動の重要性と必要性が強く認識されるようになりました。
リハビリテーション関連団体としては、日本リハビリテーション医学会、日本理学療法士・作業療法士・言語聴覚士協会のほか日本義肢装具士・回復期リハビリテーション病棟・日本訪問リハビリテーション・全国デイケア協会など多職種の独立した組織が存在していました。2011年3月11日に発生した東日本大震災において甚大な被害に直面し、各種関連団体が手を携えて被災者・被災地の支援に取り組むことの必要性が強く認識され、2011年4月に「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」が結成されました。その活動経験をもとに、2013年7月に「大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(Japan Disaster Rehabilitation Assistance Team: JRAT)」が発足し、2020年4月には一般社団法人になりました。現在では、「国土強靭化計画(レジリエンスジャパン)」においても、JRATの重要性が明記されています。
災害リハビリテーション支援活動の実際
災害リハビリテーションは、発災直後から復興までにかけて経時的状況変化に応じた支援を行います。関連団体が一団となって被災者、被災地のための支援活動を効率的・効果的に展開していきます。
被災混乱期
発災直後から約72時間はライフライン・交通網・情報網の破綻とともに、行政・医療・介護機能の破綻・混乱期です。現地リハビリテーション関係者が主体となり、リハビリテーション対象者の状況把握、簡易ベッドや手すりの設置など避難所環境整備等、DMATの補助的な活動や現地のリハビリテーションニーズの情報収集・発信を行います。
応急修復期
発災後4日目から1か月までの時期で、破綻したライフラインや交通網・情報網が復旧し始め、行政等の指示命令系統が整備されます。リハビリテーション科医・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・介護福祉士・栄養士・介護支援専門員・社会福祉士などで構成するリハビリテーション支援チーム(JRAT)の活動が開始されます。避難所における被災者の生活状況の把握を行い、高齢者や障害児者等の要配慮者が避難生活を混乱なく開始できるように支援します。具体的には避難所の環境整備、食事・清潔・排泄・移動などのセルフケアの支援、感染症やうつ症状の予防、深部静脈血栓症・生活不活発による弊害に対して注意喚起や運動療法の実践を行います。
復旧期
発災2か月目から6か月の期間で、避難所の集約化が始まるとともに、二次避難所・福祉避難所への移行・運営、応急仮設住宅での生活が開始されます。JRATは引き続き当該避難所生活に対する生活不活発病の予防や、福祉避難所・仮設住宅での生活支援や帰宅者の孤立化対策を行います。避難生活の長期化を見据え、定期的な運動療法の励行指導や仮設住宅でのアクティビティの集いなども支援の一つです。
復興期
発災6か月以降の地域生活の安定・維持・向上を目指しながら新たな街づくりへと復興していく時期です。JRATなど外部支援チームは撤退し、地域のリハビリテーションチームや現地関係者により新しい街づくりやコミュニティ作りなど生活再建に必要な地域リハビリテーション活動を行います。
慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室での取り組み
当教室の前教授の里宇明元名誉教授は、東日本大震災当時から被災地支援やJRAT等の組織・体制整備において中心的な役割を果たし、大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会シンクタンク代表(顧問)・研修企画委員会委員長を務めていたことから、当教室では、災害リハビリテーション研修会の開催、マニュアルの作成、テキストの発刊等、災害リハビリテーションの普及・啓発、専門的人材育成に関する活動に取り組んできました。
実際の活動経験としては、2015年茨城JRAT関東・東北豪雨災害支援への対応として、被災後のエコノミークラス症候群予防に対して弾性包帯取扱業者への協力要請を中心に支援物資調達協力を行いました。 2016年熊本地震への対応では、各病院・団体の立場で教室員がJRAT本部運営に当たり、現地視察を行いました。また、多職種を率いて4チームが現地支援活動をしました(図1)。

図1.
熊本地震の応急修復期、現地本部で諸団体との合同会議の様子。患者情報やリハビリテーション支援活動の目的を共有し、JRATのリハビリテーション医が各チームへ避難所での運動不足解消を目的に集団体操の指導を指示しているところ。
平時の啓蒙活動としては、平成26(2014)年度、平成27(2015)年度東京都在宅療養推進区市町村支援事業「医学的ケアを要する在宅療養患者の災害時支援事業」として災害リハに関する研修会やイベント開催に参画しました。
なお、2021年4月からは、JRAT東京支部事務局を当教室が務めることとなりました。
今後の展望
我が国では避けることができない地震や豪雨などの自然災害に対し、災害発生時の迅速かつ的確な対応を行うため、平時の備えとして災害リハビリテーションの教育・研修・啓蒙活動を行なってまいります。
大規模災害に限らず、近年頻発している局地的災害に対しても同じ備えが必要で、日頃からの各種団体・行政との連携を充実させてまいります。
参考文献
・災害リハビリテーション標準テキスト / 大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会企画・編集
東京 : 医歯薬出版, 2018.6
関連リンク
- 一般社団法人 日本災害リハビリテーション支援協会 (Japan Disaster Rehabilitation Assistance Team: JRAT)
- 慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室
文責:リハビリテーション科
執筆:和田彩子
最終更新日:2021年3月1日
記事作成日:2021年3月1日

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