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大腿骨頭壊死症

だいたいこっとうえししょう

概要

大腿骨頭壊死症とは、大腿骨頭への血行障害に伴い、大腿骨頭に陥没を生じ、股関節の機能に障害が発生する疾患です。この疾患のうち、明らかな基礎疾患を有しないものは特発性大腿骨頭壊死症と分類され、これはさらにステロイド性、アルコ-ル性および狭義の特発性に分けられます。これに対し、外傷、塞栓症、放射線照射など、壊死発生との間に明らかな因果関係を認める基礎疾患があるものが、症候性大腿骨頭壊死症に分類されます。特発性大腿骨頭壊死症が発生するメカニズムについては、脂肪塞栓(しぼうそくせん)説、骨髄内圧上昇説、血液凝固機転異常する説、血管病変説、微小骨折説など諸説がありますが、阻血(そけつ)性変化が成立する詳細な機序は明らかになっていません。

症状

歩行や起き上がるときの股関節痛が症状として現れます。股関節を内側にひねると痛みが生じ、動きに制限が生じるのが特徴です。しかし、初発症状が腰痛、膝痛、臀部痛、大腿部前面部痛、坐骨神経痛様疼痛などのことが多く、必ずしも股関節部の痛みでなく、大腿骨頭壊死であると確定診断されるまでに時間を要することがあります。一般的には、阻血が成立し、大腿骨頭壊死症が発生しても、骨壊死巣(こつえしそう)の陥没が生じるまでは痛みが出現しません。

診断

大腿骨頸部骨折や股関節脱臼骨折などの外傷歴がないか、ステロイドを大量に使用したことがないか、アルコール多飲歴がないか、また、潜函病(せんかんびょう)になり得る職歴か、などの情報が診断に役立ちます。画像検査としては、股関節単純X線を正面と側面像2方向で行います。単純X線像で特異的異常所見がない時期にもMRI 、骨シンチグラム(病変に取り込まれる放射性医薬品を用いて写真を撮る検査)で異常所見を認める場合があります。

X線での骨頭圧潰(陥没を認め段差を生じている状態)または、crescent sign(骨頭軟骨下に骨折線を認める)(図1)や骨頭内の帯状硬化像(おびじょうこうかぞう:壊死した領域と健常な領域の境界がX線で白く写る状態)で、さらにMRIのT1強調像で帯状硬化像と呼ばれる骨頭内帯状低信号域(図2)が特徴的な画像所見です。

図1 単純X線像. 正面像(A):側面像(B)

図1. 単純X線像. (左)正面像:(右)側面像

図2 MRI(T1強調冠状断像)

図2. MRI(T1強調冠状断像)

治療

治療法は、大きく分けて手術と手術以外の保存療法とがあります。また手術には、関節温存手術(自分の関節を骨切りして治療する)と人工関節置換術(人工の関節に置き換える)があります。大腿骨頭壊死症に対する治療方針を決定する際には、年齢、疼痛や基礎疾患の有無、病期分類(骨頭がどれくらい陥没しているか)や病型分類(壊死の範囲が大きさ)などが考慮されます。

病期分類

骨頭がどれくらい陥没しているかの病期分類は、日本では厚生労働省特発性大腿骨頭壊死症調査研究班による分類を用います。以下の通り、stage1から4までに分類されます。

  • stage1: 単純X線像で特異的異常所見がないが、MRI、骨シンチグラム、または病理組織像で異常所見を認める時期
  • stage2: X線で帯状硬化像は認めるが骨頭が陥没していない時期
  • stage3: 骨頭の陥没を認めるが、関節裂隙は保たれている(軟骨がすり減っていない)時期。骨頭の段差が3mm未満の場合stage3A, 3mm以上の場合 stage3Bに分類
  • stage4: 関節症変化が出現した(軟骨がすり減り始めた)時期

病型分類

壊死がどこにあるかにより、type A, B, C-1, C-2に分類されます。 C-2になるに従って壊死の範囲が大きくなります。壊死範囲の大きくなると骨頭が陥没する割合が高くなるといわれています。

治療法

一般的には、壊死範囲が小さく、非荷重部にある場合には保存的治療を行いますが、壊死部の大きい場合には骨頭の圧潰を来す可能性が高いため、手術が行われる場合があります。また、大腿骨頭壊死症の手術には関節温存手術と人工関節置換術とがありますが、大腿骨頭における健常部分が3分の1以上残存する若年の患者さんについては骨切り術(関節温存手術)を行う場合があります。これに対して健常部分が3分の1以下で骨頭の壊死範囲が大きい患者さんや、すでに骨頭が圧潰している比較的高齢の患者さんには人工関節置換術を行います。
関節温存手術には、大腿骨内反骨切り術、大腿骨頭前方回転骨切り術、大腿骨頭後方回転骨切り術などがあります。これらの手術は主に壊死していない健常な骨で体重を支えるようにするのが目的です。人工関節置換術には、大腿骨側のみ置換する人工骨頭置換術と臼蓋側・大腿骨側の両方とも置換する人工股関節置換術があります。関節面の段差や関節軟骨のすり減りが高度で関節温存手術では対応できない場合には、人工関節置換術が行われますが、かつては大腿骨側のみにインプラントを設置する人工骨頭置換術も行われていましたが、人工骨頭置換術は15年以上経過すると人工の骨頭が骨盤の内側に入り込む現象が認められ、再度入れ替えの手術が必要になるので、最近では寛骨臼側も置き換える人工股関節置換術が最初から適応される傾向にあります。

慶應義塾大学病院での取り組み

  • 当院では患者さんの体への負担を最小限に抑える目的でMIS (minimally invasive surgery)人工股関節置換術を行っています。この手術では、手術創は約8~10cmで、筋肉の間を分けて股関節に進入するため、筋肉は一切切り離しません。このMIS手術の長所は筋肉を傷めないため、術後の痛みが少なく、筋力の回復が早期に期待でき、リハビリ・入院期間の短縮、早期社会復帰が可能なことです。
  • 両側とも高度に進行した特発性大腿骨頭壊死症や変形性股関節症をお持ちの患者さんには、両側同時人工股関節全置換術を行う場合があります。この手術は両側とも早期の股関節機能の回復が期待でき、一度の入院・手術で治療できることが長所です。
  • 人工股関節置換術において寛骨臼ソケットの設置角度が不良であることは人工の軟骨の役割を果たすポリエチレンの磨耗を増やしたり、人工関節がはずれること(脱臼)のリスクが高くなります。そこで、それぞれの患者さんの股関節の形態を術前に評価したうえで、より正確なインプラント設置を目指して手術を行っています。
  • 人工股関節置換術の合併症の対策として、70歳未満の患者さんには希望に応じて自己血貯血を行い、同種血輸血を回避しています。
  • 静脈血栓塞栓症に対しては弾性ストッキング着用、間欠的静脈圧迫装置を装着すること、さらにD-ダイマーや可溶性フィブリン(SF)などの血栓マーカーをスクリーニングすることや造影剤を用いたCTを行うことにより血栓の有無を確認してからリハビリを開始しています。さらに予防的抗凝固療法を行い、リスクの軽減に努めています。
  • 高度先進医療を行う特定機能病院である慶應義塾大学病院では、多くの人工股関節置換術を行っております。具体的な手術件数については、整形外科学教室のWebサイト外部リンクをご参照ください。合併症を有する患者さんの手術の場合には、他の診療科との綿密な連携により周術期の合併症のリスクを減らして、より安全に最新の方法で手術が行える環境を提供しています。

さらに詳しく知りたい方へ

  • 大腿骨頭壊死症 : 診断と関節温存手術 / 渥美敬編集
    東京 : メジカルビュー社, 2003.11

文責: 整形外科外部リンク
最終更新日:2019年1月31日

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