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リンパ浮腫の発症予防・早期発見から精度の高い診断方法・先端治療まで ―リンパ浮腫診療センター―

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はじめに

リンパ浮腫とはリンパ管やリンパ節の圧迫、狭窄、閉塞などによって、リンパ流の阻害と減少のために生じた浮腫(むくみ)です。先天性のものを含めた原因不明の原発性(一次性)と発症原因が明らかな続発性(二次性)に分けられます。婦人科がん、乳がんなどでリンパ節郭清や放射線治療によって発症する続発性リンパ浮腫が全体の約90%を占めます。我が国では10万人以上のリンパ浮腫の患者さんが存在し、今後も毎年約6,000人ずつ増加すると予測されています(図1)。

図1

図1
a)婦人科がん術後(骨盤内リンパ節郭清) 左下肢続発性リンパ浮腫
b)乳がん術後(腋窩リンパ節郭清) 左上肢続発性リンパ浮腫

リンパ浮腫は、適切な治療がなされず放置されると、徐々に悪化してしまいます。その結果、仕事や家事に支障を来したり心理的な苦痛を生じたりして、生活の質(Quality of Life:QOL)が低下してしまうことになるので、患者さんにとって、とても切実な問題です。しかし、リンパ浮腫の診断・評価・治療を専門的に実施している医療機関は数少ないのが現状です。

慶應義塾大学病院リンパ浮腫診療センター外部リンクでは、関連する診療科の多職種のリンパ浮腫診療のエキスパートが集結し、リンパ浮腫の診断から保存的・外科的治療まで、質の高い診療を実践しています。

リンパ浮腫診療の流れ

リンパ浮腫の発症予防・早期発見

リンパ節郭清を伴う手術後には、リンパ浮腫の発症予防対策と早期発見が重要です。当院では、担当科の医師、病棟・外来看護師が中心になって、乳がんの手術で腋窩リンパ節郭清および子宮頸がん子宮体がん卵巣がんなどで骨盤内リンパ節郭清を行った患者さんに対して、術後のリンパ浮腫の概要を説明した上で、生活指導を行い、浮腫の発症予防や早期発見に努めています。

リンパ浮腫の診断

浮腫は様々な原因によって生じるため、リンパ浮腫と確定診断するために画像診断を行うことがあります。これにより、診断だけでなくリンパ管の機能を評価することができます。従来、リンパ管シンチグラフィーや蛍光リンパ造影が実施されてきましたが、光超音波イメージング装置(慶應発ベンチャー:株式会社Luxonus、慶應義塾大学病院光超音波イメージングプロジェクト外部リンク)やMRLymphography(放射線診断科)などの革新的技術を導入して、精度の高い診断方法の確立を目指しています。

リンパ浮腫の保存的治療(リンパ浮腫複合的治療)

リンパ浮腫と診断された場合には、専門医師によるリンパ浮腫の病態、治療の説明後、リンパ浮腫セラピストにより、生活指導、スキンケア指導および圧迫療法(弾性包帯による多層包帯法もしくは弾性スリーブや弾性ストッキング)と圧迫下での運動療法の指導を行います(「リンパ浮腫のリハビリテーション」をご参照ください)。

患肢の皮膚を一定の圧力で圧迫し外部から固定された状態で運動を行うことで、筋肉の収縮・弛緩による筋ポンプ作用が増強、リンパ還流が刺激され、リンパの運搬能力を高めることができます。運動の内容として特別なものはなく、手足のリズミカルな運動や散歩、自転車エルゴメーターなど、患肢の筋収縮を促すような運動を行います。

私たちの研究(文献1)では、多層包帯法による圧迫をした状態で、あお向けで下肢挙上(図2a)、座位でのペダル運動(てらすエルゴ)(図2b)、あお向けでのペダル運動(図2c)を実施し、その前後で下肢の体積を計測し、即時効果を分析しました。結果、あお向けでのペダル運動(図2c)が最も体積が減少したことがわかりました。あお向けで横になった状態で重力による脚の負担を軽減した状態で、多層包帯での圧迫下で、ペダル運動による下肢の交互運動を実施し、筋収縮を促すことがより良い効果を生んだのだと考察しています。研究では、ペダル運動の機器として、負荷量可変式エルゴメーター:てらすエルゴⅡ(昭和電機、大阪府)を用いました。

図2

図2
a) 多層包帯法による圧迫+あお向けで下肢挙上
b) 多層包帯法による圧迫+座位でペダル運動
c) 多層包帯法による圧迫+あお向けでペダル運動

外来通院の頻度は浮腫の程度や自己管理方法の習得度を考慮して決められます。その後は、弾性着衣(弾性スリーブ・ストッキング)の導入を検討します。弾性着衣はサンプル品を各種常備しており、実際に試着した上で購入していただきます。集中治療を行い浮腫を改善させた後は、ご自身での管理方法を習得して良い状態を維持することが必要です。

リンパ浮腫の手術療法

形成外科では、手術療法(リンパ管細静脈吻合術:LVAなど)を施行しています。リンパ浮腫は中枢へ流れるリンパ流が滞って生じるため、LVAによってうっ滞したリンパ管と血管(静脈)を顕微鏡下で繋ぎ合わせバイパスを作成します。この操作により、溜まったリンパ液が血管内へ流れ、浮腫の改善を図ることができます。LVAは手術だけでなく術前術後の治療も非常に重要なため、リハビリテーション科と連携して治療を行っています(「リンパ浮腫の手術的治療」をご参照ください)。

リンパ浮腫診療センターのスタッフ

参考文献

  1. Postural differences in the immediate effects of active exercise with compression therapy on lower limb lymphedema.
    Abe K, Tsuji T, Oka A, Shoji J, Kamisako M, Hohri H, Ishikawa A, Liu M.
    Support Care Cancer. 2021 Nov;29(11):6535-6543. doi: 10.1007/s00520-020-05976-y. Epub 2021 Apr 29.

文責:リンパ浮腫診療センター外部リンク
執筆:鈴木悠史、辻哲也

最終更新日:2023年7月3日
記事作成日:2023年7月3日

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