病気を知る

下垂体腫瘍(ホルモンの病気)

概要

下垂体とは?

下垂体は、脳の中央部底面にあるホルモンを出す臓器です。構造上、下垂体前葉(かすいたいぜんよう)と下垂体後葉(かすいたいこうよう)に分けられ、異なるホルモンを分泌します。

<下垂体前葉から出るホルモン>

  • 成長ホルモン(Growth hormone:GH)
  • 甲状腺刺激ホルモン(Thyroid-stimulating hormone:TSH)
  • 副腎皮質刺激ホルモン(Adrenocorticotropic hormone:ACTH)
  • 卵胞刺激ホルモン(Follicle-stimulating hormone:FSH)
  • 黄体化ホルモン(Luteinizing hormone:LH)
  • プロラクチン(Prolactin:PRL)

<下垂体後葉から出るホルモン>

  • 抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone:ADH)
  • オキシトシン(Oxytocin)

抗利尿ホルモンは、別名バゾプレッシン(Vasopressin)とも呼ばれます。

下垂体腫瘍(かすいたいしゅよう)ってどんな病気?

下垂体にできる腫瘍のことを指します。下垂体前葉から発生することがほとんどで、下垂体前葉ホルモンを分泌してホルモン過剰による症状を呈するものを機能性下垂体腫瘍、ホルモンを分泌しないものを非機能性下垂体腫瘍といいます。

図

症状

下垂体腫瘍の症状は、腫瘍があることによって生じる症状とホルモンの作用によって引き起こされる症状に大別されます。

まず、腫瘍による症状ですが、周囲の脳の組織を圧迫することにより頭痛が生じることがあります。また近い位置に視神経が通っていて、この視神経を圧迫すると視野欠損すなわち見えない部分が出現します。構造的理由から両眼とも耳側すなわち外側に見えない部分が現れることから、両耳側半盲(りょうじそくはんもう)と呼ばれます。それ以外にも、腫瘍が広がる場所によりてんかんなどの症状を引き起こす可能性があります。また腫瘍が正常の下垂体を押しつぶすことにより、下垂体ホルモンの低下が起こり、それに伴う症状が起きることがあります。下垂体後葉ホルモンであるADHの分泌が低下すると、尿崩症(にょうほうしょう)という病気になります。尿量が異常に増加し水を飲んで補給しないと脱水症状になってしまう病気です。またACTHの分泌が低下すると、倦怠感や食欲低下、低血糖や血圧低下が起こり生命維持に支障を来す状態になります。ACTHは副腎から生命活動に必要な副腎皮質ホルモンを分泌させる作用があり、その副腎皮質ホルモンが不足することによりこのような症状が起こります。このような病態は、副腎不全と呼ばれます。そのほかにも、分泌が低下するホルモンの種類によって、様々な症状を呈し、総称して下垂体機能低下症と呼ばれています。

以上の腫瘍の存在によって生じる症状は、機能性下垂体腫瘍でも非機能性下垂体腫瘍でも、どちらでも起こる可能性があります。機能性下垂体腫瘍では、これらの症状に加えて、ホルモンが過剰に作られることによって生じる症状を伴います。ホルモンの種類により、異なる病名がついているので、以下に別々に解説します。

(1)先端巨大症(せんたんきょだいしょう)

かつては、末端肥大症(まったんひだいしょう)と呼ばれていましたが、同じ疾患です。下垂体腫瘍が成長ホルモン(GH)を過剰に作ることにより、発症します。GHは成長期には身長を伸ばすのに重要なホルモンですが、大人になってからは成長が止まっていますので、骨は縦に伸びず横に太くなっていきます。手足や下顎など体の中心から離れた先端寄りの部分が大きくなるのが特徴的なことから、この病名がついています。同時に皮膚や舌の厚みも増します。指輪がはめづらくなった、靴が小さく感じるようになったなどという症状で気づくことが多いようです。その他、高血圧や糖尿病になることもあります。体格の変化は、ゆっくり進むので意外と自覚しにくく、高血圧や糖尿病になって精密検査を受けてみたらこの病気が見つかったというケースもあります。

(2)Cushing病(クッシングびょう)

下垂体腫瘍が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を過剰に作ることにより、発症します。Cushing氏が最初にこの病気の存在を指摘したことから、この病名がついています。ACTHが過剰に分泌されると、副腎皮質から過剰に副腎皮質ホルモンが出されます。この過剰な副腎皮質ホルモンの作用によって、様々な症状が起こります。外見では、頬や肩・首周り、腹周りに脂肪がつき、手足は細いという特徴的な体型になります。これを中心性肥満と呼びます。筋力の低下を自覚することもあります。また、先端巨大症と同様、高血圧や糖尿病になるため、これらの病気をきっかけに見つかることもあります。

(3)プロラクチノーマ

プロラクチン(PRL)を作る下垂体腫瘍を、プロラクチノーマといいます。PRLの主な作用は、出産後女性において乳汁分泌を促進する作用です。プロラクチノーマから過剰にPRLが出て高PRL血症になると、出産後でなくても、乳汁分泌が見られます。また、出産年齢の女性では、排卵が起きにくくなり、月経異常・不妊の原因となることもあります。男性では、あまりホルモンによる症状は出ませんが、性欲低下などがみられることがあります。

診断

まず上記に示すようなホルモン作用特有の症状・体型から、下垂体ホルモンの異常を疑い、GH、TSH、ACTH、FSH、LH、PRL、ADHなどのホルモン値を測定します。下垂体ホルモン値は、年齢によって変化したり、一日の中で高い時間帯と低い時間帯があったり、生理の周期によって高い日と低い日があったりと、様々な要素で正常とみなされるホルモン値の範囲が異なってくるので、ホルモン値の異常が疑われた場合は、負荷試験というホルモン値を下げる(または上げる)刺激を加えて、ホルモン値がそれぞれ高い状態または低い状態がどの程度維持されるか評価します。負荷試験によってもホルモン値が左右されず、高いあるいは低いといった異常値が見られた場合は、下垂体腫瘍が強く疑われますので、画像検査を行います。従来は、頭蓋骨レントゲンを撮影して下垂体腫瘍に押されて生じる頭蓋骨の変形を見ていましたが、腫瘍が小さい場合は異常が見られないことも多く、最近はより検出率の高いMRIを行うのが画像検査としては一般的です。

非機能性腫瘍は、ホルモンによる症状を示さないため、頭痛や視野の異常といった腫瘍が周囲の脳組織や神経を圧迫することによって生じる症状がある場合に、下垂体腫瘍の存在を疑います。同様にMRI検査を行います。

無症状でも、脳梗塞の診断などほかの目的で施行された頭部MRIで偶然に下垂体腫瘍が見つかる場合もあります。このようにして見つかった腫瘍は、偶発腫瘍と呼ばれます。その後、ホルモン値を測定して機能性下垂体腫瘍と診断されるケースもあります。

治療

下垂体腫瘍の治療は、ホルモン異常のタイプによって治療法が異なります。

先端巨大症は?

先端巨大症に対しては、MRI画像における腫瘍の大きさや性状、周囲組織への進展度合い、併存疾患などを総合的に勘案し、手術(経鼻内視鏡頭蓋底手術頭蓋底センター外部リンク)による腫瘍摘出と内科的な治療のどちらを最初に行うのかを決定します。手術は脳神経外科が行います。下垂体の左右側方に位置する海綿静脈洞と呼ばれる部分に腫瘍が進展している場合など、完全に切除しきれない場合もあり、手術後にGHの過剰分泌が残存する場合は、注射薬や内服薬などのホルモン値を低下させる薬物治療が行われることがあります。また、薬物療法でもGHの過剰分泌が続く場合は、放射線照射療法を併用することもあります。注射薬にはソマトスタチン製剤(オクトレオチド、ランレオチド、パシレオチド)やGH受容体拮抗薬(ペグビソマント)といった薬があり、内服薬にはドパミンD2受容体アゴニスト(ブロモクリプチンやカベルゴリン、ただしカベルゴリンは保険適用外)といった薬があります。

図

Cushing病は?

Cushing病は手術による腫瘍摘出が第1選択になります。手術で効果が不十分ないし手術不可能な場合には、薬物療法や放射線照射療法も行われます。Cushing病は下垂体腫瘍が小さいことが多く、画像検査で腫瘍の存在が同定できないこともまれではなく、そのような場合は、海綿静脈洞サンプリングといってカテーテルを用いて下垂体近くの血液を採取する検査を行い腫瘍の存在を明らかにします。下垂体ではない別の場所にACTHを分泌する腫瘍が存在することもあり、下垂体に腫瘍が認められないときは全身の検索も必要です。腫瘍の存在が上記の検査でもはっきりしない場合は、ホルモンによる症状を抑えるために、薬物治療を行います。メチラポンやミトタンといった副腎皮質ホルモンの合成を抑える薬剤を用いますが、肝障害などの副作用が強いため使用に際しては注意深く経過を見ていく必要があります。近年では、オシロドロスタットという副腎皮質ホルモンの合成を抑える新しい薬剤を用いることがあります。いずれの治療も困難な場合は、両側副腎摘出術が行われることがあります。この治療を行った場合は、体に必要な副腎皮質ホルモンが一切出なくなりますので、その後一生涯代わりとなるホルモン薬を内服し続けなければなりません。

プロラクチノーマは?

プロラクチノーマに対しては、薬物療法が第1選択になります。カベルゴリンというドパミンD2受容体アゴニスト製剤の内服薬が用いられます。プロラクチノーマの場合、薬物治療はホルモン値を下げるだけでなく、腫瘍が小さくなることも期待できます。薬物療法のみでは症状が抑えられない場合や腫瘍サイズの増大を認めてくる場合、副作用などで薬物療法が継続困難な場合は、手術治療や放射線治療も考慮されます。また、性腺機能が低下するケースでは、骨粗鬆症の合併にも注意が必要です。

非機能性下垂体腫瘍は?

最後に、非機能性下垂体腫瘍に対しては、腫瘍が小さく、症状を来していない場合は、何も治療をせずに経過をみます。腫瘍が大きく、腫瘍による脳組織・神経の圧迫症状がみられる場合は、手術による腫瘍摘出が行われます。KOMPASあたらしい医療「経鼻内視鏡頭蓋底手術」をご参照ください。

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