母斑症診療の新たな枠組み ―母斑症センター―
はじめに:母斑症とは
生まれつきの皮膚の症状(母斑)に加えて、神経系などほかの臓器にも病変がある疾患をまとめて、母斑症と呼びます。神経と皮膚は、ひとの体ができる過程で近い関係にあるため、その両方に病変を生じることが多く、神経皮膚症候群とも呼ばれます。母斑症に含まれる具体的な疾患には、以下のようなものがあります。
- 結節性硬化症
硬い結節が様々な臓器にできやすくなる疾患です。乳幼児期には、脳の結節や腫瘍、それらによるてんかんや発達遅滞に加えて、心臓の腫瘍、皮膚の白斑などを認めます。小児~成人期以降になると、顔面のニキビのような腫瘍、腎臓や肺などにも結節性病変を生じます。症状によっては、結節の増大を抑える薬剤の内服治療が行われます。 - 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)
幼少期に皮膚に多発するカフェオレ色の母斑(カフェオレ斑)で気づかれます。成長とともに、神経線維腫と呼ばれる良性腫瘍が生じます。そのほかに、目の虹彩、視神経や脳にも病変が現れることがあります。以前は、外科的切除以外の方法がありませんでしたが、びまん性神経線維腫に対する経口薬の治療が始まっています。 - スタージ・ウェーバー症候群
生まれつき顔面の眼の周囲に赤ワインのような色の母斑(血管腫)を認めます。同じ側の脳にも血管腫を認め、てんかん発作や運動麻痺を生じることがあります。 - 巨大色素性母斑
生まれつき体や手足の一部に大きな黒いあざのような母斑を認めます。一部の患者さんでは、脳にも似た病変を生じることがあり、てんかん発作や発達の遅れなどの原因となることがあります。その場合には、神経皮膚黒色症と呼ばれます。
慶應義塾大学病院母斑症センターの特徴
母斑症をもつ患者さんの多くは、長期にわたって複数の診療科を受診することが必要になります。これまで、慶應義塾大学病院では、母斑症の患者さんに、各診療科が独立して診療にあたってまいりましたが、各診療科、診療クラスターが今までよりも緊密に連携して、さらに質の高い診療を効率よく母斑症患者さんに提供することを目的に、小児科、泌尿器科、小児外科、産科、皮膚科、形成外科、脳神経外科、整形外科、呼吸器内科、精神・神経科、神経内科、眼科、臨床遺伝学センターが集結し、2017年3月に、「母斑症センター」を設立しました(図1)。
図1. 慶應義塾大学病院母斑症センター
安全・安心な医療
慶應義塾大学病院母斑症センターは、総合病院としての強みを生かし、小児期から成人期まで包括的かつ一貫した診療を提供いたします。母斑症センターは、特定の疾患ではなく、母斑症に含まれるすべての疾患を診療対象としています。すでに、母斑症と診断されている患者さんはもちろんのこと、母斑症かどうかまだわからない方についても、専門家による適切な診断を行います。母斑症かどうかまだわからない方は、小児であれば小児科を、成人であれば皮膚科や形成外科をまず紹介受診してください。的確な診断に基づいて、必要な場合には、センター全体で連携し、内科的あるいは外科的な治療を迅速に提供いたします。
てんかん、精神運動発達遅滞、色素性母斑、脳腫瘍、腎腫瘍、肺疾患、骨病変などの個々の症状に対する外来・入院診療は、これまでどおりそれぞれの科の専門医師が行います。担当医が、ほかの科の診療も必要であると判断した場合には、センターの中の他科の母斑症専門医を紹介いたします。疾患の性質上、複数科に診療が及ぶ患者さんが多いため、カンファレンスなどを通じて、担当医師間の情報共有を緊密に行い、円滑かつ高度なチーム医療を行います。
臨床・基礎研究への展開
当院母斑症センターは、臨床研究推進センター、臨床遺伝学センターと連携し、母斑症の臨床・基礎研究を推進し、新しい治療法の開発に貢献することを目指しています。
次世代の医療従事者の育成
診療や研究を通じて、母斑症の診療や研究に精通した次世代の医療従事者を育成していきます。
関連リンク
文責:母斑症センター
執筆:武内俊樹
最終更新日:2024年1月12日
記事作成日:2017年11月1日
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