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ホーム > 病気を知る > 脳・脊髄・神経の病気 > 脳血管障害 > 脳梗塞、脳出血(脳卒中)

脳梗塞、脳出血(脳卒中)

のうこうそく のうしゅっけつ (のうそっちゅう)
脳卒中

概要

脳卒中は、脳梗塞(のうこうそく)、脳出血、くも膜下出血に分けられます。この項では脳梗塞と脳出血について述べます。くも膜下出血に関しては、別記事「くも膜下出血」に記載しています。脳梗塞とは、脳の動脈が詰まって血液の流れが悪くなり、脳がダメージを受ける病態です。脳出血とは、脳の血管が破れて血液が漏れ出る病態です。昔から脳溢血(のういっけつ)という言葉がありますが、それは「血が溢(あふ)れる」、つまり脳出血のことです。
脳梗塞は、その原因によってさらに以下の3つのタイプに分けられます。

  1. 大きな動脈の動脈硬化によって血栓が出来て詰まるもの(アテローム性)
  2. 心臓に出来た血栓が流れて来て詰まるもの(心原性)
  3. 脳の細い動脈が高血圧のために細くなって詰まるもの(ラクナ)

医師は様々な検査の結果から、どのタイプの脳梗塞であるかを診断します。たとえば、心房細動という不整脈がある場合は心原性脳塞栓症の可能性を考慮します。上記の1~3以外のタイプの脳梗塞も存在し、それぞれのタイプにあった急性期治療、予防治療が行われます。脳出血の大部分は高血圧が原因で起こります。このタイプの脳出血は、起こしやすい脳の場所がある程度決まっています。高血圧が原因ではない脳出血としては、脳血管奇形(脳の血管が正常に作られない)、アミロイド・アンギオパチー、血液疾患(血を止める作用が弱くて出血しやすい)などを背景とした脳出血があります。アミロイド・アンギオパチーとは、脳の細い血管にアミロイドという異常なタンパク質が沈着し血管がもろくなる病態で、加齢とともに増加するといわれています。高齢者で高血圧といわれたことのない人に脳出血が起きるとこの病態が疑われます。

症状

脳は各部分で働きが異なり、脳梗塞または脳出血により脳のどの場所がダメージを受けたかによって症状が異なります。脳卒中の代表的な症状は、意識障害(呼びかけても目を開けない、正しく返答ができない)、運動障害(半身が動かなくなる)、構音障害(呂律が回らない)、感覚障害(半身の感覚が鈍くなる)、平衡障害(ふらつき)、けいれん、視野障害(視野の一部が欠ける)、視力障害(片目がぼやける)、失語(言葉が出ない、言葉の理解ができない)、頭痛などです。症状の中では運動障害が最も多く、頭痛は脳梗塞より脳出血(あるいはくも膜下出血)で多くみられます。例えば、運動の中枢(=指令所)がダメージを受ければ、反対側の半身(右脳であれば左半身)の麻痺が、感覚の中枢のダメージでも反対側の半身(右脳であれば左半身)の感覚障害が、一般的には起こります。大脳からの運動の指令や手足からの感覚の情報は電気信号でやりとりされていますが、電気信号の伝達経路(=電線)はそれぞれ途中で交叉しているので脳がダメージを受けた部位と反対側の症状になるのです。言語中枢にダメージを受ければ他人の言っていることを理解できても自分ではしゃべれなくなったり、他人の言っていることが理解できなくなったりします。脳卒中に特徴的なのは、これらの症状が「突然」起こるということで「以前から何となく手足の具合が悪い」というような場合は、脳卒中の後遺症ということはあるかもしれませんが、新たに脳卒中を発症したとは考えづらくなります。このほか、脳卒中が脳の多くの場所に蓄積してくると、徐々に物忘れ(認知症状)や歩きづらさの原因となることはあります。

脳卒中の中でも特に脳梗塞には、症状の前触れがみられることがあります。これを一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)といいます。英語の表記(Transient Ischemic Attack)を省略してTIA(ティーアイエー)と呼ぶこともあります。症状は脳梗塞と全く同じですが、数分から10数分、長くても24時間以内に完全に症状は消失して、元の状態に戻ってしまいます。しかしながら、一過性脳虚血発作を1度起こした人は、近い将来、脳梗塞を起こす可能性が高いといわれています。ですから、このような発作があれば、なるべく早く原因を調べ、適切な治療(脳梗塞の発症予防)をしなければなりません。一過性脳虚血発作の原因の1つは、首にある動脈(頸動脈)の動脈硬化です。頸動脈に動脈硬化があると、血管の内側の壁に小さい血の固まり(血栓)ができやすくなり、何かの拍子にその血栓がはがれ、血流に流されて、脳や目の血管に詰まってしまいます。目の動脈に一時的に血栓が詰まると、片目だけ見えない(カーテンをしたように視野の一部、あるいは全体が黒く見えない)という状況になり、これを一過性黒内障と呼びます。急に視野に異常を来した際は、片方の目だけが見えにくいのか(=目の血管の異常を疑う)、あるいは両目とも異常なのか(主に脳の血管の異常を疑う)を自分で確認することが重要です。脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)による症状が出現してから1日以上経って、ようやく病院を受診する患者さんもおられますが、発症直後にできるだけ早く病院を受診することにより、治療の選択肢が多くなる可能性があります。下に挙げた5つの症状のうち1つ以上があれば、ただちに医療機関を受診することをお勧めします。

  1. 身体の片側の顔、腕、足に「突然」脱力やしびれが出現する
  2. 「突然」目が見えなくなる、ものがぼやけて見える、視野が欠ける
  3. 「突然」言葉がしゃべれなくなる、会話を理解することが困難となる
  4. 「突然」の原因不明の激しい頭痛
  5. 原因が分からない「突然」のめまい感、ふらつき感、転倒を認め、特に上に挙げた症状に伴う場合

診断

脳卒中の診断に際しては、どのようなときに、どのように起こり、どのような経過をたどっているかの情報が非常に重要です(例えば、○時○分頃に、自宅でテレビを見ているときに、急に左半身が利かなくなって、どんどん症状が進んできた、など)。脳卒中の患者さんは時として意識障害を起こしていたり、言葉がしゃべれなくなっていますので医療機関を受診するときは家族の方などに付き添っていただくことが望ましいです。さらに、脳卒中を以前に起こしたことがある、脳卒中を起こしやすい因子(血圧が高い、血糖が高い、コレステロールが高い、メタボリックシンドロームといわれている、不整脈を持っている、心臓弁膜症といわれているなど)を持っている、あるいは普段服用している薬(血圧を下げる薬、血糖を下げる薬、コレステロールを下げる薬、血液をサラサラにする薬、月経困難症の薬や経口避妊薬など)といった情報も重要です。

脳卒中を疑われる患者さんが来院すると、まず血圧、脈拍、心音、呼吸音、おなかの状態、むくみの有無など一般的な身体所見の評価を行います。次に脳神経系の診察を行い、意識の状態、言葉の理解や発音、運動麻痺がある部位や程度、感覚の障害がある部位や程度、可能であれば歩行の状態などを調べ、脳や脊髄のどの部位が障害を受けているかを推定します。

画像の検査としては、頭部CTを撮影します。CTとはX線を使った断面写真のことです。脳出血の場合、発症した直後から出血を明瞭にとらえられるので診断が確定します。一方、脳梗塞は発症してから24時間以内では明らかな異常がとらえられないことが多いとされます(実際には脳梗塞に特有な微細な変化がとらえられる場合もあります)。造影剤を用いた頭部CTは、頭部や頚部の血管の画像を撮影することが可能であるほか、脳卒中治療を専門に行う医療施設では、脳梗塞による脳組織の障害の程度や状況を把握するために用いられ、治療方針の決定に重要な役割を果たすようになっています。また、頭部CTで変化が確認できない場合は、頭部MRIを撮影することで、脳梗塞のほとんどの症例で診断が確定します。MRIとは磁気を使った断面写真のことです。同時にMRIを用いて脳の血管の写真を撮ることも可能で、どの血管が詰まっているかが判明する場合があります。この撮影法をMRA(エムアールエー)といいます。医療機関の中には頭部CTを省略して最初から頭部MRIを撮影する施設もありますが、頭部CTと頭部MRIにはそれぞれ長所と短所があることから、状況によって使い分けることになります。

さらに、頸動脈エコー、心エコー、ホルター心電図(24時間にわたってチェックを行う心電図)などの検査を行い脳梗塞のタイプを診断します。場合によっては、経食道心エコー、下肢静脈エコー、経頭蓋エコー、脳血管造影(カテーテル検査)を行う場合もあります。脳の血流量の評価が必要な場合はアイソトープを用いた検査であるSPECT(スペクト)を行うことがあります。

治療

脳梗塞

脳梗塞を起こしてから4.5時間以内の患者さんにt-PA(ティーピーエー, rt-PAともいいます)という血栓溶解薬(けっせん ようかいやく)が使えます。この薬は、点滴を用いて投与するので、投与方法そのものは単純といえますが、一方で、脳出血など命に関わる重篤な出血を起こしやすいという短所もあります。そのため、出血の副作用を可能な限り予防するために、t-PAを適切に使うための指針(ガイドライン)が日本脳卒中学会から出されています。そのガイドラインに従って医師が専門的に判断し、この薬を使うことで効果が期待できる場合に限って、患者さんや家族の方に同意を頂いた上で使用します。このような理由から、脳梗塞を発症してから4.5時間以内に来院した脳梗塞の患者さんの全てに、t-PAを投与できるわけではありません。

最近では血管内治療(カテーテル治療)も広く行われるようになっています。血管内治療は、足の付け根や腕などにある太い動脈からカテーテルという細い管を血管の中に入れ、レントゲンで確認しながらその管を脳や首の血管まで移動させ、詰まっている血栓(血の固まり)を回収、吸引して取り除くものです。血管内治療では、腎臓に負担がかかる造影剤を使用するほか、血管の中にカテーテルを入れることにより血管に傷を作ってしまうこともありますので、この治療を専門とする医師が総合的に判断し、効果が十分期待できる場合に限って、患者さんや家族の方にご説明し、同意を頂いてから行います。最近の脳卒中治療については、脳卒中センター ~専門医連携による最良の治療への取り組み~(KOMPAS「あたらしい医療」)でもご紹介をしていますのでご覧ください。

t-PAによる治療や血管内治療を行わなかった場合には、脳梗塞のタイプに応じて

  • 抗血小板薬(こうけっしょうばんやく):血液をサラサラにする薬
  • 抗凝固薬(こうぎょうこやく):抗血小板薬とは別の作用で血液をサラサラにする薬
  • 脳保護薬(のうほごやく):脳に血液が流れないことで起こるダメージを抑える薬
  • 抗脳浮腫薬(こうのうふしゅやく):脳のむくみを抑える薬

などの薬剤を組み合わせて、治療を行います。t-PAを使用した場合には、血液をサラサラにする抗血小板薬・抗凝固薬は、投与後24時間経過してから使用を開始します。
いったん状態が安定した後は、再発予防を目的とした治療と後遺症への対処が重要になります。 再発予防の治療として脳梗塞のタイプに応じた薬の内服と、脳梗塞を起こしやすい因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、タバコ)の適切なコントロールが挙げられます。また、検査の過程で頸動脈に動脈硬化のため狭くなった箇所が見つかる場合があります。これが原因で脳梗塞の再発が起こる危険性が高いと判断される場合には、手術で狭くなった血管の掃除をすることや、ステント(金属製の網目状の筒)を狭くなった場所に置くことで血管を広げます。後遺症対策としては、症状に応じたリハビリテーション、福祉サービスの適切な利用が挙げられます。

脳出血

一度起きてしまった脳出血に対しては、根本的な治療法は残念ながら存在しません。出血により神経細胞はダメージを受けますが、出血巣が縮小すると、症状の改善が多少みられることがあります。なお、現時点で、一度死んでしまった脳細胞を生き返らせる治療法はありません(これは脳梗塞の場合でも同じです)。そのため、出血の場所、大きさ、広がり方などを考慮しながら全身状態の管理を行い、出血の拡大を防ぎ、血液が固まって生じた血腫が自然に吸収分解され、消失するのを待つことが基本となります。具体的な治療内容は以下のようになります。

  • 抗脳浮腫薬(脳のむくみを抑える)の投与
  • 過度な高血圧の補正
  • 場合により手術(救命が主な目的であり、運動麻痺や感覚障害が改善するわけではありません)

脳梗塞と脳出血に共通する治療として、以下のものが挙げられます。

  • 呼吸管理:血液中の酸素の数値が悪ければ酸素吸入
  • 循環管理:血圧や脈拍数を適切な値に維持する
  • 点滴:水分補給や栄養補助
  • 感染症の予防、治療:のどの動き、口腔の衛生状態が悪いと、誤嚥性肺炎の危険性が高くなります
  • 嚥下(えんげ)障害がある場合は、チューブを用いた栄養(経管栄養)
  • 発症早期からのリハビリテーション:症状に応じて体位変換、他動運動、ベッド挙上、車いすへの移動、立位バランス訓練、歩行訓練と徐々にアップしていきます

脳卒中を発症すると、後遺症によって患者さんやご家族の様々な負担が増えかねませんので、脳卒中は予防がとても重要です。脳卒中を予防するには、まず健康診断を定期的に受けて自分の健康状態をしっかり評価することが重要です。血圧が高いと言われた方は、血圧を計って正常値を維持することが必要です。血糖値、コレステロール値のコントロールも重要です。日常生活では、正しい食事(塩分制限とバランスのとれた栄養素の配分)と脱水予防を目的とした水分摂取、適度な運動を行うことが推奨されます。また、タバコはやめて、お酒の飲み過ぎは避けて適量にしましょう。

慶應義塾大学病院では2020年から「脳卒中センター」を設立しました。神経内科、脳神経外科、救急科、放射線科、リハビリテーション科、精神神経科など多くの診療科、診療部門が協力して診療を行っています。脳卒中センターの取組みや、最近の脳卒中治療については、 脳卒中センター~専門医連携による最良の治療への取り組み~(KOMPAS「あたらしい医療」)でもご紹介していますので是非ご覧ください。

文責: 神経内科外部リンク
最終更新日:2021年11月17日

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