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慢性膵炎

まんせいすいえん

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概要

膵臓は、みぞおちの奥、胃袋の後ろ側に横たわる消化器系の臓器のひとつです。膵臓の大事な機能は2つあります。食物の消化に必要な消化酵素を含んだ膵液を1日1,000ml以上分泌して食物の消化を助けること、そして血糖値を調整するインスリンなどのホルモンを分泌して、糖尿病にならないように調整することです。膵炎は、膵液を出す膵外分泌腺に様々な原因で炎症が起こる病気です。膵炎には急激な炎症が膵臓に起こり、みぞおちや背中に強い痛みを感じる急性膵炎と、長期間持続的な膵臓の炎症により膵臓の細胞が徐々に壊されて線維成分に置き換わり、膵臓が硬くなって機能が低下する慢性膵炎とに分けられます。

慢性膵炎は、消化酵素を分泌する膵臓の外分泌腺細胞に長期間持続的に炎症が起こることで徐々にその細胞が壊され、壊れた細胞が線維組織に置き換わることで膵臓が硬くなり、膵臓本来の機能が失われてしまう病気です。原因としてはアルコールによるものがほとんどで、このほかに胆石によるものや副甲状腺機能亢進による高カルシウム血症、原因不明のものもあります。

症状

慢性膵炎はみぞおちや背部の痛みで始まり、この鈍い痛みが長期間にわたり断続的に続きます。慢性膵炎の初期には急性膵炎様の激しい腹痛を数か月後ごとに繰り返す方が多いのですが、通常は7~8年ぐらい経過すると腹痛は徐々に軽くなります。これは膵臓の機能が完全に荒廃して炎症が軽減することによるもので、食欲低下、下痢、体重減少など膵臓の機能不全に伴う症状が認められます。特に下痢は悪臭を伴い薄黄色クリーム状で水に浮く脂肪便となります。これは膵臓の外分泌細胞が障害され、脂肪やたんぱく質の消化酵素の分泌が低下し消化吸収不良が生ずるためです。また慢性膵炎が長期にわたると、膵臓の線維化が膵外分泌細胞のみならず、インスリン分泌障害をも引き起こして血糖の調節ができなくなり糖尿病を発症します(図1)。

図1.慢性膵炎の進行別症状

図1.慢性膵炎の進行別症状

診断

慢性膵炎は慢性膵炎臨床診断基準2019を基にして診断しています。CTMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)、腹部エコー、超音波内視鏡、ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)による画像検査と組織検査に加えて、腹痛などの症状、血液データ、飲酒歴、膵外分泌機能障害、急性膵炎の既往などのいくつかの項目を基にして、確定診断としています(さらに詳しく知りたい方へ、のリンクより診断基準をご確認ください)。

また、慢性膵炎に至ってしまうと治療が難しくなるため、診断基準に至る前の「早期慢性膵炎」を診断して禁酒、内服治療で慢性膵炎への進展を予防する試みがなされています。早期慢性膵炎を判断するためには超音波内視鏡検査が大変有用であり、慢性膵炎を疑う方には超音波内視鏡検査を受けることを推奨しています。

治療

1) 代償期の治療

慢性膵炎の経過は長期にわたります。腹痛発作が繰り返し鈍い腹痛が持続する代償期と膵臓細胞が壊れて膵臓の機能が失われる非代償期に分けられ、病期ごとに治療法が異なります。 代償期の治療は腹痛に対する治療が中心になります。慢性膵炎による痛みは、膵臓の線維化により膵液の通り道である膵管が細くなり膵液の流れが悪くなることにより起こるため、膵管の出口を緩めるお薬を使って膵液の流れを良くする治療法を試みます。また痛みの治療として膵臓の炎症を抑えるために非ステロイド性消炎鎮痛薬を投与し、頑固な痛みの場合にはより強力な非麻薬性鎮痛薬を使用することもあります。また、低脂肪食を基本として膵臓への刺激を抑えてあげる必要もあります。

2) 非代償期の治療

膵臓の機能そのものが失われるため、膵臓から出る消化酵素が減少し、たんぱく質や脂肪の消化吸収不良が起こり下痢を起こします。この下痢に対する治療として、膵消化酵素剤の補充が必要になります。また、糖尿病を併発することが多く、インスリン治療を中心に専門医による治療を並行して受けていただくことになります。

3) 膵石に対する治療

膵管の中に石ができて膵液の流れが悪くなることで腹痛症状がある場合は治療が必要となります。残念ながら慶應義塾大学病院では体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)を施行しておりませんので、大きな結石でESWLが必要な際は専門施設をご紹介しております。その一方で、繰り返す炎症で膵管が細くなっている場合は、内視鏡を使って細くなった膵管にチューブを挿入して膵液の流れを良くする治療を行ったり、内視鏡で治療可能な患者さんには、内視鏡的な電気水圧衝撃波胆管結石破砕装置(EHL)を施行しております。また、当院では一般消化器外科と共同して、膵石、慢性膵炎患者さんの手術療法も施行可能です。お若い患者さんで膵石ができた患者さんについては、手術することで疼痛は改善し、膵がん発生のリスクは低下することが期待されています。ぜひご相談ください。

図2.膵管鏡を用いた膵石破砕処置 (患者さんより許可を頂いて掲載しております)

図2.膵管鏡を用いた膵石破砕処置 (患者さんより許可を頂いて掲載しております)

4) 画像検査を用いた定期的な経過観察の重要性

慢性膵炎は膵臓への炎症が長期間続くため、膵がんを発症する危険性が高くなります。そのため、慢性膵炎に至った場合は定期的な経過観察が必要です。禁酒や手術による膵管減圧手術を行うことで、膵がん発生の危険性が低下することも報告されています。禁酒、断酒が難しい患者さんについては、まずは禁酒、断酒について専門施設で治療を受けてから受診いただくようにおすすめしております。

慶應義塾大学病院での取り組み

慢性膵炎の経過は長期にわたります。慢性膵炎の患者さんがより良い日常生活を送ることができるよう、生活指導を含め長期的視野に立った医療が提供できるよう心がけています。膵炎の病態解明、新たな診断法・治療法を目指した基礎研究、臨床研究にも力を入れています。国内の大規模な臨床研究(慢性膵炎による難治性疼痛に対する内科的インターベンション治療と外科治療の比較解析外部リンク)にも参加しておりますので、ご協力よろしくお願いいたします。

さらに詳しく知りたい方へ

  • 尾崎秀雄ほか. 肝臓・胆のう・膵臓病の食事療法. 第3版 (食事療法シリーズ ; 2).
    東京:医歯薬出版, 2003.2
    膵炎を含む膵臓病患者さんのための食事療法が、写真入りで具体的な献立を挙げながら分かりやすく紹介されています。
  • 慢性膵炎診療ガイドライン2021. 改訂第3版 / 日本消化器病学会編
    東京:南江堂, 2021.11
  • 膵石症の内視鏡治療ガイドライン2014外部リンク(一般社団法人 日本膵臓学会)
  • 慢性膵炎臨床診断基準2019外部リンク(一般社団法人 日本膵臓学会)

文責: 消化器内科外部リンク
最終更新日:2022年4月1日

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