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義耳と軟骨伝導補聴器を併用する小耳症診療 -耳鼻咽喉科-

はじめに 〜小耳症について〜

小耳症は、生まれつき耳介に奇形を伴う疾患で、多くの場合は耳の穴 (外耳道) が狭窄・閉鎖しているため難聴も伴います。疾患頻度としては、1万出生あたり1〜2人とされています。小耳症に伴う難聴に対して、通常の気導補聴器を用いることや手術的に改善させることは困難とされており、従来は骨導補聴器が用いられていました。骨導補聴器は機器が大きく、装用するために強く圧迫する必要があるなどの難点がありましたが、近年ではより装用感の優れた軟骨伝導補聴器が用いられることが多くなっています (KOMPASあたらしい医療「軟骨伝導補聴器 ~軟骨で音を伝える世界初の補聴器~ ―耳鼻咽喉科―」をご参照ください)。しかし、耳介が小さいために軟骨伝導補聴器の振動子を日常的に理想的な位置に固定することが難しいという難点があります (図1)。

図1.右小耳症に対して軟骨伝導補聴器を装用している状態

図1.右小耳症に対して軟骨伝導補聴器を装用している状態

耳介奇形による見た目 (審美面) の影響に対しては、肋骨周囲の軟骨等を用いた耳介形成術を受ける患者さんも少なくありません。しかし、この耳介形成術は10歳程度まで成長を待たなければならないことや、複数回の手術が必要であることなどの難点が存在しています。耳介形成術以外の治療方法として、義肢・義足に準じた義耳を用いるという治療法が存在します。義耳は皮膚に貼り付けるだけで装用は簡単で、手術が必要なく、年齢を問わず装用することができます。また近年の3D画像技術の進歩により、近付いて見ても皮膚との境界が分からないほど高精細な義耳を作成することが可能になっています (図2)。手術が不要、耳介の再現度が極めて高い、年齢を問わず作成可能というメリットがある一方で、義耳単独では難聴を改善することはできないうえに、義耳があることで補聴器を適切な位置に装用できなくなってしまうこともあり、単独で用いる場合には小耳症の治療選択肢として課題を残しています。

図2.高精細な義耳

図2.高精細な義耳

軟骨伝導補聴器と高精細な義耳の併用 〜軟骨伝導補聴器格納式義耳 (APiCHA)〜

以上のように、小耳症診療において審美面と聴力の改善を両立させることはいまだに困難な目標であるだけでなく、治療選択肢としての軟骨伝導補聴器と義耳も単独で用いた場合には、それぞれ固定と聴力改善に関する課題を抱えていました。そこで、我々は軟骨伝導補聴器が表面から圧迫してもその効果が劣らないことに着目し、義耳と軟骨伝導補聴器を併用することで審美面と聴力の改善を両立できる可能性について検討しました。

国家資格者である義肢装具士の協力の下、軟骨伝導補聴器を内部に格納できる義耳を試作 (図3) し、その音響的な特徴を評価したところ、軟骨伝導補聴器単独の場合と義耳を併用した場合を比較しても、臨床的に遜色のない結果となっていました。以上のことから、軟骨伝導補聴器と義耳を併用する新しい治療 (Auricular prosthesis which incorporates cartilage conduction hearing aid: APiCHA) を開始しております。APiCHAを作成する大まかな工程は、次のとおりです。1) 両耳の耳型を取る、2) 耳型を基に両耳の3D画像データを採取する、3) 3D画像データを編集し、3Dプリンターを用いて正常な耳のモデルを小耳症側に反転・作成する、4) 小耳症側につける正常な耳のモデルに軟骨伝導補聴器の振動子とケーブルが入る溝を作成する、5) 作成したモデルに着色してAPiCHAとして完成します。以上は片側の小耳症の患者さんの場合の工程ですが、両耳の小耳症の患者さんの場合でも、親御さんなどの耳の3D画像データを用いて、3D画像編集技術で縮小することによって同様に作成することができます。

図3.APiCHAの試作機

図3.APiCHAの試作機
ウラ面に軟骨伝導補聴器の振動子 (*) と小耳介が入る溝 (†) がある。

実際にAPiCHAを用いた診療により、次のようなメリットがあることが分かりました。1) 手術などを行わずに、簡単に審美面と聴力の改善を得ることができる、2) 義耳と共に軟骨伝導補聴器の振動子を理想的な位置に固定することができる、3) 小耳症により装用が困難なマスクを、義耳の上から装用することができる、などです (図4)。しかし、APiCHAもメリットばかりではありません。まず、APiCHAは医療機器ではなく、医療保険の範囲外の装具なので作成費として20万円程度かかってしまいます。またAPiCHAはかつら用の接着剤を用いて固定を行いますが、固定性が十分か否か、皮膚が蒸れたりかぶれたりしないかについては、まだ分かっていません。そこで慶應義塾大学病院耳鼻咽喉科では、5歳以上の患者さんを対象に、装用日記を用いて固定性や皮膚への影響について検証する前向き研究 (UMIN000044711) を行いながら、APiCHAを用いた診療を行っています。

図4.右小耳症に対してAPiCHAを装用している状態

図4.右小耳症に対してAPiCHAを装用している状態

APiCHAを用いた診療は、義肢装具士の先生方と軟骨伝導補聴器を扱う業者の方とチームを構成し、西山崇経医師の専門外来内で、一人一人時間をかけながら行っています。この治療をご希望の患者さんは、まずは当科外来を受診いただき、西山医師の専門外来にかかりたい旨をお伝えください。

APiCHA診療を行っている専門チーム。手前右の筆者が持っているのがAPiCHAです。

  

文責:耳鼻咽喉科外部リンク
執筆:西山崇経

最終更新日:2022年4月1日
記事作成日:2022年4月1日

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