外反母趾
概要
外反母趾とは、母趾(足の親指)が、第2趾の方へ曲がって変形している状態をいい、身体の中心線から見て、母趾が外側に向いているために外反母趾と呼ばれています。母趾の中足趾節関節(MTP関節、付け根の関節)で、そこから足首側に付いている骨(第1中足骨)が内反し(先端が内側を向く)、その先端が内側に突出した結果、母趾の付け根の内側にバニオンと呼ばれる胼胝(べんち、たこ)を形成し、痛みを生じます(図1)。進行すると母趾は爪が内側を向くように捻じれ、本来中足骨があるべき部位から内側にずれるため、母趾で地面を支える力が弱くなり、第2趾やときに第3趾の付け根の足底面への負担が増加します。このとき足の縦・横アーチ構造が崩れ、その結果、それらの足底面にも痛みを伴う胼胝が出現します。母趾に押されときに第2趾が背側に脱臼することもあります。
図1.外反母趾のバニオンの一例
症状
軽度の外反母趾では、母趾MTP関節内側に腫れ(バニオン)があり、靴を履いた時に同部に痛みを生じます。重度になると、アーチの低下のため母趾および第2趾の足底部に痛みを生じます。このときは裸足でも痛みが出現します。第2趾が背側に脱臼すると靴に当たるため、足底部のみならず第2趾背側にも痛みを生じます。
診断
肉眼的に母趾が外反し、母趾MTP関節内側にバニオンがあれば外反母趾を疑います。次に単純レントゲン写真を立った状態(立位)で2枚撮影し、正面写真(図2)では外反母趾の程度を、側面写真ではアーチ構造の変化をとらえます。体重をかけないで撮影するレントゲン写真では、外反母趾の程度が低く評価されるため、原則立位で撮影します。外反母趾の重症度は単純レントゲン正面画像における外反母趾角(第1中足骨軸と基節骨軸のなす角)および中足骨間角(第1中足骨軸と第2中足骨軸のなす角度)で判断します。 2008年日本整形外科学会外反母趾診療ガイドラインでは外反母趾角が20°以上を外反母趾と定義し、20~30°を軽度、30~40°を中等度、40°以上を重度外反母趾としています。
図2.外反母趾のレントゲン写真
治療
保存的治療と手術的治療に分かれます。保存的治療には、生活指導(靴指導、減量など)、薬物治療、装具療法、理学療法(母趾の体操、可動域訓練など)があります。ハイヒール、足先のとがった靴は外反母趾を助長します。母趾の付け根がゆったりしすぎる靴では第1中足骨頭が内反し、外反母趾がかえって悪化する原因となりえます。アーチ構造の低下のため足底痛が出る場合には、足底板を挿入しアーチを持ち上げることで疼痛の軽減が図れます。足ゆびをパーの形に開いたり、母趾ストレッチ等足趾の運動も重要です。保存療法は、あくまでも痛みを緩和するための対症療法であり、外反母趾そのものを改善する効果はほとんどありません。
保存療法が無効であった患者さんに対しては手術を考慮します。外反母趾の手術法には100種類以上あるといわれていますが、基本は内側にはずれた第1中足骨骨頭を元の位置に戻すために、第1中足骨を骨切りし軸を矯正します。一般に程度の軽い例には第1中足骨を遠位(からだからより遠い方)で骨切りし、重い例では近位(からだからより近い方)で骨切りします。近位骨切り術では、母趾MTP関節外側部での軟部組織の剥離と内側部での関節包の縫縮を同時に行います。第2趾が背側に脱臼する例には、関節包の剥離や中足骨の短縮を行います。手術により母趾の変形は十分矯正されますが、母趾の動きが術前に比べて若干硬くなること、骨切り部で骨癒合が得られても術後3ヵ月程度腫れが残るため、その間通常の靴が履きづらいことなど問題点もあります。保存的治療、手術的治療双方のメリット、デメリットをよく理解した上で治療法を選択する必要があります。
慶應義塾大学病院での取り組み
軽度から中等度の外反母趾に対しては、DLMO(デルモ)法という第1中足骨遠位骨切り術を行っています。2014年日本整形外科学会外反母趾診療ガイドライン改訂第2版では、体にやさしいこのような遠位骨切り術が、術後早期に良好な成績が得られるとし、初めて掲載されました。本法は、第1中足骨頭基部で皮膚を小切開し、直下にある第1中足骨を骨頭基部で骨切りしたのち、骨片間を鋼線1本で止めるというシンプルな術式です(図3、4)。現在、大学関連病院において手術を行っております。
図3. DLMO法
図4.DLMO法 治療後
さらに詳しく知りたい方へ
外反母趾についてさらに詳しくお知りになりたい方は、次の書籍をご覧ください。
- 下肢 / 松本秀男, 柳本繁, 須田康文編 東京 : 羊土社, 2008.6 整形外科専門医になるための診療スタンダード ; 3外反母趾診療ガイドライン : 文献アブストラクトCD-ROM付 / 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 外反母趾診療ガイドライン策定委員会編 改訂第2版 (2014).東京 : 南江堂, 2014.11
文責:
整形外科
最終更新日:2017年2月27日