最新ロボット(ダヴィンチXi)を用いた腹腔鏡下前立腺全摘術 -泌尿器科-
手術支援ロボット「ダヴィンチ サージカルシステム」の導入
ここでご紹介するロボット支援手術とは、手術支援ロボット「ダヴィンチ サージカルシステム」を使用して行う腹腔鏡手術のことです。2016年3月現在、わが国において保険収載されているロボット支援手術は「ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術」のみです。
前立腺全摘術とは?
がん化した前立腺をすべて摘除する手術を前立腺全摘除術といいます。アメリカ泌尿器科学会の「前立腺がんマネジメントガイドライン」には「前立腺全摘除術の最大のメリットは限局性前立腺がんを治癒させること」と定義されています。限局性前立腺がんとは遠隔転移がなく前立腺内にがんがとどまるものを指します。最近の臨床試験では、放射線治療と比較して前立腺全摘除術により限局性前立腺がんの生存率が向上することが分かっています。
腹腔鏡下前立腺全摘術とは?
過去には前立腺がん手術は開腹手術で行われていましたが、当院では2000年より腹腔鏡下前立腺全摘術(以下、腹腔鏡手術)を導入し、これまで1100人以上の患者さんが安全に手術を受けられてきました。腹腔鏡手術では、医師は5個の約1cmの切開創から長い鉗子と小さな内視鏡を入れて、腹腔内を映し出すテレビモニターの画像を見ながら手術を行います。腹腔鏡手術で患者さんが受ける最大のメリットは、小さな切開創、気腹圧(10mmHgという比較的高い圧で二酸化炭素を注入し腹腔を膨らますこと)による出血量の大幅な減少、入院期間を短くすることです。結果として患者さんには少ない痛み、輸血の可能性の低減、早期の社会復帰をもたらします(図1)。
図1 開腹手術における切開部(左)および腹腔鏡下前立腺全摘術における切開部(右)
最新機種「ダヴィンチXi」を使った腹腔鏡手術
当院では2015年12月より手術支援ロボットであるダヴィンチ サージカルシステムの最新機種「ダヴィンチXi」を導入し、この腹腔鏡手術を行っています。ダヴィンチXiは高画質で立体的な3Dハイビジョンの手術画像の下、人間の手の動きを正確に再現する装置です。ダヴィンチは世界の外科手術に大きな変革をもたらし、前立腺がん、腎臓がん、胃がん、大腸がん、食道がん、子宮がんなどに適応されてきました。これまで日本国内でも年間約12000件(2015年現在)の前立腺全摘術がダヴィンチにより施行されています(図2)。
図2 ダヴィンチ最新機種「ダヴィンチXi」
ダヴィンチの特長
ダヴィンチを使用することで従来の腹腔鏡手術に比べ、医師は鮮明な画像の下、より精緻な手術を行うことが可能となりました。その結果、より良い神経温存手術(より良好な性機能温存)、出血の抑制による輸血の可能性の更なる低減、排尿機能のより早い回復が期待できます。
ダヴィンチ自身が医師の考えに従わず勝手に作動することはありません。ダヴィンチを使ったロボット支援手術は十分にトレーニングを受けた医師の操作によって実施されます。医師がダヴィンチを操作すると、システムは医師の両手の動きを患者さんの体内にある鉗子により細かく精緻な動きまで反映します(動画1・2)。
動画1「ダヴィンチで折り紙を折る」
動画2「ダヴィンチが縫う」
最新機種「ダヴィンチXi」
2015年12月、当院に導入されたダヴィンチXiは手術支援ロボットの従来機種であるダヴィンチSiの後継機種として開発されました。このダヴィンチXiの特長はロボットアームがより細くなり、ロボットアーム同士の干渉を低減することが可能となるため、手術時間の短縮とより精緻な手術を可能としました。また、ロボットアームに一つ関節が増えたため、よりアプローチの難しかった部位へのアプローチが可能となり医師の可動域が増えました(動画3)。また、血管シーリングシステムや単孔式手術にも適応可能であり、まさに「すべての将来技術に対応したプラットフォーム」と言っても過言ではありません。
動画3「実際の手術でのダヴィンチXi」
ダヴィンチXiを使用したロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術の適応
75歳以下の男性で限局性前立腺がんを有する患者さんが適応となります。前立腺針生検を施行した結果、前立腺がんと病理診断された場合、前立腺がんの広がりをMRI、CT、骨シンチグラムを施行して確認します。
手術は約3時間ですが、患者さんを25度の頭低位にして手術を行うため、眼圧の高い方は適応にならない場合があるので、手術前に当院眼科を受診して頂きます。また骨盤内手術を施行された方、血液凝固異常、出血しやすい患者さんも適応外となる場合があります。手術前に全身状態を十分に精査して手術適応を決めていくため、手術適応にならない場合もありますのでご了承ください。
関連リンク
ダヴィンチチーム
ダヴィンチに関わる医師(泌尿器科、麻酔科、眼科)、看護師、臨床工学技士らでチーム一丸となり、患者さんの治療・サポートにあたっています。
文責:泌尿器科
執筆:宮嶋 哲
最終更新日:2017年6月28日
記事作成日:2016年4月1日
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