好酸球性副鼻腔炎の新たな治療への取り組みと好酸球性中耳炎 -耳鼻咽喉科-
はじめに
鼻や耳の慢性炎症に変化が起きています。従来は、細菌感染などが主な原因の気道炎症である、慢性化膿性副鼻腔炎(蓄膿症)や慢性中耳炎が主体でしたが、衛生環境の向上や抗菌薬の発達によりこれらの病気が減少すると、今度は好酸球を主体とした免疫異常を背景とする鼻炎や中耳炎の患者数が増加してきました。これまでの病気とはメカニズムも治療も異なることから、「好酸球性副鼻腔炎」、「好酸球性中耳炎」という新しい概念の病気として捉えるようになりました。
好酸球性副鼻腔炎(重症度分類で中等症以上は指定難病)
症状
両側に鼻茸(はなたけ:鼻ポリープ)が多数発生し、鼻づまりを来したり、粘性のある(にかわ状の)鼻水が出たり、嗅覚が低下することが多いです(図1)。好酸球性副鼻腔炎の鼻茸には好酸球という細胞が多数存在しています。気管支喘息を合併する例が多く、また後述する好酸球性中耳炎も合併しやすいです。
図1.好酸球性副鼻腔炎(右側)
診断
鼻に内視鏡を挿入し鼻茸を確認します。CTでは副鼻腔、特に篩骨洞に陰影がみられます。血液検査では、好酸球数が増加している例が多いことが特徴で、確定診断には鼻茸の組織診断(鼻茸の一部を切除して顕微鏡で検査)が必要となります。中等症以上の好酸球性副鼻腔炎は指定難病ですので、申請後、承認されると経済的な負担が軽減されます。
治療
一般的な慢性副鼻腔炎は、抗菌薬と内視鏡を用いた手術で治ることが多いですが、好酸球性副鼻腔炎は、通常と異なりステロイドを内服すると軽快する場合が多いです。ところが、ステロイドを継続すると、免疫力の低下、血糖値や血圧上昇のリスクがあり、長期投与はできません。またこの副鼻腔炎は手術を行っても鼻茸が再発しやすく、しばしば治療に難渋します。
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対する新しい治療
好酸球性副鼻腔炎を含む、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対して新しい治療薬(注射薬)が開発されました。好酸球や好酸球性炎症に作用する、インターロイキン4と13というサイトカインを抑えることで治療します。定期的に注射が必要で診療費は高額ですが、効果がある場合は手術をしなくても鼻茸が消えて嗅覚が回復する場合もあります。手術後の再発例が原則適応となりますが、手術困難例が適応になることもあるため、慶應義塾大学病院アレルギーセンター内耳鼻咽喉科の外来にてご相談ください。
好酸球性中耳炎
症状
好酸球性副鼻腔と同様に、中耳という鼓膜の奥にある粘膜に好酸球が多く発生して中耳炎になります。にかわ状の硬い貯留液が中耳腔に溜まることにより、難聴(伝音難聴)や耳鳴り、耳閉感などを生じ、鼓膜に穿孔ができて、拡大する傾向もあります。内耳に障害を与えて治癒不能な高度難聴を引き起こすことがあり、注意を要します。多くの場合、鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎や気管支喘息を合併します。
診断
好酸球優位な中耳貯留液が存在する滲出性・慢性中耳炎の中で、以下の4つのうち2つ以上当てはまるものが確実例になります。
- 膠状の中耳貯留液
- 中耳炎に対する従来の治療に抵抗
- 気管支喘息の合併
- 鼻茸の合併
*Auris Nasus Larynx. 38(4):456-61, 2011より一部改変
検査
耳からの滲出液(しんしゅつえき)に好酸球が存在するかを確認する耳漏の細胞診のほか、採血によって好酸球数やANCAと呼ばれるマーカーを調べます。好酸球性炎症を調べると同時に、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、ANCA関連血管炎性中耳炎などの紛らわしい疾患の可能性を除外する必要があります。
治療
- 確立された治療はありませんが、にかわ状滲出液を慎重に除去し、鼓膜切開や鼓膜換気チューブ留置を行います(粘膜自体の炎症が強いため、慢性化膿性中耳炎に行うような手術は無効とする報告が多い)。
- ステロイドの鼓室内投与や全身投与。特に感音難聴にはステロイドの大量投与も行いますが、聴力は改善しない場合が多いです。
- もし好酸球性副鼻腔炎を合併していれば、好酸球性副鼻腔炎に対して行う注射によって好酸球性中耳炎も改善する可能性があります。
これらの副鼻腔炎・中耳炎は、どちらも好酸球という血液中の細胞を中心とした免疫異常が関与しており、気管支喘息と合併しやすいことから、当院では、呼吸器内科を中心に診療科の垣根を越えた包括的かつ専門性の高い「アレルギーセンター」にて、本疾患を診療しています。
執筆:若林健一郎
最終更新日:2023年5月1日
記事作成日:2020年8月1日
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