変形性肘関節症
概要
肘関節は、上腕骨、橈骨、尺骨から構成されています。この3つの骨がそれぞれ2つずつ組み合わさって関節を作っています。つまり肘関節とは、上腕骨遠位と橈骨頭との関節(腕橈関節と呼ばれます)、上腕骨遠位と尺骨との関節(腕尺関節)、橈骨と尺骨の関節(近位橈尺関節)の3つの関節から成り立っています。
変形性肘関節症とはこれらの関節面を構成している軟骨が、老化や磨耗あるいは使いすぎなどによって変性してしまう疾患です(図1)。股関節・膝関節などの荷重関節(体重がかかる関節)に比べて、肩関節・肘関節・手関節などの非荷重関節(体重がかからない関節)は、この変形性関節症の発生頻度は低いと一般に考えられています。
しかし、非荷重関節と考えられている肘関節は、肩関節と手関節を繋ぐちょうど間にあり、スポーツ(特に野球などの投球動作、テニスなどのラケットを振る動作など)や重いモノを運んだりする際に、大きな力が加わります。このため、変形性肘関節症は、肩関節や手関節に比べて、その発症頻度は比較的高いことが知られています。また、スポーツや重労働以外にも、肘関節の外傷(肘関節脱臼、上腕骨顆上骨折、上腕骨外顆骨折、橈骨頚部骨折、肘頭骨折)などを誘因として発生することもあります。
症状
症状は肘関節の痛みや可動域制限(肘の曲げ伸ばしが制限されている状態)です。
画像所見
単純X線画像では、肘関節の変形や骨棘形成(関節を構成している骨がトゲのようにとんがっているような状態)、関節裂隙の狭小化(関節軟骨はレントゲンに写らないので、関節の隙間が軟骨の厚さを示しています)がみられます。症例によっては、肘関節内側にある尺骨神経(手の小指、環指の小指側の知覚をつかさどっている神経)が骨棘によって圧迫されて、小指や環指のしびれや握力の低下などがでてくる場合もあります。
治療
治療は、保存的治療(手術しない方法)がまず行われます。安静の指示や非ステロイド系抗炎症剤を処方し、リハビリテーションとして温熱療法や肘のストレッチング、筋力強化訓練を指導します。また、肘関節の変形や不安定性がみられる症例では装具療法として肘関節装具の着用が勧められます。症例によっては、肘関節内に鎮痛剤、局所麻酔剤、ステロイドなどの注射が試みられます。
このような保存的治療が有効でなく、日常生活動作(食事をする、服を着る、顔を洗う、髪をとく、お尻を拭くなど)に不自由を来たす症例では、手術的治療が勧められます。手術的治療には、関節遊離体摘出術、肘関節形成術、人工肘関節置換術などがあります。人工肘関節置換術は変形性肘関節症および関節リウマチによる肘関節変形に対して、痛みを著明に改善できる治療法ですが、比較的大きな手術となりますので合併症(感染・脱臼など)も多く報告されています。当院では3次元CTを用いたコンピューターシミュレーションによる手術計画を行い、安全かつ確実な手術に取り組んでいます(図2)。
図1.左:正常の肘関節 中央:関節軟骨が変性した変形性肘関節症 右:人工肘関節置換術
図2.術前の患者さんの肘関節をもとに計画した人工肘関節
文責:
整形外科
最終更新日:2017年2月27日