慶應義塾大学病院KOMPAS

HOME

検索

キーワードで探す

閉じる

検索

お探しの病名、検査法、手技などを入れて右のボタンを押してください。。

肝移植

かんいしょく

戻る

一覧

概要

生体肝移植の適応疾患

慶應義塾大学病院では、これまでの診療実績から安定した移植医療の成績をおさめておりますが、それぞれの疾患を十分に検討したうえで適応を決定しています。主に以下に記載した疾患で、そのほかの治療法では治癒の見込みのない状態となり、移植が最良の治療法であると判断され、本人あるいはご家族が移植を希望されている場合に肝移植の適応を考慮します。近年の抗ウイルス剤の開発によって、B型・C型肝硬変は肝移植の選択するのが良いと考えられるようになってきました。長期成績、再発といった問題点もありますが、少しずつ治療成績は向上しています。肝細胞がんに関しても、十分に適応を検討することで満足する結果をおさめております。また、アルコール性肝硬変や若年者の劇症肝炎では非常に良好な経過をたどることが多く、移植が良く適応していると考えられます。

  • 胆道閉鎖症
  • 原発性胆汁性肝硬変
  • 先天性代謝異常症
  • 肝静脈血栓症 (Budd-Chiari症候群)
  • 原発性硬化性胆管炎
  • 原発性肝悪性腫瘍
  • アルコール性肝硬変
  • 非アルコール性肝硬変
  • 劇症肝炎
  • その他

生体部分肝移植とは、健康な人から肝臓の一部分を取り出し、患者さんの悪くなった肝臓と取り替える手術のことです。肝臓をもらう側をレシピエント、与える側をドナーと呼びます。脳死患者さんの肝臓全体または一部を移植する方法は、すでに欧米で長い歴史がありますが、生体部分肝移植の特徴的なところは、健康な人がドナーになる点です。生体部分肝移植の歴史と症例数は脳死肝移植に及びませんが、これまで国内で行われた約4,000例近くの生体部分肝移植は、欧米の脳死肝移植と比較しても優れた成績を残しています。脳死ドナーからの臓器提供が限られている現在の日本の状況では、重症の肝不全や肝臓が原因となる代謝性疾患で生命の危機に瀕する患者さんの命を救い、生活の質を高めるための有効な治療手段であると私たちは考えています。

1)生体部分肝移植の目的および予測される効果

生体部分肝移植の最大の目的は、種々の薬剤や外科的治療にもかかわらず進行性の肝不全や肝臓の代謝異常により、生命の危機に瀕している患者さんを救命することにあります。国内でこれまで行われた生体部分肝移植の累積5年生存率は約77%で、欧米の先天性胆道閉鎖症に対する脳死移植の累積5年生存率が65~75%であるのに比べても、その成績は優れたものです。この理由は、生体部分肝移植では健康なドナーから質の高い肝臓を患者さんに移植することができるからです。腎移植の分野でも生体ドナーからの移植成績は、脳死ドナーからの成績よりも良いことが分かっています。小さめの部分肝が移植されても、移植肝は患者さんの体格に合った大きさに短期間で増大します。また、患者さんが成長すると共に、移植肝も成長して患者さんの生命を維持し続けることが可能です。移植後早期は全肝移植の方が有利ですが、長期的な観点では部分移植と全肝移植との間に差はありません。

2)生体部分肝移植の手術内容

生体肝移植手術は大きく分けて以下の3つの部分からなります。

a) ドナー(肝臓を提供する方)から肝臓の一部を切除します。
b) レシピエント(肝臓をもらう方)の悪くなった肝臓全てを取り除きます。
c) ドナーから摘出した肝臓を、レシピエントに植え込み手術を完了します。

ドナーから取り出した健康な肝臓はできるだけ早くレシピエントに移植する必要があるため、a) とb) の一部は同時進行になります。a) で取り出した移植肝の血管や胆管は、レシピエントに移植できる状態に調整されます。c) では、移植肝の血管がレシピエントの血管に、また移植肝の胆管はレシピエントの胆管または小腸につながれ、移植は完了します。移植肝は、血流が再開されることによって再びレシピエントの中で機能し始めます。ごくまれに、移植手術の最中にレシピエントの状態が不安定になったり、移植後の状態を左右するような予想外の病変が見つかるなどの理由で移植に至らずに手術が中止されることもあります。移植手術は、手術終了後にドナーもレシピエントも集中治療室での術後管理を受けます。集中治療室在室期間は、ドナーは1泊、レシピエントは1週間が平均です。

3)生体部分肝移植の予測される合併症とそれに対する処置

生体部分肝移植は高度な技術を要する手術ですので、悪くすれば生命の危機に瀕するようなことが術中・術後に起こりうることを常に念頭に入れておかなければなりません。また、術前の全身状態が悪い患者さんほど合併症の発生率が高いことが知られていて、全身状態が比較的安定している時期に計画的に手術を行うことが重要です。不幸にして何らかの理由で移植肝が機能しなくなった場合、再移植の適応になる場合があります。この場合、ご家族への過大な負担を避けるため、ほかの生体ドナーからの再移植は原則として行わない予定です。
手術に関する主な合併症は出血、移植肝血流障害、胆管合併症、移植肝のサイズ不適合、拒絶反応と術後免疫抑制療法に伴う副作用などに分類されます。
生体部分肝移植を実施するにあたっては、その他多くの薬剤や検査が必要であり、それに伴う副作用・合併症が起こることがあります。当院では、熟練した肝臓外科医や海外で実際に移植医療研修を行ったスタッフが、これらの危険性をできるだけ低くできるように、注意深く診療を行います。
肝移植手術は肝臓疾患を伴った患者さん一人による、一人のための治療では決してないことをまずご理解ください。非常に大きな手術であり患者さん個人のがんばりだけでは、病気・術後を乗り越えることは非常に困難です。健康な方の体にメスを入れることで、受ける方、授ける方、その周りの方々の十分な理解と、協力が欠かせません。1度移植手術を受け、術後早期の段階が乗り越えられたとしても、免疫抑制剤、他疾患により様々な薬剤を一生飲み続け、退院してからも今まで以上に健康管理に心がけて生活していかなくてはいけないこと、種々の検査・治療を乗り越えていくことも併せてご理解ください。

ドナーについて

ドナーの選択は自発的意志に基づく臓器提供を大原則としております。
その上で血液型の適合性、肝障害の有無、移植肝の大きさや血管・胆管の走行形態などを総合的に評価し、家族の希望や社会的背景も考慮した上で、最も条件のよいドナー選択を行っております。

1. 基本事項

  • 1)健康が大前提:悪性疾患の既往がある場合は、完治している場合に限ります
  • 2)年齢:20歳以上、60歳以下が望ましいと考えております。未成年ドナーについては当院における倫理委員会の承認を必要とします。
  • 3)親等:日本移植学会で定められた倫理規定に準じた親族・姻族(親族六親等以内、姻族三親等以内)に限ります。ただし、当院では、レシピエントからみて、三親等以内の親族(おじ、おば、おい、めいまで) および配偶者が望ましいと考えております。

2. ドナーとレシピエントとの血液型(ABO)適合性

  • Identical(一致)         A型→A型 など
  • Compatible(適合)       O型→A型 A型→AB型 など
  • Incompatible(不適合)     A型→O型 A型→B型 AB型→A型 など

一致・適合が望ましいと考えておりますが、当院の特徴として、従来極めて成績が不良と考えられてきた成人血液型不適合移植に積極的に取り組んでおり、様々な工夫を取り入れることにより、通常の血液型一致・適合移植と同等に近い良好な成績をおさめております。

3. ドナー術前検査

ドナー候補となられた場合は、リスクをご説明した上で以下の術前検査を受けていただきます。

  • 入院時現症(身長・体重・血圧・脈拍・体温など)
  • 問診(既往歴・家族歴など)
  • 血液型(ABO型、Rh型)
  • 血算、生化学(肝機能・電解質・腎機能)、凝固、感染症など
  • 心電図(二重負荷)
  • 胸腹部レントゲン
  • 呼吸機能、血液ガス
  • 腹部造影CT
  • 腹部超音波検査
  • 上部消化管内視鏡検査
  • 経静脈的胆道造影下CT(DIC-CT)

採血で肝機能異常がある場合、高度の脂肪肝がある場合は、ドナー手術は受けられません。また、肝動脈・肝静脈・門脈・胆管の走行に移植の妨げになるような解剖学的特性がないことが条件となります。脂肪肝の評価のため、あるいはレシピエントが特殊な原疾患(PSC, PBC)の場合は、術前にドナーの経皮的肝生検を行い、病理組織学的診断を行うこともあります。また移植肝の大きさがレシピエントにとって十分な量であり、かつドナー自身に十分な大きさの肝臓が残るということも条件になります。

4. ドナー手術について

ドナー手術は、レシピエントに必要な移植肝の大きさに準じて、外側区域切除、左葉切除、右葉切除などの術式を選択します。どの術式でも胆嚢摘出を同時に施行します。通常輸血が必要になることはありません。手術時間は約6~8時間で、手術当日は集中治療室に入室していただき、翌日一般病棟へ戻ります。
当院では2002年8月からドナー手術の術前術後管理にクリニカルパスをいち早く導入し、術前術後管理の標準化を徹底してきました。現在、ドナーの術後平均在院日数は約2週間となっています。
ドナー手術では、安全を第一に考え、合併症を極力少なくするよう努力していますが、約2割の症例で何らかの合併症を経験しています。胆汁の流れ道である胆管にまつわる合併症(胆汁漏、胆管狭窄など)が最も術後入院期間を長くする厄介な合併症ですが、後遺症を残すような症例は経験しておりません。

文責: 一般・消化器外科外部リンク
最終更新日:2019年7月19日

ページTOP