慶應義塾大学病院KOMPAS

HOME

検索

キーワードで探す

閉じる

検索

お探しの病名、検査法、手技などを入れて右のボタンを押してください。。

乳がん

にゅうがん

戻る

一覧

概要

乳がんとは

乳腺にできる悪性腫瘍を乳がんといいます。
我が国では、乳がんの患者数が急激に増加しています。2014年には乳がんの患者数は、日本人女性のがんの中で大腸がんを抜いて第1位となり、7万6千人を越える人が乳がんにかかったと推定されています。

図

乳がんにかかりやすい人

乳がんは、はっきりとした原因は不明ですが、いくつかのことが危険因子といわれています。エストロゲンという女性ホルモンが、乳腺組織に作用する期間が長いほど、乳がんが発生しやすいとされています(表1)。

表1

危険度大

子供がいない・少ない、初産が30歳以降、近い血縁に乳がんになった人がいる、乳がんにかかったことがある
(再発リスクだけでなく、新たな乳がん発症のリスクも高い)

危険度中

初潮年齢が低い、閉経年齢が遅い、肥満傾向が強い

危険度小

良性乳腺疾患(線維腺腫や乳腺症など)の既往がある



症状

しこり

乳がんの代表的な症状は、乳房の硬いしこりです。痛みはほとんどありません。しこりが触れても、その全てが乳がんの症状ではありません。乳房の痛みが主体で、はっきりしたしこりを伴わない場合は、多くは乳腺症です。基本的には、乳がんでは痛みはみられません(表2)。

表2

良性のしこり

悪性のしこり

硬さ

消しゴムのよう

石のよう

表面

ツルツルした感じ

ザラザラ、デコボコを伴う

境界がはっきりしていて、くりくりした感じ

いびつで境界があいまい

可動性

指で押すと逃げる

指で押しても動きにくい


石灰化

石灰化はマンモグラフィーで映る、点状・粒状の白い影のことです。石灰化の原因は様々で、加齢による変化、乳腺症などでもみられますが、中にはがんによってできるものもあります。マンモグラフィーによって、石灰化の形状や分布状態をみてがんが疑わしいかどうかを判定します(カテゴリー分類)。

診断

検査

乳腺の検査としては、マンモグラフィーと超音波(エコー)検査が基本的で重要です。最近は磁気共鳴断層撮影(MRI)検査法が進歩し、乳がんの診断について、かなりよく分かるようになってきました。最終的にがんかそうでないかを決めるのは、病変部の組織・細胞を採取し、それを顕微鏡でみて診断する病理検査です。組織採取(生検)の方法にはいくつか種類がありますが、最近は吸引針生検が多く行われるようになってきました(図1)。

図1

図1. 乳腺の検査と診断の流れ


マンモグラフィー
X線検査装置で乳房を圧迫してはさんで撮影します。乳がん場合、形のいびつなしこりの影や、砂を散らしたような微小な石灰化像が映ります。

超音波検査(エコー検査)
皮膚の表面から超音波をあてて組織からの反射波を測定します。がんによるしこりの場合、形がいびつであったり、端の部分があいまいで分かりにくいなどの特徴があります。苦痛がなく、副作用などの心配も少ない検査です。

磁気共鳴断層撮影(MRI)
磁力を用いることにより様々な方向の断面図を撮影することができます。造影剤(検査中に血管内に注射して、病変部を描出させる薬)の使用が必須ですので、喘息をお持ちの方や、腎臓の悪い方には行えません。がんの場合、病変部が白く強調されて映り、乳管内の広がりも検出できる場合もあります。

組織検査
何種類かあり、病変の状態などによって最適なものをおすすめします。

エコーガイド下吸引針生検
太めの針を病変部に刺し込み、吸い込みながら針の中に組織を採取します。超音波で病変を確認しながら狙うことができるため、失敗が少なく、組織の量も十分採取できます。局所麻酔薬を使用し、皮膚を数ミリ切開して行います。検査前に血液検査が必要です。合併症として検査後の出血などがあります。

ステレオガイド下吸引針生検(マンモトーム)
マンモグラフィー装置で乳房をはさんだまま撮影し、病変の位置を測定して、太い針で組織を採取します。腫瘤を伴わない石灰化病変などに行います。麻酔薬も使用し、皮膚切開も行います。

切除生検
手術によって腫瘤を摘出して組織を採取します。吸引針生検で診断がつかない場合や、良性腫瘍の治療を目的とする場合に行います。局所麻酔薬を使用し、皮膚を2~3センチ切開します。入院の必要はなく、通院で行うことができます。

CTスキャン(コンピューター断層撮影)
乳腺の病変の広がりや、肺や肝臓の病変の有無などを調べるために行います。

アイソトープ検査(骨シンチグラフィ)
乳がんの骨転移の有無など、骨の病変を調べます。

血液検査
体内のがん組織が多くなった場合に血液中に増えてくる「腫瘍マーカー」と呼ばれるがん関連物質があり、乳がんでは「CEA」、「CA15-3」、「NCC-ST-439」などがよく用いられます。ただし、がんがあっても早期の場合は検出されない場合が多いため、あまりあてにはできません。


表3. 乳がんの進行度(病期分類)

0 期

非浸潤がん

1 期

しこりが2cm以下でリンパ節転移がない

2 期

しこりが2cmをこえるか、リンパ節転移がある(さらに細かく2Aと2Bとに分かれる)

3 期

リンパ節転移が進んでいる場合、しこりが5cmをこえてリンパ節転移もある場合、しこりが皮膚や胸壁に及ぶ場合、炎症性乳がん(乳房全体が赤くなる、特殊な乳がん)、などが含まれる(さらに細かく、3Aと3Bと3Cに分かれる)

4 期

鎖骨の上のリンパ節に転移があるか、他の臓器(肺、骨、肝臓などが多い)に転移がある


治療

乳がんの治療法には、大きく分けて以下の6種類があります。

  1. 外科療法(手術)
  2. 放射線療法
  3. 薬物療法
  4. 化学療法(抗がん剤)
  5. 内分泌療法(ホルモン剤)
  6. 抗体療法

すべての方法を考慮に入れ、最適な組み合わせで治療します。しかし、確実性が高く、多くの乳がん患者さんの治療において中心となる最も重要な治療は外科療法(手術)です。
乳がんの進行度(表3)の中で病期が1期または2期の方には、通常は手術治療を中心として先に行い、補助的に放射線やホルモン剤を、必要があれば抗がん剤を追加して行うのが標準的(=最も良い方法)です。
2期または3期の方で、手術に加えて抗がん剤も必要と考えられる場合には、手術より先に抗がん剤治療を行うことがすすめられます(術前化学療法)。術前化学療法のメリットとして、抗がん剤によってがんが小さくなり、手術する範囲が少なくて済む場合があること、抗がん剤の効果が確認できることなどが挙げられます。
4期の方の場合には、手術ではがんを取りきることが難しいため、薬物療法(抗がん剤またはホルモン剤)が中心となります。
また、治療の目的から「根治治療」、「再発・転移・進行例の治療」、「緩和治療」に分けることもできます。ここでは主に原発(初回)乳がんに対する根治治療を中心に述べます。

1. 外科療法(手術)

  • 乳房部分切除(乳房温存手術)
    乳房の一部を切除し、乳房のふくらみや乳首を残す方法です。温存した同じ側の乳房に目に見えないがんが残る可能性があるので、手術後に必ず放射線治療を行います。メリットは、乳房のふくらみや乳首が残る、傷が小さめで回復が早いなどがあります。デメリットは、温存乳房に再発する可能性がある、放射線治療なども必要で治療が煩雑である、目に見えないがんが残ってしまい再手術を要することもある、などです。
  • 乳房切除(胸筋温存乳房切除術、非定型的乳房切除術)
    病気のある側の乳房全体を切除する方法です。通常は乳房の後ろ側の筋肉は残します(胸筋温存乳房切除)。乳首のない平らな胸となりますが、筋肉が残るので胸が大きくえぐれることはありません。部分切除に比べて局所再発率が少なく、安全確実な方法といえます。
  • 腋窩リンパ節郭清(かくせい)
    乳がんが進行すると、まず同じ側の腋の下(腋窩)のリンパ節にがんが広がり、リンパ節が腫れてきます。リンパ節の腫れがない場合でも、乳がんの手術では、ある程度は腋窩のリンパ節を切除するのが標準で、これをリンパ節郭清と呼んでいます。乳房切除または部分切除と組み合わせて行われ、術式名がそれぞれ異なります。
  • センチネル(見張り)リンパ節生検
    がんのまわりに色素や放射性物質を注射して、それが流れついたリンパ節を、がんが最初に転移するリンパ節 (センチネル=見張りリンパ節)と考えて、そのリンパ節に転移があるかどうかを手術中に調べて、転移があった時だけ郭清する方法です。既に2010年4月に保険収載され、健康保険の適用で実施することができます。メリットは、リンパ節郭清を省略できる可能性があり、その場合後遺症の心配がほとんどないことです。デメリットは、センチネルリンパ節を探すための薬を使うのでその副作用や費用、センチネルリンパ節をすり抜けて転移するがんの可能性が約5%あることなどです。乳房切除または部分切除と組み合わせて行われます。
  • 乳房再建
    乳房切除で失った乳房の形を手術で作る方法で、形成外科で扱っています。お腹や背中の自分の筋肉を移植する方法と、人工的なバッグを入れる方法があります。また、手術治療と同時または近い時期に行う場合と、手術後半年から数年経ってから行う場合とあり、どちらも可能です。ただし、再建を希望される方は放射線治療を行わない方が望ましいため、乳房切除術(または皮下乳腺全摘術)が適応となります。

2. 放射線療法

乳房温存手術後は、温存した同じ側の乳房に目に見えないがんが残る可能性があるので、手術後に必ず放射線治療を行います。放射線治療によって、温存乳房内の再発を約3分の1に減らせることが分かっています。退院後に通院で行い、毎日少しずつ放射線をあてます。回数は25~30回が標準です。副作用は、温存乳房の皮膚の炎症(日焼け様変化)が必至で、一部の方に放射線性肺炎が起こる場合があります。そのほかに、痛みを伴う骨転移巣に対し、放射線治療は非常に効果があります。

3. 薬物療法

がんの中でも乳がんは、薬が比較的効きやすいがんです。また、一部の細胞には内分泌療法(ホルモン剤)が有効であることも特徴です。薬物療法のメリットは、血液を介して薬が全身に行き渡るため、病変が体のどの部位にあっても、また病変が複数あっても効果が期待できることです。デメリットは薬によって様々ですが副作用があることと、有効率が30~70%とまちまちで確実性が低く、また薬が効いても長く続けていると効き目がなくなってくることなどです。

4. 化学療法(抗がん剤)

がん細胞の増殖を抑えたり、破壊したりする薬です。抗がん剤には脱毛の他、白血球減少などの血液障害や、吐き気、食欲不振などの胃腸障害などの副作用があり、薬によって様々です。

主な化学療法剤とその組み合わせ

  • FEC療法
    F(フルオロウラシル) E(エピルビシン) C(シクロフォスファミド)の3剤の組み合わせのことをFEC療法といいます。通常、3週間に1回点滴で薬剤を投与し、それを4~6回繰り返します。
  • タキサン系
    ドセタキセル、パクリタキセルがあります。エピルビシンなどを使用した後に追加することにより、再発がさらに抑えられることが分かっています。
  • 内服抗がん剤
    現在、乳がんに有効な内服抗がん剤は、S-1とカペシタビンが主に用いられています。

5. 内分泌療法(ホルモン剤)

女性ホルモン(エストロゲン)が乳がんを増殖させる機構を、何らかの形でブロックします。副作用が比較的少なく、長期間使えるのが特徴です。切除したがんを調べて、ホルモン受容体を持つがん(女性ホルモンの影響を受けやすいがん)かどうかを調べて、受容体(+)の場合により効果的です。抗エストロゲン剤(ノルバデックス、フェアストンなど)、LH-RHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックス)、アロマターゼ阻害剤(アリミデックス、アロマシン、フェマーラ)などがあります。

6. 抗体療法

特定の遺伝子が異常に働いている乳がんに対して、その遺伝子の抗体を薬として点滴で投与する治療で、我が国ではトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)という薬を使います。切除したがんを検査(ハーツー検査)することで、効果が期待できるがんとそうでないがんが分かるのが特徴です。また、副作用が少ないのが特徴です。再発進行治療のほか、術後補助療法としても使用できるようになりました。

生活上の注意

乳がんの治療後でも、特に食事や運動に制限はありません。治療前と同じようにしていただいてかまいません。

慶應義塾大学病院での取り組み

外来受診について 当院の乳腺外来はたいへん混雑しており、ご迷惑をおかけし、まことに申し訳ありません。当日の混雑状況にもよりますが、初診の方におきましては、待ち時間が数時間以上になることがございます。あらかじめご承知おきくださいますようお願いいたします。
以前の病院で行った検査について マンモグラフィーと超音波検査につきましては、検査済みでフィルムをお持ちの場合でも、念のため当院でも行っていただくようにしています。予約制ですがおおよそ1~2週間以内には検査を行え、検査の翌日以降の担当医の外来で結果をみることができます。

MRI検査について
当院のMRI検査は予約がたいへん混んでおり、お待たせする場合があります。お急ぎの場合、ほかの病院での検査をお願いすることがあります。

病理検査について
病理検査の結果が出るまでには、生検後およそ2~3週間かかります。判断の難しい場合もあり、追加検査などにさらに時間を要する場合があります。

乳がん手術の入院について
入院は手術の数日前から、手術後は5~10日間で、合わせて入院期間7~10日くらいが一般的です。

臨床試験、治験について
当院は特定機能病院のため、高度医療・先進医療を積極的に行っています。臨床試験や治験などへの参加をお願いする場合がたびたびあります。差し支えのない範囲でご参加いただけますと幸いです。

緩和治療について
当院では、入院での緩和治療は扱っておりません。ご希望の方につきましては、他の施設をご紹介することがあります。外来での緩和治療につきましても、入院可能な他施設と連携して行うようにしています。

乳がん検診と自己触診

乳がん検診
欧米では早くからマンモグラフィーを併用した検診が一般的で、乳がんによる死亡率の低下につながっています。日本でも、2000年から、「50歳以上の女性に対し、2年に1回のマンモグラフィーと視触診による検診を行う」というガイドラインが出され、ようやくマンモグラフィー併用検診がはじまり、2004年からは40歳以上の女性についてもマンモグラフィーが導入されています。お住まいの地域の自治体や、お勤めの職場と検診施設との契約状況は様々かと思われますが、1~2年に1回のマンモグラフィー検診を目安にして検診し、自己触診を併用すれば死亡率の低下につながります。

自己触診
現在の我が国の乳がんの初発症状の約8割は患者さんが気づいたしこりです。一方、1期つまり2cm以下でみつかれば9割が治るのですから、乳がんの早期発見と生存率向上に一番の近道は「2cm以下のしこりを自分でみつけること」です。大切なことは、定期的に自分の乳房を触って自分自身の正常な乳房を把握しておくことと、異常に気づいたら、自分でがんか否かを判断するのではなく、必ず検査を受けに行くことです。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: 一般・消化器外科外部リンク
最終更新日:2019年7月19日

ページTOP