歯周組織再生療法 ―歯科・口腔外科―
概要
歯科の2大疾患の1つである歯周病は、その発症と進行によって歯の喪失が生じると、口腔機能障害を引き起こし、歯や口腔の健康に悪影響を及ぼします。歯周病は生活習慣病として位置づけられ、糖尿病などの全身性疾患とも関連しており、全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。また我が国の歯周病の有病率は他の疾患と比較して高く、特に中高年以降、急速に歯を失う傾向があります。
歯周病は、歯周病原細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患であり、歯周組織(歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨)を破壊する疾患です。歯周病が進行する速度は、比較的緩慢で、ほとんどのケースにおいて数年単位で進行します。そのため自覚症状に乏しく、患者さん自身が歯の動揺や歯肉からの出血を自覚したときには、歯槽骨の吸収などの歯周組織の破壊が重度に進行している場合があります。このことから、歯周病の治療および予防への取り組みは極めて重要な課題となっています。
歯周病の治療
歯周病の治療は大きく分けて歯周基本治療と歯周外科手術の2つがあります。歯周基本治療は全ての歯周病患者さんに対して行われる治療であり、歯周病の原因であるプラークや歯石(これらを総称してバイオフィルムともいいます)を除去し、また患者さん自身が徹底したプラークコントロールを行うことで歯周病の症状を改善させるために行います。歯周病の症状が比較的軽度の場合は、歯周基本治療で症状は改善し、病態の進行は停止します。しかし、歯周病の症状が中等度から重度になると、歯周基本治療では改善しない深い歯周ポケットや複雑な歯槽骨の欠損が残存する可能性が高く、その際に歯周外科手術が適応になることがあります。
歯周外科手術は、歯肉を切開して剥離することで、歯や歯槽骨が明確にみえる状態にし、歯周基本治療では除去しきれない部分のバイオフィルムの除去を行う方法です。この際に、歯槽骨の欠損の形態に応じて、歯周組織再生材料を併用・応用することで、歯周組織(歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨)を再生させる方法が歯周組織再生療法です。
歯周組織再生療法
歯周組織再生療法は、歯周病により失われた歯周組織(歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨)を再生させる目的で行われます。手術を成功させるために重要なことは、術前に正確な診査を行い、歯周基本治療によって症状が安定しなかった病変が再生療法の適応症であるかどうかを見極めることです。そのため、従来のデンタルエックス線写真に加えて、三次元的に骨欠損形態を把握するために、歯科用コーンビームCTを撮影する場合があります。また、口腔衛生状態が不良である場合や喫煙は、歯周組織の創傷治癒を遅延させ、その結果手術の成功率を低下させてしまうため、手術前と手術後の徹底したプラークコントロールや禁煙が強く推奨されます。
手術は歯肉を切開し、明視下でプラークや歯石、炎症性の組織を除去します。その後、骨欠損に種々の歯周組織再生材料を適用し、縫合します。手術時間は約1時間30分-2時間です。通常、手術日の約2週間後に抜糸をします。
術後は患部の確認やケアを月1-2回の頻度で定期的に行い、手術後6か月ほど経過を観察したあとに歯周組織の再検査および再評価を行います。歯周組織再生療法は、技術や材料の進歩により、高い成功率が得られるようになりましたが、もし病変が残存した場合は、追加的な治療が必要になることがあります。
歯周組織再生療法に用いられる歯周組織再生材料
- エムドゲイン®
歯の発生の際に重要な役割を果たすタンパク質として、エナメルマトリックスタンパク質があります。このタンパク質は歯周組織再生に役立つと考えられており、エムドゲインはこのエナメルマトリックスタンパク質を含んだ歯周組織再生材料です。
- バイオオス®
骨移植材料で、歯周病による骨欠損部位に応用することで、骨再生の促進が期待されます。
- バイオガイド®
吸収性のコラーゲン膜で、骨移植材と共に歯槽骨欠損部分に応用することで、骨再生の促進が期待されます。
- リグロス®
塩基性線維芽細胞増殖因子と呼ばれる成長因子で、人工的に精製されたタンパク質です。この成長因子の作用により歯周組織の細胞を増殖させることで、失われた歯槽骨や歯根膜の再生が期待されます。
- サイトランス グラニュール®
炭酸アパタイトを主成分とする骨移植材料で、歯周病による骨欠損部位に応用することで、骨再生の促進が期待されます。
- サイトランス エラシールド®
化学的に合成された重合体を原材料とした吸収性膜で、骨移植材と共に歯槽骨欠損部分に応用することで、骨再生の促進が期待されます。
慶應義塾大学病院での治療の特徴
- 歯周病専門医・指導医が在籍しており、適切な診査診断のもと、患者さんの「歯の保存」と「咀嚼機能の改善」、そして口腔の健康改善から全身の健康状態の向上を目的に、積極的に歯周病治療に取り組んでいます。
- 全身疾患を有する患者さんに対しても、他科と連携を行い、安全に治療を行っています。
関連リンク
歯科・口腔外科診療スタッフ
文責:歯科・口腔外科
執筆:柴崎竣一、森川暁、小沼寛明
最終更新日:2022年2月1日
記事作成日:2022年2月1日
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