外傷性視神経管骨折へのチームアプローチ(視神経管開放術) ―頭蓋底センター―
はじめに
視神経は眼球(網膜)で得た情報を脳へ伝える役割をしており、視神経管という骨に囲まれた通路を通ります。視神経に何らかの障害が起こり、視力や視野(ものが見える範囲)に異常が生じることを視神経症といいます。転倒・転落や交通事故により頭部や顔面を強打した場合、視神経症を来すことがあり、外傷性視神経症といいます。外傷性視神経症の原因の1つに視神経管骨折があり、外傷による視神経の挫滅・浮腫、骨折や血腫による視神経の圧迫などにより視神経に障害が起こります。慶應義塾大学病院では耳鼻咽喉科、眼科、脳神経外科の3科が連携して視神経管骨折を伴う外傷性視神経症の診断・治療を行っています。
症状
わずかな視力低下や一部の視野欠損など軽度なものから、全盲(全く目が見えない)や視野の完全欠損など重度なものまで様々な程度で起こります。永続的な視力・視野障害を来す場合があります。
診断
眼科医が視力検査、視野検査、眼底検査などの視機能検査を行います。画像検査では視神経管周囲のCTを撮影し、骨折や狭窄、血腫の有無を確認します。また、視神経管骨折を伴う外傷性視神経症は前額部(特に眉毛の外側に近いところ)を強打したときに多いとされ、診断に重要な所見となります。これらを眼科医が中心となって診断を行い、外傷性視神経症かつ視神経管骨折と診断されるもしくは疑われる場合に治療を行います。CTでは骨折線が認められない場合でも視神経管骨折を否定できるわけではなく、手術中に骨折を認めることがあります。
治療
治療方法
視神経管骨折を伴う外傷性視神経症の治療は、(1)外科的手術で視神経管を開放する(視神経管開放術)、(2)点滴で副腎ステロイドの大量投与を行うという2つの方法があります。視神経管開放術は視神経管の一部の骨を除去し、視神経に対する圧迫を解除する手術です。骨折がある場合には折れた骨も除去します。特に視神経管骨折を伴った外傷性視神経症の場合には骨折している部分の骨片を除去した方が視力・視野障害の改善が見込まれると報告されており、視神経管開放術は有用と考えています。また、当院では視神経管開放術と並行して手術前もしくは手術後にステロイド大量投与を眼科医の管理の下で行っています。ステロイド投与のタイミングは眼科医が主に決定します。
治療適応・時期
視神経管骨折を伴う外傷性視神経症の治療適応は様々な報告がありますが、高度の視力低下を生じた場合でも改善が見込めると考えており、視力・視野障害がひどくても治療適応外となることはありません。治療開始の時期が重要で、内視鏡下視神経管開放術を行う時期が早いほど(できれば48時間以内)、視力・視野障害の改善する見込みが高いとされます。発症から1週間以上経過した場合は治療を行っても改善の可能性は低くなります。
手術方法
視神経管開放術のアプローチ法は大別して経鼻法と開頭法に分けられます。以前は開頭法が主流でしたが、近年になり低侵襲な術式である内視鏡下の手術が選択される傾向にあり、当院でも内視鏡下に視神経管開放術を行っております。
視神経管開放術は神経周囲の骨を除去するという非常に繊細な手術で、内視鏡下で行うには高い精度が求められます。当院では普段より耳鼻咽喉科と脳神経外科と合同で下垂体腫瘍摘出術をはじめとする頭蓋底手術を内視鏡下に行っており、脳や神経といった重要な組織の周囲を操作することに慣れています。このように耳鼻咽喉科と脳神経外科医とのチーム医療が確立しており、精度の高い手術ができることは当院の特色となっています。
図1. 外傷性視神経管骨折の症例
a. 術前副鼻腔CT:右視神経管骨折を認める(矢印)
b. 術中所見:視神経管直上に骨折線を認める(矢頭)
c. 術中所見:視神経管を開放したところ
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文責:頭蓋底センター
執筆:関水真理子
最終更新日:2022年2月1日
記事作成日:2022年2月1日
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