聴覚機能検査の概要
ここでは、まず、難聴で来院された場合の検査の流れ・種類について説明します。続いて具体的な聴覚機能検査として行われることの多い、純音聴力検査、語音聴力検査、耳音響放射検査、聴性脳幹反応検査、聴性定常反応検査があります。診療の流れに沿って詳しく説明します。
診療の流れ(難聴の患者さん)
これらの検査は患者さんの状態にもよりますので順不同ですが、一例として紹介します。
- 初診では、問診票を記載してから、医師と対面し、患者さんのお話を伺います。
- 外耳、鼓膜に難聴の原因となる疾患がないか診察します(耳垢塞栓など各種検査の前に処置が必要なものはこの時点で処置を行います)。
- 純音聴力検査や語音聴力検査を「聴力検査室18番」にて行います。
- 診察室にて、聴力検査の結果をお話します。
- 検査の結果によっては、治療を開始する場合もありますが、さらに下記のような精密検査を必要とする場合があります。
検査の多くは予約制であり、医師と次の検査予約について相談することになりますのでスケジュール帳をご用意ください。
- 聴覚機能検査(純音聴力検査、語音聴力検査)
耳音響放射検査、内耳機能検査(後述):内耳の特に有毛細胞の働きを調べます。
聴性脳幹反応検査、聴性定常反応検査(後述):蝸牛神経(聴神経)や脳幹、聴皮質機能に関する検査です。
その他にティンパノメトリー、アブミ骨筋反射検査、耳管機能検査などがあります。 - 画像検査(CT、MRIなどで耳の断面や脳の断面を撮影し詳しく検査します)。
造影剤を使用する場合があります。 - 採血(難聴に関連した疾患を調べるための検査、全身状態の把握など)
- めまいなどを合併する場合、平衡機能検査(温度眼振検査)(平衡機能検査参照)
- その他
続いて、聴覚機能検査について説明します。
純音聴力検査(Pure tone audiometry)
聞こえの程度を調べる最も一般的な検査です。音が聞こえたら、手元にあるボタンを押してもらう検査です(図1を参照、検査機器は図2)。125ヘルツ(低音)から8,000ヘルツ(高音)までの範囲を右耳と左耳に分けて検査します(一般的な健康診断では1,000ヘルツと4,000ヘルツの2音のみです)。患者さんが聞こえた最も小さい音の大きさ(数値)を調べます。ヘッドホンから音を出す気導検査と、耳後部から音を伝える骨導検査があります(検査の様子は図3、検査結果の一例は図4を参照)。
図1.聴力検査の様子
音が聞こえたら手元のボタンを押します
図2.聴力検査機器
図3.ヘッドホンをつけた様子
左:気導聴力検査、右:骨導聴力検査
図4.標準純音聴力検査の一例
気導と骨導の聴力に差があるものを伝音難聴とよび、外耳・中耳の病変を考えます。
気導と骨導がともに悪化しているもの(差がないもの)を感音難聴とよび、内耳、蝸牛神経(聞こえの神経)より中枢側の病気を疑います。また、上記の2つを混合している場合を混合難聴と呼びます。
たとえば、ご年配の方で両側高音域の聴力が低下している場合、加齢性難聴の可能性を考えます。
語音聴力検査(Speech articulation test)
「どれくらいはっきり、正確に聞こえているのか」を調べる検査です(検査の様子は図1と同様)。言葉の単音節(たとえば、「ア」とか「カ」など)が聞こえているかどうかを調べます。純音聴力検査の結果が良くても、この検査結果が芳しくない場合は、「音は聞こえるけれども、話しかけられると何を言っているかわからない」といったコミュケーションに支障をきたす症状が出ます(加齢性難聴に代表とされる内耳機能が低下する疾患でなることが多いです)。
この検査が役に立つのは、1)難聴の原因を調べる場合、2)補聴器の適合、3)人工内耳(手術)の適応を調べる場合などです。
一般的に語音弁別能検査の結果が50%以下である場合は補聴器の効果が出にくいことが知られています。
耳音響放射検査(Otoacoustic emission: OAE)
内耳、特に外有毛細胞と呼ばれる、聞こえに関する感覚細胞の反応について検査します(図5を参照)。イヤホンを耳に入れて、音を聞いていただくだけで内耳感覚細胞の反応を検査することができ、内耳の活動の程度について推測することができます。特に歪成分(結合音)耳音響放射検査(DPOAE)と呼ばれる検査では、1,000ヘルツから6,000ヘルツくらいまでの音域について反応を調べることが可能です。
図6にDPOAEの一例を示します。この患者さんは左耳で2,000ヘルツ以上の音域に反応がなく、内耳性難聴が疑われます。
図5.OAEの様子
ベッドに仰向けになり、耳にイヤホンを入れて安静にします。
図6.DPOAEの一例
聴性脳幹反応検査(auditory brainstem response: ABR)予約制
蝸牛神経やそれより中枢側(脳幹)の聴覚伝導路の機能を調べる検査です。ベッドで横になり、ヘッドホンから出る音に反応して出る脳波について検査します(図7、図8を参照)。
耳音響放射検査や聴性脳幹反応の検査中は、患者さんの体が動いてしまうと筋肉の動きが入ってしまい、検査がうまくできなくなります。そのため、うまく検査ができないことが予想される新生児、乳幼児の場合には、薬を飲んで睡眠をとりながら検査をすることもあります。純音聴力検査、耳音響放射検査、聴性脳幹反応などの検査を組み合わせることによって、病気の原因が内耳にあるのか、それとも蝸牛神経や脳幹にあるのかを把握することが可能です。隣の部屋のベッドに患者さんは横になり、検査を受けています(図8)。
図7.聴性脳幹反応検査中
(検査技師が検査しているところ。)
図8.患者さんの様子
ベッドに仰向けになり、電極とヘッドホンをつけて安静にします。
聴性定常反応検査(auditory steady state response: ASSR)予約制
脳幹やそれより中枢側(聴皮質)の聴覚伝導路の機能を調べる検査です。電極の装着などABRとほぼ同様で、乳幼児の場合には、薬を飲んで睡眠をとりながら検査をすることもあります。ASSRでは、500ヘルツから4,000ヘルツまでの範囲の聞こえの程度を右耳と左耳に分けて推定することができます。また、骨導端子を用いることで、骨導聴力の推定も可能であり、純音聴力検査のように伝音難聴や感音難聴を推測することもできます。
さらに詳しく知りたい方へ
- 慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科学教室をご覧ください。
文責: 耳鼻咽喉科
最終更新日:2023年3月13日