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自己免疫性肝炎(AIH)

じこめんえきせいかんえん

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概要

自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis : AIH)は、中年の女性に多く発症する肝炎で、その成因についてはまだ不明ですが、肝細胞に存在する何らかの自己抗原に対する免疫反応が原因と考えられています。放置しておくと、慢性の経過を辿り、ウイルス性肝炎と同様、肝硬変へと進展するため、早期に診断し、治療することが重要です。多くは肝機能障害とりわけAST・ALT値(トランスアミナーゼ値)の上昇により発見されることが多いですが、発見が遅れた場合はすでに肝硬変や肝不全に移行しているケースもあります。

自己免疫性肝炎では、血中ガンマグロブリンやIgG値の上昇や抗核抗体や抗平滑筋抗体、肝腎ミクロゾーム1抗体といった自己抗体の出現が特徴的です。自己抗体の種類によって、I型(抗核抗体または抗平滑筋抗体陽性)とII型(肝腎ミクロゾーム1抗体陽性)に分類されますが、日本ではほとんどが I型自己免疫性肝炎です。また、ヒトの免疫に関わるHLAという分子のうち、日本人ではHLA-DR4、欧米ではHLA-DR3を多くもつ方が発症しやすいことから遺伝的な要素もあると考えられます。

診断

診断には前述した血液検査のほかに、経皮的肝生検もしくは腹腔鏡的肝生検によって肝組織を採取し、病理医により顕微鏡で評価してもらう組織学的検査も重要で、インターフェイス肝炎・形質細胞浸潤といった特徴的な肝組織像がみられれば診断に近づきます。しかし、決定的な診断項目はないため、他の原因による肝障害でないことを確認したうえで、これらの項目を総合的に判断して診断する必要があります。

国内では、自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021年)に掲載された診断基準(表1)を用いて診断しますが、国際自己免疫性肝炎 グループ(IAIHG)により発表された改訂版国際診断基準・スコアリングシステム、簡易型国際診断基準・スコアリングシステムも参照していきます。しかしながら、診断が困難なケースも多く、自己免疫性肝炎の疑いとして経過観察しているうちに、確定診断に至る例も少なくありません。近年、急性肝炎のような病態を呈する自己免疫性肝炎が散見されるようになりました。この急性発症型自己免疫性肝炎では、急速に肝機能が悪化し、肝不全にまで至るケースもあることから、早期の診断、治療が必要と考えられています。

表1.自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021年)診断基準

(自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021年)p.14をもとに著者が作成)

  1. 抗核抗体陽性または抗平滑筋抗体陽性
  2. IgG 高値(>基準上限値 1.1 倍)
  3. 組織学的に interface hepatitis や形質細胞浸潤がみられる
  4. 副腎皮質ステロイドが著効する
  5. 他の原因による肝障害が否定される

典型例

上記項目で1〜4のうち3項目以上を認め
5を満たすもの。

非典型例

上記項目で1〜4のうち1項目以上を認め
5を満たすもの。


治療

自己免疫性肝炎に対しては、他の自己免疫疾患と同様、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤が通常用いられます。欧米では、初期治療から副腎皮質ステロイドとアザチオプリンといった免疫抑制剤を併用しますが、国内では通常副腎皮質ステロイドとして体重あたり0.6 mg/kg/日以上のプレドニゾロンを投与します。投与後血清トランスアミナーゼ値の改善を確認した後、1-2週あたり5mg、その後は2-4週あたり2.5mgを目安に漸減します。急速な減量は肝機能悪化(再燃)の原因となるため、副作用に留意しながら血清トランスアミナーゼ値を基準範囲内に保つよう漸減していき、最終的に最低限のプレドニゾロン維持量を長期にわたって継続します。一部の症例では、副腎皮質ステロイドを中止することも可能ですが、減量とともに再び悪化する場合がありますので、副腎皮質ステロイドの投与を一生続けることが必要な場合もあります。

副腎皮質ステロイドの効果が不十分で肝機能のコントロールがつかない場合、あるいは副作用で使用できない場合は、アザチオプリンや6-MPといった免疫抑制剤を使用します。欧米では以前から使用されていたアザチオプリンの併用療法が国内でも2018年に保険収載となりました。副腎皮質ステロイドには、消化性潰瘍、糖尿病骨粗鬆症といった副作用があり、これらの副作用に対しても予防薬投与が必要です。また、投与によりムーンフェイス(満月様顔貌)にもなります。また、最近では軽症例の自己免疫性肝炎で副腎皮質ステロイド剤を減量、中止するためにウルソデオキシコール酸(ウルソ)を用いる試みもなされています。

一方、急性発症型自己免疫性肝炎のように早期に診断できなかった場合は重症化することが報告されています。表2に示す重症度判定において重症と判断された症例では、肝移植も視野に入れた治療、すなわち、副腎皮質ステロイドパルス療法や人工肝補助療法といった集学的治療が必要になることがあります。このような重症例の治療には真菌やサイトメガロウイルスなど日和見感染症の合併にも注意が必要で、肝移植が必要となるケースも存在することから専門施設での治療が必要となります。

表2. 自己免疫性肝炎の重症度判定

(自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021年)p.15より表を引用)

臨床所見

臨床検査所見

①肝性脳症あり

①ASTまたはALT > 200U/l

②肝萎縮あり

②総ビリルビン > 5mg/dl
③プロトロンビン時間(PT-INR)≧1.3

重症
次のいずれかが見られる
1.臨床所見:①または②
2.臨床検査所見:③

中等症
臨床所見:①、②、臨床検査所見:③が見られず、臨床検査所見:①または②が見られる

軽症
臨床所見:①、②、臨床検査所見:①、②、③がいずれも見られない


さらに詳しく知りたい方へ

文責: 消化器内科外部リンク
最終更新日:2022年5月2日

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