病気を知る
不安症(不安障害)
概要
そもそも「不安」は病的なものではなく、危険や変化を察知するために人間に備わっている自然な感情の1つです。不安によって私たちは、危険を回避したり変化に備えたりしやすくなります。しかし、不安の信号が過剰になったり、危険でないものにまで信号が出されるようになったり、あるいは信号が適切であっても、それに続く行動が不適切なもの(回避行動など)になったりすると、生活に支障を来します。そのような不具合を来している疾患をまとめて「不安症(従来の不安障害)」と呼びます。
不安と似た用語として「恐怖」があります。どちらも警告信号である点は同じですが、不安が漠然とした将来の脅威に対する信号であるのに対して、恐怖は現実の、目の前の脅威への信号です。
不安症の診断は、症状の重症度、頻度、持続期間に基づいて行われ、社会生活や仕事など重要な機能に著しい支障を来している場合に診断されます。一時的なストレスによる不安は、たとえ強いものであっても、すぐに治まる場合は不安症とは診断されません。
分類と症状
限局性恐怖症
特定の対象または状況に対する、過剰な恐怖または不安が特徴です。動物(クモ、虫、犬など)、自然環境(高所、嵐、水など)、血液・注射・負傷型(注射針、血液を見ることなど)、状況(飛行機、エレベーター、閉所など)、その他(窒息や嘔吐への恐怖など)に分類されます。
社交不安症
他者からの注目を浴びる状況に対する過剰な恐怖または不安が特徴です。恥をかいたり、否定的に評価されたりすることへの恐怖が中心にあります。人前で赤面、発汗、震えなどの身体の症状を経験し、それが非常に恥ずかしく、他人の注意を引くと思い込むことがあります。
パニック症
予期しないパニック発作の繰り返しと、「また発作が起こるのではないか」という不安や「発作が起こるとどうにかなってしまうのではないか」という心配、行動の変化(運動や不慣れな状況を回避する、など)が特徴です。パニック発作とは突然に生じる自律神経系の乱れで、数分以内にピークに達し、動悸、発汗、震え、息苦しさ、胸痛、吐き気、めまい、しびれ感などの症状がみられます。それらの症状から内科や救急科を受診する方もいますが、検査をしても異常が見当たらないことが多いです。
広場恐怖症
公共交通機関の利用、人混み、広い場所、一人での外出などの場面で、何か困った症状が出たときに逃げることが困難であったり、助けが得られないかもしれないという考えから生じる恐怖や不安が特徴です。文字通りの「広場」以外の場所でも起こります。重症例では、めったに家を出られなくなることがあります。
全般不安症
特定の対象や状況に限らず、家族、健康、経済、仕事など日常のあらゆることに対する過度な心配が続く状態です。日常生活に伴う自然な心配と比べて、より広範囲で強く、身体症状(例:落ち着きのなさ、緊張感、神経の高ぶり)を伴うことがあるのが特徴です。
ほかにも、米国精神医学会による「精神障害の診断と統計の手引き第5版改訂版(DSM-5-TR)」の分類では、分離不安症、場面緘黙、物質・医薬品誘発性不安症などがあります。
DSM-5-TRにおいては、不安症が自殺と非常に高い関連性を持つことが強調されており、症状や苦痛を過小評価しないことが重要です。
治療
治療には薬を使う薬物療法と精神療法があります。いずれかの方法で治療することもありますが、併用する場合もあります。
薬物療法
不安症に用いられる主な薬は、抗うつ薬と抗不安薬です。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)という抗うつ薬による治療が推奨されています。これらの薬は全般不安症、社交不安症、パニック症に対して有効性が確立されており、長期使用でも比較的安全です。
ただし、SSRIやSNRIは飲み始めてからすぐに効果が出てくるわけではなく、効果が現れ始めるまでに2〜4週間、完全な効果が出るまでに最大3か月かかることがあります。副作用に注意して、少量から開始して徐々に増量する「少量から始めてゆっくり増やす」という原則が重要です。主な副作用には、吐き気、頭痛、不眠、眠気、性機能障害などがありますが、多くは治療開始早期に現れ、内服を続けると1〜2週間で改善することが多いです。効果が得られた場合は、すぐに内服をやめるのではなく再発予防のために一定期間は継続することが推奨されています。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)は即効性がありますが、耐性や依存性の副作用があります。耐性とは、使っているうちに身体が薬に慣れて効果が弱くなってくることで、依存性は、薬を切らすと余計に不安が強くなることです。そのような副作用からベンゾジアゼピン系薬剤は、SSRI/SNRIの効果が出るまでの最初の数週間に限定して使用するか、他の治療で効果が不十分な場合に慎重に使用します。
精神療法
認知行動療法(CBT)
最も推奨される精神療法は認知行動療法(CBT)です。この治療法では、まず不安が生じるメカニズムを学び、自分の不安がどれくらい現実的なものなのかを吟味したり、より適応的な行動はどのようなものかを検討したりします。そして、そこで検討された行動を実行したりします。
通常のCBTは10〜16回のセッション(各50分)で構成され、不安症状の有意な改善が得られ、その効果は長期的に持続することが示されています。
マインドフルネス
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)やマインドフルネス認知療法(MBCT)も有効な治療法です。瞑想、呼吸法、その他のマインドフルネスリラクゼーション技法で構成されます。
その他の心理療法
森田療法、アクセプタンス&コミットメント療法(ACT)、リラクゼーション法なども、不安症に対しての有効性を示す報告があります。
森田療法では、不安症状を人間にとって自然な感情の一つとして受け入れ、不安を無理にコントロールしたり排除したりしようとするのではなく、不安を抱えながらも現実の生活に取り組むことを重視しています。
参考文献
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活用できる書籍
- こころが晴れるノート : うつと不安の認知療法自習帳 / 大野裕著 大阪 : 創元社, 2003.3
自分のものの見方や考え方のクセをノートを用いて整理しながら、認知療法のコツを身につけるための自習帳です。