上肢の脱臼・骨折
概要
以下の代表的脱臼・骨折についての説明はあくまでも一般例です。実際には、患者さんにより同じ脱臼・骨折でも病状が異なりますので、専門医による診察が必要です。
骨性槌指、骨性マレット指
"突き指"をした場合、一番指先の関節(DIP(ディーアイピー)関節、いわゆる"第1関節")を損傷することがあります。特に、DIP関節が曲がってしまって伸びない場合、伸筋腱という指を伸ばす腱が断裂する場合と剥離骨折する場合があります。前者を腱性槌指あるいは腱性マレットと呼び、後者を骨性槌指あるいは骨性マレットと呼びます。腱性槌指の場合には装具や熱可塑プラスティックを用いた固定による保存療法をおこない、必要に応じて鋼線による指を伸展した位置での固定や腱を縫合します。骨性槌指の場合には同門の石黒先生により考案された剥離骨片をextension blockピン(エクステンションブロックピン)とDIP関節仮固定ピンの2本のピンで挟みうちして固定する石黒法で良好な成績が望めます。
PIP関節脱臼骨折
指先から数えて2番目の関節(いわゆる"第2関節")が脱臼することをPIP関節脱臼といい、しばしば骨折を伴う脱臼骨折となります。これは、"突き指"をした場合や関節が本来動く範囲を超えて強制的に動かされた場合に生じます。診断は単純X線を撮影することでおこないます。関節面が落ち込む陥没骨折の評価にはCTを必要とすることがあります。
関節が安定していれば副え木などで固定して治療しますが、関節が不安定だったり、関節面の転位を伴う場合には手術をおこないます。手術では、断裂した靱帯の縫合、骨髄内からの陥没骨片の整復、ピンを用いた骨折の安定化などをおこないます。必要に応じて創外固定器という持続牽引装置を用いることもあります。変形した状態で癒合した場合には良好な機能は期待できず、再建手術を要します。変形が高度な場合には人工関節置換術や関節固定術を行う場合もありますが、当院では患者さんご自身の軟骨(肋軟骨)を使用した再建手術を積極的に行っています。
図1.骨性槌指(1)とPIP関節脱臼骨折(2)
舟状骨骨折
8個ある手根骨の中でもっとも骨折の頻度が多いのが舟状骨です。スポーツ外傷や交通事故で、通常手をついて受傷しますが、パンチ動作での発生も報告されています。受傷直後の痛みは比較的軽度で、捻挫と勘違いされる方もいます。また受傷直後にはレントゲンで骨折が明らかでない場合もあります。身体所見から骨折が疑わしい場合にはギプス固定し2~4週後に再度レントゲンを撮ったり、あるいは早期にMRIやCTを撮影して診断します。舟状骨骨折の特徴として、折れる部位によって骨癒合が得られにくいことが挙げられます。すなわち指先に近い結節部という部位での骨折は骨癒合しやすいのですが、骨折部が前腕に近くなると骨癒合率は低下します。これは舟状骨への血流は骨の指先側から入ってくるからです。とくに前腕に近い部位で骨折すると骨癒合せず、骨壊死となる可能性が高くなります。骨壊死とは骨の血液供給が途絶えた場合に生じる、骨を構成する細胞の死滅した状態のことです。
骨折のズレが小さい場合はまずギブスによる固定(外固定)をおこないます。結節部での骨折を除くと6~12週の比較的長期の外固定が必要です。転位が大きい場合や、早期社会復帰を必要とする場合にはネジを挿入する手術をおこないます。骨癒合せずに偽関節となった場合には、骨盤の骨を採ってきて移植する骨移植手術をおこないますが、骨壊死を生じた場合には血管が付いたままの骨を移植することがあります。
図2.舟状骨骨折
橈骨遠位端骨折
橈骨遠位端骨折は上肢の骨折中、もっとも頻度の高い骨折で、約半数で尺骨遠位部の骨折を伴います。高齢者と小児に多く、手首を伸ばして手をついて発生する伸展型のColles(コーレス)骨折、手首を曲げて、あるいは強く捻って骨折するSmith(スミス)骨折、関節内骨折で掌側に骨片を有する掌側Barton(バートン)骨折などの名前がついた骨折があります。これに加え関節面が陥没する関節面骨折や骨皮質が粉砕する粉砕型骨折があります。もっとも多いのがColles骨折です。
診断は単純X線を撮影することでおこないますが、骨折によってはいろいろな方向からの撮影が必要となることがあります。また、関節内骨折や粉砕骨折ではCTを必要とすることがあります。橈骨周囲の軟部組織損傷の描出にはMRIが有用です。
治療は皮膚の上から圧迫したり牽引したりしてずれている骨折を元の状態に戻す整復という操作を試み、そのあとギプスで固定します。十分な整復が得られない場合には、鋼線による固定、プレートによる固定、創外固定などを用いた手術療法をおこないます。橈骨遠位端骨折をずれたまま放置すると、容易に変形して癒合し、後々で骨を切りなおし、骨盤の骨を移植する手術が必要となることがあります。
図3.Colles骨折
モンテジア骨折
モンテジア骨折とは尺骨骨折と橈骨頭脱臼が同時に生じる外傷です。前腕レベルでの尺骨骨折の方が痛みが強く、肘関節での橈骨頭脱臼が見逃されることがあります。また、小児の場合、尺骨がボキッと折れずにグニャっと彎曲することがあります。これを急性塑性彎曲といいますが、この場合橈骨頭の脱臼だけが存在するように見えます。
橈骨頭が前方に脱臼すると、指を伸ばせなくなり、下垂指という変形を呈することがあります。これは橈骨頭の前方を走行する後骨間神経が圧迫を受けるためです。橈骨頭が整復されると、通常は神経麻痺も時間とともに自然回復します。
治療は、骨折直後であれば尺骨骨折のズレを直す(整復する)ことにより橈骨頭の脱臼も通常は整復されます。徒手整復によって良好な整復が得られて安定していれば外固定をおこないます。しかし、特に成人では骨折が不安定なことが多く、その場合は手術をおこない、骨折をプレートなどで固定します。受傷後長い時間が経過した症例だと尺骨の変形は自然に矯正されて橈骨頭の脱臼だけが残存します。この場合は、尺骨の過矯正骨切り手術により、橈骨頭の整復を試みます。橈骨頭の変形が著しい場合には、橈骨頭切除手術をおこなうこともあります。
小児上腕骨顆上骨折、小児上腕骨外側顆骨折
上腕骨顆上骨折は主に3~8歳頃に生じる骨折で、小児肘周辺骨折の過半数を占めます。神経・血管損傷を伴うことがあり、受傷後しばらくは手指の運動・知覚の状態の把握と、手指の色調変化のチェックが必要です。
診断はレントゲン撮影でおこない、ズレが小さければ、3~4週間の外固定をおこないます。骨折のズレが大きい場合は、入院の上、絆創膏による牽引をおこないます。許容できるくらいの整復が得られなければ、手術をおこないピンで固定する必要があります。骨折が癒合しないことはほとんどありませんが、ズレを残して癒合することはしばしばあります。多少のズレは全く問題ありません。しかし、肘が15度以上内側に曲がる内反肘変形では、見かけ上の問題だけでなく、将来機能障害を引き起こす可能性があり、追加の治療を検討する必要があります。
上腕骨外側顆骨折は顆上骨折に次いで頻度の高い小児肘周辺骨折で、骨折線のほとんどが軟骨部分であるため診断が困難なことがあります。治療法を誤ると偽関節となることも稀ではなく、転位が大きい症例では手術が必要です。偽関節となっても、しばらくはあまり症状が出ません。しかし、次第に肘が極端に外側に曲がる外反肘変形が増強し、成人になり遅発性尺骨神経麻痺といって手の痺れや筋力低下が生じることがあります。上腕骨外側顆の偽関節が判明した場合、特に成人する前に判明した場合には、偽関節部分を癒合させる手術が勧められます。
図4.小児上腕骨外側顆骨折
外傷性肩関節脱臼
脱臼する方向により前方脱臼と後方脱臼に分類され、約90%が前方脱臼です。徒手的に整復を試みますが、十分に筋肉を弛緩させることが重要であり、全身麻酔が必要なこともあります。整復後は外固定をおこないますが、近年は腕を体から離した状態(外旋位)での固定が推奨されています。大結節や関節窩などの骨折を伴うこともあります。時々、腋窩神経という、三角筋を収縮させたり肩外側の感覚をつかさどる神経の損傷を合併しますが、多くは自然回復するとされています。一度肩関節脱臼を起こすと、若年者ほど脱臼を繰り返しやすくなります。10代で初回脱臼すると、80~90%が反復性に脱臼するという報告があります。日常生活でも脱臼を繰り返す場合には手術が必要です。
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整形外科
最終更新日:2017年2月27日