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拡張型心筋症

かくちょうがたしんきんしょう

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概要

拡張型心筋症は進行性に心筋収縮能が低下し、左心室の拡大を起こして、心不全症状を来す心筋疾患のひとつです。診断は特定心筋症(虚血性、弁膜症性、高血圧性、サルコイドーシスなど全身性疾患に伴うものなど)を除外することによって確定します。

概要

かつては原因不明とされていましたが、近年では家族性(遺伝の影響による)、心筋炎、自己免疫(免疫系が間違って自分を攻撃してしまう)による原因が考えられています。

家族性は、心筋細胞を構成する蛋白質の遺伝子変異により発病し、全体の20~35%程度を占めるとされています。心筋炎では主にウイルス感染を契機に、免疫異常を引き起こして心筋細胞の障害にいたります。急性心筋炎が治る過程で異常が起こるタイプ、あるいは自覚症状のない間に慢性的に心筋炎を起こす慢性心筋炎のタイプがあります。また、自己免疫によって心筋の蛋白質に対して様々な自己抗体があらわれ、心筋障害を引き起こすことが報告されており、拡張型心筋症の患者さんの8割以上にこれらの自己抗体を認めています。

病気の原因が何であっても、心臓の収縮能の低下に対する反応として、交感神経や血圧調節をつかさどるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(注1)をはじめとする神経体液性因子(注2)が活性化され、心拍出量を維持しようとする代償機能が働きます。しかし、これらの反応が過剰かつ慢性的に持続すると、長期的にはかえって心機能を悪化させるため、この悪循環を断ち切ることが現在の心不全治療の主軸となります。

(注1)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
レニンという物質は腎臓の傍糸球体細胞(ぼうしきゅうたいさいぼう)で産生され、心不全の状態になると、レニン産生は増加します。レニンはアンジオテンシノーゲンという物質をアンジオテンシン1に変換し、これはアンジオテンシン変換酵素(ACE)により、アンジオテンシンIIに変換されます。アンジオテンシンIIは強力な血管収縮物質であるため血圧を上昇させ、また副腎を刺激してアルドステロンという物質の分泌を促進し、ナトリウム再吸収を促進することで循環血液量の増加を来します。これらの一連の系をレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系と呼んでいます。

(注2) 神経体液性因子
心不全の代償機構として活性化される、交感神経系、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系、抗利尿ホルモンなどの神経・内分泌系をまとめて神経体液性因子といいます。

症状

心臓から全身へ血液を拍出するポンプ機能が低下し、肺や全身にうっ血を引き起こす状態を心不全といいます。肺にうっ血が起こると息切れ、呼吸困難が生じ、最初は歩行や階段昇降など労作時のみに感じる程度ですが、進行すると安静時もしくは睡眠時に横になっていても呼吸困難が出現するようになります。また椅子などに座って前かがみになって靴紐を結んでいると、10秒程度で息苦しくなってくることがあります。呼吸困難が急速に進行し、ピンク色の泡状の痰が出たり、意識レベルの低下を来したりして、緊急に治療を必要とすることもあります。

拡張型心筋症では、慢性的な心筋障害(収縮能の低下)により、前述の息切れや呼吸困難に加えて、全身の血液が停滞して両下肢や顔面の浮腫(むくみ)が出たり、むくみにより体重が増加したり、胃腸粘膜のむくみによる食欲低下などが起こります。

また、全身への血液供給の低下により、全身倦怠感、手足の冷感、尿量の減少などが起こります。不整脈による動悸、とくに致死性心室性不整脈による失神、突然死が起こることもあります。収縮力が低下した左心室内に血液の固まりである血栓がつくられてしまい、流れていった血管の先で詰まってしまう塞栓症(脳梗塞など)を認めることもあります。

症状

診断

心内腔の拡大と収縮不全を特徴とする心筋疾患のうち、ほかに原因を有する特定心筋症を除外することで診断します。つまり、虚血性心筋症、弁膜症性心筋症、高血圧性心筋症、アルコール性心筋症、薬剤性心筋症(抗ガン剤などによる副作用)、甲状腺や副腎の異常、脚気などの代謝性心筋疾患、膠原病やサルコイドーシスなどの全身性心筋疾患、ほかにも周産期にみられる産褥性心筋症といった他原因の心筋障害の除外が必要です。

  1. 胸部X線
    心拡大を認め、病状が悪化したときは、肺うっ血の所見が見られます。
  2. 心電図
    左房負荷、左室高電位、異常Q波、QRS幅延長など多彩な変化を認めますが、本疾患に特徴的な所見はありません。
  3. 血液検査
    BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNP(N末端プロナトリウム利尿ペプチド)濃度は心不全の診断や重症度、さらに生命予後の評価にも有用です。一般に治療が奏功してくると、BNPやNT-proBNP値が徐々に低下するため、治療効果判定にも使用されることがあります。
  4. 心エコー検査
    左室内腔の拡大と全体的な収縮不全を認めます。機能的僧帽弁逆流を認めることもあります。
  5. 心臓カテーテル検査
    虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)を否定するため、冠動脈造影検査などが検討されます。心筋の一部を採取して顕微鏡などで観察する心筋生検はほかの心筋疾患の除外に有用です。拡張型心筋症に特異的な組織像はありませんが、心筋細胞の肥大、変性、間質の線維化を認めます。
  6. 心筋シンチグラフィー
    心筋血流SPECT検査(アイソトープ検査)で虚血性心筋症の鑑別や、正確な心機能の評価が可能です。
  7. 心臓PET検査
    心サルコイドーシスの診断に有用なことがあります。
  8. 心臓MRI検査
    放射線の被爆がなく、心臓の形態・機能診断を行うことができます。

治療

治療目標は、症状の改善や不整脈のリスク管理を行うことによって、心不全増悪イベント(救急外来受診や入院)を減らし、生活の質を向上させ、寿命の延長を目指します。基本は薬物治療と運動療法ですが、必要に応じて、ほかの非薬物治療を組み合わせて行います。

  1. 日常生活の注意点
    適切量の塩分・水分管理、過労を避けることが不可欠です。規則正しい服薬、血圧、体重測定などの自己管理が重要です。心不全を悪化させるものとして、貧血、感冒などによる発熱、不整脈があり、これらの徴候に注意します。
  2. 心不全に対する薬物治療
    慢性心不全では心機能低下に対する体の代償反応として、交感神経系およびレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が持続的に活性化されています。これらの過剰かつ持続的な活性化は、左心室をボール状に変形・拡大させ、さらなる心不全や不整脈の悪化を引き起こします。薬物治療は、これら交感神経系およびレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化を抑えることを目的とします。
    1. アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)
    2. β遮断薬
    3. アルドステロン拮抗薬
    4. ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬
    5. HCN4チャネル阻害薬
    6. 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬
      ACE-IはアンジオテンシンIIの産生を抑制する薬剤であり、ARBはアンジオテンシンIIが受容体に結合するのを阻害する薬剤です。アンジオテンシンIIは血管を収縮させ、またアルドステロンという水や塩分の貯留を促進する作用をもつホルモンの分泌を亢進させます。ACE-IやARBはアンジオテンシンIIを抑制することによって、体液量を適切なバランスに保ち、心筋肥大を抑える効果があります。また、アルドステロンの受容体に競合するアルドステロン拮抗薬にも同様の作用があります。

      ナトリウム利尿ペプチドは心保護的に働くホルモンですが、体内ではネプリライシンによる分解を受けています。ARNIはARBとネプリライシン阻害薬であるサクビトリルが一つになった薬剤であり、ANPやBNPなどの分解を抑え、ナトリウム利尿ペプチドによる心保護効果を増強させる効果があります。

      β遮断薬は、過剰に活性化された交感神経を抑制することによって、心筋細胞のエネルギー代謝を適正化し、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制し、危険な不整脈の出現を減らします。

      SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管にあるSGLT2を遮断することで、糖の再吸収を抑え、血中グルコース濃度を低下させます。当初は糖尿病の治療薬として開発されましたが、その後に拡張型心筋症のような心不全患者さんにも効果があることが分かりました。作用メカニズムには、利尿作用や交感神経の抑制、心筋のエネルギー代謝改善、あるいは腎保護効果が考えられています。

      このような作用で、a/b/c/dの4剤は心臓死や突然死、心不全入院を減らすことが大規模臨床試験で証明されています。また、HCN4チャネル阻害薬であるイバブラジン(脈を遅くして心臓の仕事量を低下させる)や可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の一つであるベルイシグアト(血管拡張作用・心機能改善)も心不全悪化を予防する効果があります。これらの薬剤は降圧作用が少なからずあり、過量な投与は低血圧を来すので注意が必要です。β遮断薬は心不全の状態が安定した後に少量より開始し、少しずつ増量していきます。ACE-I、ARB、ARNIやアルドステロン拮抗薬は腎機能に影響を与える可能性があるので、高度腎不全の患者さんでは慎重な使用が必要です。これらの治療薬によって直ちに自覚症状が良くなるわけではありませんが、3~6か月以上かけて心臓の働きが良くなり、内服を続けることで徐々に症状の改善が期待できるため、決してご自身の判断で治療薬を止めないでください。
    7. 利尿剤
      肺や全身のうっ血症状を改善するのに最も有効な薬剤です。ただし、尿中カリウム排泄による低カリウム血症は不整脈の原因となるため、定期的に血液検査をし、必要に応じてカリウムの補充を行うこともあります。
    8. 強心剤
      心不全が悪化した際に、点滴による強心剤の投与を必要とすることがあります。重症心不全の患者さんでは、まれに内服の強心剤を併用することもあります。
  3. 心不全に対する非薬物治療
    1. 運動療法
      運動療法を含む心臓リハビリテーションは心不全患者さんの症状や運動能力を改善するだけでなく、生活の質も向上させ、さらに死亡や心不全入院を減らすことが科学的に証明されています。外来通院下、最近では在宅での遠隔支援下の運動療法が行われています。
    2. 酸素療法
      心不全患者さんの中には睡眠中に無呼吸を呈する方(睡眠時無呼吸症候群)がよく認められます。無呼吸による低酸素血症、二酸化炭素感受性の亢進は換気状態を悪化させ、さらには交感神経を活性化します。在宅の夜間酸素療法により呼吸状態が改善し、心不全症状の改善を認めることが報告されています。
      また重症心不全の方には、マスク型の人工呼吸器(ASV)を使用していただくこともあります。ASVは、呼吸時に外から適切な圧力をかけることで、呼吸状態を改善させるとともに、心臓の拍出も助けることができます。前述の酸素投与を併用することもできます。
    3. 心室再同期療法
      薬物治療で改善しない重症心不全で、左室駆出率35%以下、心電図で広いQRS幅を認める患者さんが適応です。左右の両心室よりペーシングを行い心筋収縮効率の改善を図り、治療が奏効する患者さんでは左室収縮能、生命予後が改善することが証明されています。(詳細は循環器内科ホームページ:不整脈班の「デバイス」を参照してください外部リンク
    4. 心室ペースメーカー療法
    5. 植込み型除細動器
      持続性心室頻拍や心室細動など致死性の不整脈が出現することがあります。実際にこのような不整脈が出現した、あるいは出現する可能性が高い患者さんでは、薬物治療のみでは不十分であり、植込み型除細動器(ICD)の適応となります。最近では、心臓再同期治療も可能なICD(CRT-D)を使用することができます。
    6. 経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClip)
      心室の拡大が進行すると左心室と左心房の間にある僧帽弁が閉じ切らず、僧帽弁逆流が生じます。僧帽弁逆流により心臓に負担がかかり、息切れやむくみ、疲労感などの症状がさらに増悪します。経皮的僧帽弁接合不全修復術はカテーテルを使って、二つの弁尖からなる僧帽弁をクリップでつまんで逆流を少なくする治療です。適切な薬物治療と組み合わせることで、心不全の症状を軽減し、死亡や心不全入院を減らすことが証明されています。
    7. 補助人工心臓、心臓移植、他手術
      最大限の内科治療を行っても改善できない重症心不全患者さんが適応となります。日本では1997年に臓器移植法が制定され、2010年には臓器移植法が改訂されました。改定後に心臓移植件数は年間50~60例と増加しましたが、2022年8月までの心臓移植施行件数は703例と、日本ではまだまだドナー不足が深刻な状況です。日本での心臓移植は移植までの待機時間が海外に比べて非常に長いため(最近は平均4年以上)、補助人工心臓治療により移植までの時間をかせぐことがほとんどです。近年は、補助人工心臓を移植までのブリッジとしてではなく、生涯使用するDestination Therapyという概念も登場し、実際に2021年4月から日本でも保険適用となり一部の施設で実施されています。また、大きくなりすぎた心室に対する左室縮小形成術や重症僧帽弁逆流に対する僧帽弁形成術など、外科的治療も場合によっては行うことがあります。

    さらに詳しく知りたい方へ

    1. 慶應義塾大学病院 循環器内科外部リンク
    2. 慶應義塾大学医学部 循環器内科外部リンク(患者さん向け)
    3. 日本循環器学会 循環器病ガイドラインシリーズ外部リンク(医療関係者向け)
      拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン(最新版)が閲覧できます。
    4. 日本心臓財団外部リンク(患者さん向け)
      病気の説明、セカンドオピニオンの質問・回答集が閲覧できます。

    文責: 循環器内科外部リンク
    最終更新日:2024年4月30日

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