概要
頭部外傷とは、頭に外から力が加わることで頭の皮膚、頭蓋骨、脳の損傷を来すことです。我が国の頭部外傷数は年間およそ28万人と推定されています。死亡原因の統計上、"不慮の事故による死亡"は第5位、死亡総数の4%を占めるとされますが、この中でも交通事故死が非常に重要となっています。交通事故による頭部外傷の死亡率はおよそ5%で、逆に頭部外傷死の原因の60%は交通事故によります。その他の原因として転落、転倒、幼児虐待などが挙げられます。
まず一番表面にある、皮膚の外傷から説明します。
皮膚の外傷
最も身近な頭部外傷として、たんこぶ(皮下血腫といいます)が挙げられます。打撲部位の皮膚の中に出血するもので、普通は自然に治ります。たんこぶの中には柔らかくぶよぶよしたものもあります。一方皮膚が深く裂けている場合には(頭部裂創あるいは切創といいます)縫合する必要があります。頭の皮膚は血流が良いことと、突っ張っている特性から出血しやすいのです。出血量が多く、止まり難い場合には病院を受診してください。
頭蓋骨の外傷
皮膚や筋肉の下には頭蓋骨があります。強い力が加わると丈夫な頭蓋骨も折れてしまいます。これが頭蓋骨骨折です。ひび割れ線が入る程度の骨折(線状骨折)から、複雑に頭蓋骨が割れて、さらには頭の内側にめり込んでしまうような骨折(陥没骨折)もあります。骨折がある場合、それだけ強い力が頭に加わった証拠ですから、ほとんどの場合入院治療をおすすめします。複雑な骨折、陥没骨折は手術が必要になる場合があります。骨折部からの出血が多い場合、脳や脳脊髄液と呼ばれる"水"が出てくる場合には緊急手術となります。
脳の外傷
頭蓋骨の下には硬膜と呼ばれる非常にしっかりとした硬く白い膜があり、脳を包み保護しています。本当に怖いのはその下に存在する脳に影響が及ぶような外傷です。これを頭蓋内損傷といいます。特に、交通事故や高い所からの転落事故など、頭部に大きな力が加わる場合には、重症頭蓋内損傷を来すことが多くなります。このような場合を高エネルギー外傷といい、頭以外の外傷(胸、おなか、手足など)を伴うことも多く、一見元気そうに見えたとしても注意が必要です。
頭蓋内損傷に共通する症状
脳のどこが損傷されるかによって症状は変わりますが、一般的には頭痛、嘔吐、運動麻痺(特に半身運動麻痺。真っ直ぐ歩けない、立てない、顔が曲がる)、感覚障害(特に半身のしびれ。びりびりする、触っても感覚が弱い)、言語障害(言葉が話せない、呂律が回らない、理解できない、会話が成り立たない)などに始まり、進行すると、意識障害(反応が鈍い、目を覚まさない)、けいれん発作などが出現し、放置しておけば最終的には死に至ります。
代表的な頭蓋内損傷として、脳挫傷の説明をします。
脳挫傷(のうざしょう)
脳に大きな力が加わり、脳が崩れ、出血を起こすことがあります。脳が崩れることを脳挫傷(のうざしょう)、出血した場合を脳挫傷性血腫(のうざしょうせいけっしゅ)と呼びます。脳挫傷は力が加わった部分の全く反対側(例えば前頭部をぶつけた場合には後頭部)に生じることもあります。これをコントラクー外傷といい、ぶつけた直下の外傷をクー外傷といいます。
脳挫傷の症状、特徴
図1は脳挫傷の頭部CTを示したものです。脳そのものが損傷を受けているため、脳の中にいびつな出血が生じ、周囲を圧迫している様子が分かります。脳挫傷は外傷後数時間経ってから明らかになってくることもあり、特に脳挫傷性血腫は後から徐々に増えてくることがあります。この場合、受傷直後は元気だったのに、数時間経って目を覚まさない、運動麻痺などの症状が出ます。さらに脳が傷んだことで腫れを来し(脳腫脹)、脳ヘルニア(脳が腫れて、本来あるべき場所からずれ出てしまうこと。特に隙間の多い、脳の下方向にとび出すことが多く、この場合、脳幹という生命維持中枢が存在する大事な部分が損傷してしまう)を起こして死に至ることもあります。
図1
脳挫傷の治療
脳挫傷が大きい場合には、壊れた脳を摘出する手術を行います。脳腫脹が強い場合には頭蓋骨を大きくはずして、脳を助ける手術を行う(外減圧術)こともありますし、脳そのものを一部除去して、脳の体積を減らす手術(内減圧術)が必要になることもあります。ただし、一度崩れてしまった脳そのものを助けることはできません。従って重篤な後遺症を残すことが多くなります。
その他の頭蓋内出血
頭蓋骨の中、すなわち本来脳が入っているスペースのどこかに出血を来し、その出血によって血腫(血の塊、大きなかさぶたのようなもの)が作られ、血腫によって脳が圧迫されることで様々な症状を来します(前述の"頭蓋内損傷に共通する症状"をご覧ください)。出血する場所、時間によって下記のように分類されます。
- 脳挫傷性血腫: 脳の中に出血する場合
- 急性硬膜外血腫: 外傷後数時間以内に頭蓋骨と硬膜の間に出血する場合
- 急性硬膜下血腫: 外傷後数時間以内に脳と硬膜の間に出血する場合
- 慢性硬膜下血腫: 外傷後数週間から数ヶ月かけて、脳と硬膜の間に出血する場合
脳挫傷性血腫については、前述の"脳挫傷"をご覧ください。以下、残りの3つの出血については、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、慢性硬膜下血腫 の項を参照してください。
文責:
脳神経外科
最終更新日:2018年3月23日