切断のリハビリテーション
概要
四肢の切断の原因は、病気や事故など様々なものがあります。切断に至った原因や、切断の部位によっても、その後のリハビリテーション(以下、リハビリ)は異なりますが、できるだけ切断前に近い状態での生活ができることを目標に、義肢の作製なども含めてのリハビリを行います。
切断の原因
切断の原因には、外傷、腫瘍、感染、末梢循環障害、先天性障害などがあります。以前は、鉄道事故や自動車事故での外傷による切断が多かったのですが、最近では糖尿病や動脈硬化症による循環不良による切断が増えてきています。特に、高齢者の切断の増加が特徴的です。
切断の手術からの流れ
- 切断手術
切断は、様々な部位で行われます。残った手や足(断端)が長いほど、一般的には機能が期待できますが、傷跡が悪くならないように、適切な長さでの切断を行います。
手術の後には、傷が落ち着いてむくみがとれたら、できるだけ早期に義肢を作るとリハビリの進行もスムーズになります。
特に足(下肢)の切断後の義足では、歩行訓練を進めるために、早期の義足作製が望まれます。 - 断端の管理(断端形成)
下肢切断に関しては、手術中に断端にギプスを巻いて、義足をつけてしまうという方法もあります(rigid dressing)。その方法では、患者さんにとって、足の喪失という心理的なショックを少しは軽減することができ、歩行訓練も早期から可能です。ただし、糖尿病や動脈硬化症による循環不良での切断の場合には、傷跡が膿んだり、治りにくかったりすることが多いので、傷口の観察ができないこの方法は避けます。したがって、主に腫瘍や事故による切断に対して行われます。
循環不良による切断の場合には、傷口を確認しながら、できるだけ早く義足を作るために、断端に弾性包帯を巻いてむくみをとるようにします(soft dressing)。
リハビリの訓練中にセラピストが、あるいは病棟で看護師が弾性包帯を巻きますが、一日に何回か、巻き直しをした方が効果的ですので、患者さんご自分でも巻くことができるように指導を行います(図1)。 - 手術後の痛み
手術の後、特に直後には断端痛といわれる痛みや幻肢(切断した足や手がまるでそのまま残っているように感じる)と呼ばれる感覚を訴える方が多いです。断端痛は、傷口の痛みの場合もありますし、また、幻肢痛といって、切断された足の先などが痛む症状の場合もあります。傷口の痛みは、時間が経って、傷が落ち着いてくれば自然に治まります。また幻肢や幻肢痛は、同様に時間が経てば落ち着いてくることが多く、義肢を作製して装着すると消失することもありますが、再燃することもあります。ただ、一度なくなっても、また時々幻肢や幻肢痛は一時的に現われることもあります。
また、義肢作製、装着後に、義肢が合わずにあたって痛んだり、合っていても刺激によって痛みが出たりすることもあります。リハビリができないほど痛みが強いときには、内服薬でコントロールしますが、義肢が合わない場合には、それを調整しますし、義肢装着による刺激で痛みが出てくることもありますので、その場合には、義肢装着の時間を減らして少しずつ慣らしていくことが必要になります。 - 切断術前後のリハビリテーション
切断の手術前から、リハビリを行うことが望ましいですが、本格的なリハビリは、手術後から始まります。詳細については、次項で述べます。 - 義肢作製
足を切断した場合には、義足、腕の切断の場合には義手を作製します。義肢は、それ自体には機能を求めない装飾的なものと、機能を求めるものとに大きく分けられます。腕の切断の場合には、切断していない方の片手で、ある程度日常生活はできることが多いため、機能を求めない装飾義手(図2の左の写真)を作る頻度が多くなります。ただし、仕事上、両手動作などが必要な場合には、作業用義手や機能義手(図2の真ん中、右の写真)を使うこともあります。それに対して、義足の場合には、可能であれば立ったり歩いたりすることを目的とした機能的な義足を作ります。立ったり歩いたりが難しいと予想される場合には、装飾義足を作ります。
また、それぞれ腕や下肢のどの部分で切断したかによっても、作製する義手や義足の種類が異なります(図3)。例えば、膝から上での切断(大腿切断)では、大腿義足といって、断端を入れるソケットと、膝と足首の機能を持つものを作製します。膝から下の切断(下腿切断)では、患者さん自身の膝が残っているので、断端を入れるソケットと足首の機能を持つ下腿義足を作製します。
図1.弾性包帯の巻き方
図2.義手の種類
図3.義足の種類
切断術前後のリハビリテーション
- 義肢作製まで
特に高齢者の循環不良の切断では、手術前後にベッド上に寝ている期間が長くなることが多くなります。その結果、切断する手足以外の部分の筋力が弱くなります。下肢の切断では、切断していない方の足が弱くなってしまうと、義足を作っても、立ったり歩いたりするのが難しくなるために、筋力を保っておくことが大事です。
そのため、可能であれば、手術前にもなるべく早くからリハビリを行い、筋力や持久力訓練を行っておくことが望まれます。筋力だけでなく、関節の柔らかさを保つことも重要です。手術前後で、関節が硬くなってしまうと、義肢を作製しても、上手にそれを使って動くことができなくなるので、関節を硬くしないように、関節を柔らかく保つ訓練(関節可動域訓練)を行います。
術後には、全身の状態が落ち着いていれば、できるだけ早くからリハビリを開始します。筋力訓練や関節可動域訓練、また足の切断後であれば、切断していない方の足で立つ訓練なども行います。手術中に義足をつけてしまうrigid dressing法であれば、歩行訓練も進めます。
腕の切断の場合には、切断していない方の手で、日常生活動作が行えるように指導します。
それらと同時に、傷口の状態を見ながら、断端形成も行います。 - 義肢作製
前述のように、義肢の種類はいろいろとあるため、その方に合った義肢はどのようなものかということを検討して作製します。 - 義肢作製後
義肢作製後には、義肢がきちんと合っているかどうかをチェックしながら、義肢を装着し義足の場合には、立ち上がり、立位を保つ、歩くなどを行っていき、それらが可能になったら、退院に向けて、屋外の歩行や階段昇降などの練習も行います。義足を自分で履く練習も行います。同様に義手の場合にも、装着から、それを装着して実際にその手を使う訓練を行います。
退院、社会復帰に向けて
退院後は、義肢を装着して生活し、その後社会復帰を目指していきます。そのための環境設定や実践場面での訓練も必要になります。退院したら、リハビリは終わりというわけではなく、退院後の生活そのものがリハビリとなります。そのため、必要なチェックや指導なども引き続き外来で行います。
慶應義塾大学病院での取り組み
患者さんに対する義肢(義手や義足など)の処方にあたっては、解剖学や運動学を十分に考慮して、患者さんの生活に適した構造と外観を備えたものを作製する必要があります。リハビリ科では、厚生労働省が主催する義肢装具等適合判定医師研修会で研修を終えた医師が、義肢装具士と一緒に装具を作製する外来を週1回設けて、作成にあたっています。
さらに詳しく知りたい方へ
- 義肢装具サポートセンター(公益財団法人鉄道弘済会)
- オットーボック・ジャパン株式会社
- 義肢装具のチェックポイント(第8版) / 日本整形外科学会, 日本リハビリテーション医学会監修
東京 : 医学書院, 2014.3
義肢装具等適合判定医、コメディカルの人向けの教科書。
文責:
リハビリテーション科
最終更新日:2018年3月1日