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薬剤による鼓膜再生療法

やくざいによるこまくさいせいりょうほう

概要

鼓膜穿孔とは鼓膜が破れた状態のことをいい、中耳炎、外傷などが原因で生じます。鼓膜穿孔があると、難聴や耳漏(耳だれ)、耳の閉塞感、耳鳴りの原因となります。その穿孔を通じて鼓膜の外(外耳道)から細菌が侵入し、さらに炎症が慢性化する原因となることもあります。新鮮で小さな鼓膜穿孔は自然に閉鎖することがありますが、鼓膜穿孔の期間、状態などから自然閉鎖が見込まれない場合に、鼓膜の穿孔を閉鎖する手術が行われてきました。現行の鼓室形成術や鼓膜形成術といった手術は、鼓膜の代用となる自己組織を採取する必要があり、一定の侵襲を伴うものでした。慶應義塾大学病院では、このような鼓膜穿孔を閉鎖する治療として、2019年に保険適用となった鼓膜穿孔を対象とする初の治療薬(リティンパ®)を用いた鼓膜穿孔閉鎖術を行っています。

リティンパ®とは

穿孔部に鼓膜再生の土台となるゼラチンスポンジを挿入し、細胞増殖因子のトラフェルミン(bFGF)を添加することにより鼓膜再生を促します。手術には健康保険が適用され、従来の鼓膜形成術に比べて皮膚を切開する必要がなく、局所麻酔による短時間の日帰り手術で済み、患者さんの負担を大きく軽減することができます。さらに国内での臨床治験において、手術の成功率は従来の鼓膜形成術に比べ遜色ないと報告されています。ただし、耳の中に活動性の炎症、感染、耳漏がある場合や、以前に悪性腫瘍があった患者さんは受けることができません。手術の対象となる方は、鼓膜の穿孔が外耳道から確実に見えて、鼓膜より奥にある中耳の状態が良好な方です。

リティンパ®の作用のしくみ

鼓膜は上皮層、中間層、粘膜層の三層構造となっています。上皮層にはケラチノサイト(外部からの刺激から生体を守る細胞)、中間層には血管や、細胞の修復に必要な線維芽細胞、内皮細胞があります。粘膜層は単層の上皮細胞からなります。上皮層を中心にトラフェルミン受容体が分布しています。リティンパ®は鼓膜の上皮層に存在するヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)受容体に作用して、内皮細胞、線維芽細胞、およびケラチノサイトへの増殖や分化を刺激し、細胞を増殖させることで、鼓膜を再生すると考えられています。また、血管新生作用も有しており、鼓膜への血流量を増加させることで、さらに鼓膜の三層構造(上皮層、中間層、粘膜層)の再生を促進すると推測されています。

リティンパ®を用いた治療の実際

手術は外来で顕微鏡を用いて行います。手術時間は30分程度です。麻酔液に浸した脱脂綿で鼓膜穿孔部の周りの鼓膜を局所麻酔します。鼓膜穿孔部位の周りに針で傷をつけて一部除去します(これを穿孔縁の新鮮化といいます)。トラフェルミン浸潤ゼラチンスポンジで穿孔部をふさぎ、組織接着剤(ベリプラスト®)で固定します。残ったゼラチンスポンジを外耳道内に充填して処置終了となります。術後は感染予防に抗生物質を飲んでいただく場合があります。手術2~4週後に鼓膜閉鎖を確認し、穿孔が縮小しているが完全に閉鎖していない場合には、最大4回までこの治療を受けることができます。
当院ではリティンパ®による治療を開始した2020年2月からの2年間に延べ84名の患者さんの手術を行い、最終的な閉鎖率は80%でした。

図1.リティンパ<sup>®</sup>を用いた鼓膜再生療法の手順

図1.リティンパ®を用いた鼓膜再生療法の手順

慶應義塾大学病院での治療の特色

  • 耳鼻咽喉科専門医・指導医・耳科手術指導専門医が在籍しており、適切な検査診断のもと、患者さんのニーズに合わせた聴覚の向上を目的に、積極的な耳科治療に取り組んでいます。
  • 本治療(リティンパ®を用いた治療)の条件に合わない方や穿孔の閉鎖に至らなかった方でも、耳科専門班で検討のうえ従来法での鼓膜形成術や鼓室形成術など最善の選択肢をご提案いたします。

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文責:耳鼻咽喉科外部リンク
最終更新日:2022年12月1日

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