外科的切除が困難な腫瘍にエキスパート達が集結し挑む:大血管浸潤腫瘍治療センターの設立
―大血管浸潤腫瘍治療センター―
はじめに
身体の中の腫瘍が、大動脈や下大静脈といった大血管を巻き込んで広がる(浸潤する)ことがあります。大血管へと浸潤した腫瘍(大血管浸潤腫瘍)は、一般的には外科的治療が困難であり手術不能とされることが多い、非常に難治性の高い腫瘍です。最初は外科的治療が不可能であっても、化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療によって、外科的手術が可能になる症例(conversion手術)もあります。しかしながら、外科的に切除するためには、他の臓器を一緒に切除(他臓器合併切除)することや、浸潤された大血管を切除し再建すること(大血管合併切除再建)、各臓器の術中血流維持が必要となり非常に大きな手術となるため、手術が可能な施設は限られています。
慶應義塾大学病院では、診断、化学療法、放射線療法、手術、周術期管理、集学的治療のすべてにおいて、各診療科のエキスパートが集結し、一枚岩のチームとなって診療を行っております。これまでの多くの診療経験を基に、症例ごとに適切な治療方法を検討し、あらゆる治療を実践しております。他院では手術適応がないと判断された症例でも、当院では手術が可能な場合がございますので、いつでも当チームにご相談ください。
下大静脈進展腫瘍とは
下大静脈進展腫瘍とは、心臓に戻る大血管の一つである下大静脈に進展した腫瘍のことを指します。下大静脈は、両側の足からの静脈が合流した後に、腎臓や肝臓や子宮/卵巣からの静脈が合流し、心臓の右房へと合流します。そのため腎がんや肝臓がんや子宮/卵巣腫瘍などが進行した場合に、腫瘍が下大静脈に進展してしまうことが少なくありません(図1)。
図1
下大静脈へと進展した腫瘍は、腫瘍が剥がれて肺に詰まってしまうことや、心臓の右房にまで腫瘍が進展することで突然死を引き起こす可能性があり、緊急性の高い疾患と考えられます。しかし、一般的な外科的手術では治療が困難であり、腫瘍の場所によっては、肝臓外科や心臓血管外科を含む多診療科による合同手術が必要となるため、手術は限られた施設でしか行えません。当院では、これまでに多数の下大静脈進展腫瘍に対して手術を施行した実績を有しており、人工心肺を併用しながら右房に進展した腫瘍を直接摘出する手術(図2)や、肝臓の裏の下大静脈(肝部下大静脈)を人工血管で修復する手術なども行っております。
図2
肝移植の技術を取り入れた高度手術
当院では肝移植を積極的に行っており、高い診療実績を有しております(詳細は臓器移植センターをご参照ください)。大血管浸潤腫瘍の治療において、体内での腫瘍の切除が困難と考えられる症例においては、腫瘍ごと臓器を患者さんの体外へと取り出し、体外にて腫瘍を切除し、臓器を再度患者さんの身体へと移植する手術(自家移植手術、ex vivo手術)なども考慮します。当院では豊富な臓器移植の経験を活かし、様々な高難度手術を手掛けております。
当センターで取り扱っている疾患
- 各種大血管へ浸潤したあらゆる腫瘍(消化器腫瘍、婦人科腫瘍、泌尿器腫瘍、呼吸器腫瘍、骨軟部腫瘍、血管肉腫、肉腫、下大静脈進展腫瘍など)
- 他院で外科的手術が困難と判断された症例
大血管浸潤腫瘍治療センター運営体制
一般・消化器外科、呼吸器外科、泌尿器科、産科・婦人科、整形外科、小児外科と、体外循環手術を担う心臓血管外科を中心として、外来窓口となる消化器内科、呼吸器内科、腫瘍センター、周術期管理と診断および治療を担う手術・血管造影センター、麻酔科、循環器内科、病理診断科、放射線診断科、臨床検査科、輸血・細胞療法センター、医用工学室、感染制御部、薬剤部、救急科が連携して診療を行っております。
各診療科のうち、一般・消化器外科血管班が主な窓口となっておりますので、お気軽に当センターまでご相談ください(メールによるお問い合わせも受け付けております)。
文責:大血管浸潤腫瘍治療センター
執筆:林応典
最終更新日:2024年4月1日
記事作成日:2024年4月1日
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