中咽頭がん
概要
中咽頭とは、上方は軟口蓋、下方は喉頭蓋谷までの範囲を指し、口腔よりも後ろの部位に相当します。中咽頭がんは上壁型(軟口蓋下面・口蓋垂)、前壁型(舌根部・喉頭蓋谷)、側壁型(口蓋扁桃・口蓋弓)、後壁型に分類されます。喫煙や飲酒が発がん因子と考えられており、下咽頭や食道に重複がんの頻度が高い特徴があります。それ以外の重要な発がん因子として、中咽頭がんではヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus: HPV)感染が関与していることが知られています。現在世界的には中咽頭がんの半数以上がHPV関連であるとされており、近年国内でも増加傾向にあります。HPV関連中咽頭がんは、抗がん剤や放射線への感受性が高く、非関連中咽頭がんと比較して生命予後が良いことが分かっています。ただし、HPV関連中咽頭がんでも喫煙歴がある症例では治療成績は下がります。
症状
中咽頭がんの初期症状は咽頭違和感、咽頭痛、口腔内出血などです。腫瘍が小さい段階ではあまり症状がないため、病勢が進行してから発見されることも少なくありません。また、HPV関連中咽頭がんでは早期に頸部リンパ節転移を来すため、無痛性の頸部腫瘤が初発(初めて気づく)症状となる場合もあります。
診断
鼻咽喉頭ファイバーを使って、のどの中をよく観察します。病変の拡がりを確認した上で腫瘍から生検を行います(組織の一部を採取する)。生検した組織では、がんかどうか、どのような組織型(種類)か、またHPV関連かどうかなどを調べます。
病期はCT、MRI、PET検査などで評価します。
重複がんがないかどうか、上部消化管内視鏡検査も行います。
治療
中咽頭は話したり、食事をしたりするために重要な部位であるため、根治性(治るかどうか)と機能温存の両立を目指して治療方針を検討します。
治療の主軸は放射線と手術です。
放射線療法
早期がんから進行がん、頸部リンパ節転移を来した症例まで幅広く対応できる治療です。
慶應義塾大学病院では、強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)というコンピュータによって精密な照射野の管理を行う治療を導入しています。
進行がんでは放射線の効果を上乗せするために抗がん剤を併用することがあります(化学放射線療法)。
放射線療法では口腔咽頭粘膜の炎症が避けられず、炎症による痛み、感染症などの合併症が生じます。当院では症状が軽くなるように含嗽指導や歯科の専門的な口腔ケア、痛みのコントロールなど様々な工夫を行っています。また、治療後は唾液や咽頭粘液の減少、咽頭の感覚の低下、飲み込みに関わる筋肉の動きが悪くなることで嚥下機能の低下が起こります。多くの場合は食事の工夫をすることで問題なく日常生活を過ごせますが、深刻な嚥下障害を起こす場合もあるため、注意が必要です。
手術
早期がんに対しては、口から内視鏡や器具を入れてがんを切除する経口的切除術が行われます。
入院は短期間で、術後の機能障害も比較的少ない治療法です。また、放射線を避けることで上述のような後遺症がないこと、再発やほかの頭頸部がんを発症された場合に放射線治療が残されていることなどのメリットがあります。ただし腫瘍が内視鏡で切除できる症例は限られており、適応には慎重な判断が必要です。術後に追加の放射線治療が必要になる場合もあります。
進行がんや放射線後の再発例では大きく病変を切除する手術が必要となります。形成外科と連携して、術後の嚥下や構音機能の低下を最小限にするための再建術・誤嚥防止術を同時に行っています。機能の早期回復のために術後にリハビリテーションを行います。必要に応じて術後に放射線・化学療法を加えることもあります。
慶應義塾大学病院での取り組み
当科では、中咽頭がんに対する経口的鏡視下手術(Transoral Videolaryngoscopic Surgery: TOVS)を積極的に行っています。専用の開口器をかけて口腔内を大きく展開し、主に内視鏡を操作する医師と切除を行う医師、耳鼻咽喉科医師2名で行います。化学放射線療法では、2か月の入院が必要で、治療後の口腔内乾燥や嚥下機能低下が深刻な問題になる場合があります。一方TOVSでの治療は約1~2週間の入院で早期回復が望めます。術後の機能障害も、日常生活に支障を来すような構音障害や嚥下障害はほとんどありません。上述のように適応は限られるため、画像検査や術前のカンファレンスで十分に検討を行い、判断しています。
図1.中咽頭がんTOVS症例
左:術前口腔内所見、右:術後口腔内所見
さらに詳しく知りたい方へ
文責:耳鼻咽喉科
最終更新日:2022年12月1日