子宮頸部異形成に対する子宮頸部レーザー蒸散術 ―婦人科―
はじめに
子宮頸部異形成(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)は、子宮頸がんの前がん病変と考えられており、その病変の程度により軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、高度異形成(CIN3)の3つに分類されます。それらの経過については以下のように考えられています。
- 軽度異形成(CIN1)
約10%が高度異形成以上の病変に進行し、約30%は変化せず、約50~60%は自然に病変が消失するといわれています。 - 中等度異形成(CIN2)
約20%が高度異形成以上の病変に進行し、約40%は変化せず、約40%は自然に病変が消失するといわれています。 - 高度異形成(CIN3)
30~60%が軽度異形成などの病変に退縮するものの、約10%が浸潤がんに進行するといわれています。
そして、これら異形成ががん化する前に治療することが目的で行われる治療法の一つが子宮頸部レーザー蒸散術です。当科では主にCIN3や長期間持続するCIN2に対して本術式を選択しています。
子宮頚部レーザー蒸散術の実際
手術の方法
- 当院では外来手術室にて日帰りの治療として実施しています。
- 手術予定時間の15~30分前に痛み止めの座薬を肛門内に挿入していただきます。
- 外来手術室で、内診台と同様の体勢になっていただき手術を行ないます。子宮頸部を円板状にレーザー光線による熱で変化を加えて蒸散します (図1)。
軽度の痛み、熱感を伴いますが、通常は術前の痛み止めの座薬のみで支障ありません。ただし、主治医の判断により局所麻酔を追加する場合があります。手術時間は5~10分です。術後の出血を防ぐために、手術終了後にガーゼを腟内に挿入することがあります。 - あらかじめ外来で処方されている抗生物質を主治医の指示に従って内服していただきます。
図1.子宮頚部円錐切除術と子宮頚部レーザー蒸散術の比較
手術後の経過と対応
1.手術部位からの出血
子宮頸部レーザー蒸散術は子宮頸部レーザー円錐切除術と比較して出血が少ないといわれていますが、手術中に全く出血しないわけではありません。手術終了時にはレーザー蒸散部に「かさぶた」が形成されて止血された状態となっています。このかさぶたがはがれるのは術後約4日~7週間ですので、手術直後よりはむしろ、術後しばらくしてから出血することがあります。また、レーザー蒸散部の傷が治癒するまでには約4~6週間かかりますので、その間は性交を避けてください。ナプキンに少量付着する程度であれば、そのまま経過を観察していただきます。月経の2日目以上に出血が多い場合などは病院へご連絡いただき、外来主治医もしくは当直医師と相談していただくことになります。外来受診の必要性について判断させていただきます。
2.産科学的なリスク
近年の報告では、子宮頸部レーザー蒸散術による早産への影響は少ないというものが多く存在します。一方で子宮頸部異形成に対して同じく施行される子宮頸部レーザー円錐切除術では術後の妊娠における早産の危険性がやや高くなる、などのデメリットがあります。当院のデータでも子宮頸部レーザー円錐切除術を受け、その後に妊娠した場合の早産のリスクは20%ですが、手術をうけていない場合は9%となっており、手術をうけた場合には若干そのリスクが高くなることがわかっています。このため、これから妊娠を予定するような年代の患者さんには適応を慎重に考えています。
当院でも子宮頸部レーザー円錐切除術を数多く行っており、蒸散術と比べて、再発の頻度が低く、採取された組織から病理診断を確認できる、などのメリットもあります。このため、子宮頸部レーザー蒸散術と子宮頸部レーザー円錐切除術のどちらが患者さんにとって最良の治療法なのか担当医から説明をうける必要があります。
3.頸管狭窄
子宮頸管部の傷が治る過程において頸管が狭くなる場合があります。いままで生理痛がなかった人も稀に生理痛を感じるようになる場合があります。ごく稀に頸管閉塞を起こす場合があり、再開通術が必要となる場合があります。手術直後に腹部違和感、軽度腹痛を感じることがありますが、時間とともに軽快します。術後しばらくおりものが続きますが通常は心配いりません。万が一、術後38度以上の発熱がある場合には早めに受診してください。
手術を受ける患者さんのために
当科では,子宮頸部異形成に対して上記のような子宮頸部レーザー蒸散術を積極的に行っております。実際には,患者さんごとの子宮頸部の病変を診察してみないと適応になるかはわかりません。曜日に拘わらず婦人科外来にご相談ください。手術のメリット・デメリットをよく説明させていただいたうえで術式の決定をさせていただきます。
婦人科チーム
右から3番目:筆者
文責:婦人科
執筆:仲村勝
最終更新日:2017年11月1日
記事作成日:2017年11月1日
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