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ホーム > 病気を知る > 肝臓と胆嚢とすい臓の病気 > 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう

概要

膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm:IPMN)とは、膵腫瘍の一種で、膵管(膵臓の中にある膵液の流れる管)の中に、乳頭状(盛り上がるよう)に増殖する膵腫瘍で、どろどろとした粘液を産生することで膵臓の中に嚢胞(水の袋)を作る疾患です。いわゆる典型的な膵がん(膵管がん)とは異なり、良性から悪性まで様々な段階で見つかります。一生にわたって症状が現れない方もいますが、長期間の経過を経て膵がんを発症したり、膵炎になったりする方もいるので、しっかり様子を見る必要があります。

図1.PMNの成り立ち

図1.PMNの成り立ち

症状

検診などで症状がないままに、膵嚢胞(膵臓内の水のたまり)や、膵管が太いこととして偶然見つかる方がほとんどです。その一方で、まれに粘液が詰まって膵炎になってから発見されることもあります。膵臓がんを併発した場合は痛みや閉塞性黄疸などを来すことがあります。有病率は年齢とともに上昇し、偶発的に検診で指摘されるIPMNの割合は4.3%程度と高率であることが知られています。膵がんの家族歴との関連も指摘されています。定期的な腹部超音波検査や内視鏡検査での乳頭部(膵管の出口)の所見で明らかになることが多い疾患です。

診断

1) 採血検査

IPMNでは粘液の貯留で膵液の流れが悪くなり膵臓に負担がかかって膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン)が上昇することがあります。また、ガイドラインでも指摘されているように腫瘍マーカーであるCA19-9を定期的に検査します。

2)画像診断

嚢胞の中や膵管との交通がよく見えて放射線被ばくも避けられるためMRI検査が推奨されます。さらに詳細な評価のために超音波内視鏡(EUS)検査を行います。嚢胞内にポリープ状の「結節」がある場合は、造影CT検査、造影MRI検査、胆膵内視鏡(ERCP)などが追加で行われることがあります。主膵管の中に腫瘍ができて、全体的あるいは部分的に拡張する「主膵管型IPMN」と、ブドウの房状に多房性の嚢胞の形を呈する「分枝型IPMN」、および両者が混在する「混合型IPMN」の3種類に分類されます(図2)。それぞれの腫瘍は生物学的に異なることが知られています。膵臓には、よく似た嚢胞性疾患ができることも知られており、これらの画像検査はそれらとの区別を行うためにも重要な検査と考えます。

図2.IPMNの形態による分類

図2.IPMNの形態による分類

3)分枝型IPMNの診断

分枝型IPMNの場合は良性から悪性まで様々であり、まれではあるものの悪性のIPMNを疑う患者さんは手術が必要となります。「高度異型腺腫」というがんの一歩手前で手術ができれば手術による根治が期待されます。生検検査などで確定診断を得ることが難しい疾患ですので、画像検査の結果を見ながら国際診療ガイドラインに基づいてIPMNを分類しています(図3)。

図3.分枝型IPMNに対する、国際診療ガイドラインに沿った手術適応、経過観察

図3.分枝型IPMNに対する、国際診療ガイドラインに沿った手術適応、経過観察

悪性の疑いがある場合は精密検査をお勧めしております。精密検査では超音波内視鏡や内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査が行われます。超音波内視鏡は先端に超音波プローブが取り付けてある内視鏡検査で、体への負担が少ない検査ですが、CTやMRI検査よりも精度が高く、小さな病気も発見することが可能で非常に有用です。内視鏡的胆管膵管造影検査は合併症として膵炎を来すことがあるため、がんを強く疑う場合や、手術を検討している際に十分注意をしながら検査をいたします。超音波内視鏡での針生検(EUS-FNA)による確定診断については、嚢胞内の粘液成分が漏れることで腹膜播種を来す可能性があり、国際ガイドラインでは推奨されていません。病気の状況によっては安全に施行することが可能な場合もあり状況を見て判断しております。

4)主膵管型IPMNおよび混合型IPMNの診断

MRI検査、EUS検査などを用いて病状を確認します。手術適応は主膵管径10mm以上、壁在結節、黄疸の合併症例です。高い確率でがんが合併することが報告されており、複数の検査を用いて総合的に判断します。また、腫瘍ががん化しているか判断するために、直接膵管内を観察できるデジタル膵管鏡を用いて病変を視認して、組織を採取する検査が行われます。膵管鏡では、より確実に組織採取ができることに加え、上記の検査では発見できなかった病変を指摘したり、悪性の場合の手術範囲の決定に役立つことも期待できます。しかし膵炎など合併症もある検査であり、施行の際は施行医から十分な説明をさせていただきます。

図4.膵管鏡

図4.膵管鏡
主膵管型IPMNに対してデジタル膵管鏡を挿入して腫瘍を視認して生検する。

治療

悪性あるいは悪性を強く疑う場合は手術により摘出します。病気の場所によって切除方法は異なりますが、膵臓手術は難度の高い手術ですので、手術件数の多い施設で経験豊富な医師に手術をしていただくことをお勧めします。手術範囲により膵臓からのインスリン分泌量が減少する場合は、インスリン自己注射療法を導入することがあります。また、ご高齢の方にも発症することが多く、体調によっては手術を避けることもあります。進行していて手術で取ることが難しい場合は、化学療法(抗がん剤)や放射線療法を検討します。また、病気によって胆管や十二指腸が詰まってしまうことがありますが、そのときはステントという管を通して再開通させたり、胃空腸バイパス術(胃に小腸をつなげる手術)などで食べ物や胆汁の逃げ道を作ったりします。

生活上の注意

IPMN患者さんは分泌された過剰な粘液が膵管の流れをとどめてしまい、膵炎を来すことがあります。過度な飲酒を避け、禁煙し、健康な生活を心がけ、地域の定期的ながん検診や人間ドックは受けることをお勧めします。 IPMNは悪性化することはありますが、変化は比較的ゆっくりであるため、大きさや形の変化に注意しながら経過観察します。その一方で、IPMNとは違う部位や隣接する部位に新たな膵がん(de novoがん、Branch-offがん)が出現する危険性があることも知られています。嚢胞の大きさや結節の出現を定期チェックする以外に、膵臓がんを早期に発見することが重要です。膵がん発症を早期に見つけるために必ず定期検査を受けるようにお勧めいたします。

膵がんとの関連

膵がんによる2020年の死亡予測として年間38万人ががんで亡くなられますが、そのうち膵がんが36,700人で、肺、大腸、胃についで4番目とされています(厚生省HP)。ピロリ菌で胃がん、喫煙で肺がんが発生するのと同様に、IPMNは膵がんの発がん母地となるリスク因子とされています。「膵癌診療ガイドライン2019」によると、分枝型IPMNにおける生涯の膵がん合併頻度は2~10%で、膵がん死亡率は通常の15.8倍とされています。米国では分枝型IPMN患者は10年間で悪性化8%、5年以内の悪性化4.3%とされています。現時点で悪性リスクがない場合でも定期的な画像検査が推奨されます。

慶應義塾大学病院での取り組み

MRCPなどで経過観察をして、悪性化が疑われる場合は超音波内視鏡や逆行性胆管膵管造影、経口膵管鏡といった特殊な内視鏡検査を専門的に行っています。消化器内科と一般消化器外科が密に連携し、垣根なく患者さんの精査、治療に携わっています。

さらに詳しく知りたい方へ

  • IPMN国際診療ガイドライン:日本語版. 2017年版 / 国際膵臓学会ワーキンググループ著
    東京:医学書院, 2018.2
  • 膵癌診療ガイドライン2019外部リンク(一般社団法人 日本膵臓学会)
  • 膵嚢胞性疾患外部リンク(IPMN、MCN)(慶應義塾大学医学部一般・消化器外科 肝胆膵・移植班)
  • Indication for resection and possibility of observation for intraductal papillary mucinous neoplasm with high-risk stigmata.
    Abe K, Kitago M, Masugi Y, Iwasaki E, Yagi H, Abe Y, Hasegawa Y, Fukuhara S, Hori S, Tanaka M, Nakano Y, Yokose T, Shimane G, Sakamoto M, Kitagawa Y.
    Pancreatology. 2021 Jun;21(4):755-762. doi: 10.1016/j.pan.2021.02.012. Epub 2021 Feb 18.
    当施設で最近の7年間でIPMNの精密検査を施行した328人のうち合計75人が手術を受けており、その成績を公表しています。

文責: 消化器内科外部リンク
最終更新日:2022年2月22日

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