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いよいよ始まる婦人科がんでのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術 ―婦人科―

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はじめに

婦人科がん領域の手術では、リンパ節の摘出を行うことが多く、時に下肢のリンパ浮腫などの合併症を認めます。最近では治療成績の向上に伴い、がんサバイバーと呼ばれる長期生存者も増え、治療後の生活の質(Quality of Life:QOL)も重視されるようになってきました。

いかに不要な手術を省略できるかという観点から、センチネルリンパ節・センチネルリンパ節ナビゲーション手術という概念が提唱され、乳腺外科、皮膚科を中心に行われるようになってから既に10年以上が経過しています。しかしながら婦人科がん領域ではこれまで、トレーサーと呼ばれる、手術に必要な薬剤が保険承認されていないという問題から、研究レベルでのみ行われてきたのが現状です。

このたび、2023年3月に放射性同位元素(Radioisotope:RI)のトレーサーとして、フィチン酸テクネチウムが乳がん悪性黒色腫に次いで子宮体がん子宮頸がん、外陰がんでも保険収載されました。それを踏まえて、今回は慶應義塾大学病院婦人科における婦人科がん領域でのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術導入に向けての取り組みをご紹介します。

領域リンパ節とセンチネルリンパ節

婦人科悪性腫瘍の手術においては、特に子宮体がん、子宮頸がん、外陰がんでは主にリンパ流を介した転移をするため、多くの患者さんで早期に転移をする可能性がある領域リンパ節と呼ばれるリンパ節の摘出がなされています。一方で、全例でリンパ節転移を認めるわけではなく、I~II期の早期がんにおいては領域リンパ節転移を有する割合は、子宮体がんでは6%、子宮頸がんでは16%、外陰がんでも25%程度とされています。

子宮体がんでは骨盤リンパ節、傍大動脈リンパ節、子宮頸がんでは骨盤リンパ節、外陰がんでは浅鼠径・深鼠径リンパ節と呼ばれるリンパ節が領域リンパ節にあたります(図1)。骨盤リンパ節郭清を行うと、下肢や会陰部の浮腫を生じQOLが低下したり、骨盤内リンパ嚢胞や膿瘍などの合併症が生じたりすることがあります。また傍大動脈リンパ節郭清も併せて行うと長時間の手術となり、術後腸閉塞などの合併症が生じる頻度も増加する傾向があります。鼠径リンパ節郭清も同様にリンパ浮腫などの合併症が起こりえます。そのため治療成績の進歩に伴い長期的ながんサバイバーが増え、長期的な術後のQOLの問題も無視できないという考え方が近年出てきました。

図1.婦人科がんの領域リンパ節(日本癌治療学会「リンパ節規約」(金原出版)より改変)

図1.婦人科がんの領域リンパ節(日本癌治療学会「リンパ節規約」(金原出版)より改変)

腫瘍細胞が原発巣からリンパ流に乗って流れ出ていくとき、最初にたどりつくリンパ節をセンチネルリンパ節といいます。センチネルリンパ節を手術中に1~数個取り出し(生検といいます)病理組織検査を行い、転移の有無を確認します。センチネルリンパ節に転移がなければ、その先のどのリンパ節にも転移はないと考える概念が提唱されてきました。センチネルリンパ節に転移がなければ、一律に多くのリンパ節の摘出を省略できるという手法を、センチネルリンパ節ナビゲーション手術といいます。センチネルリンパ節ナビゲーション手術が一般的になれば、センチネルリンパ節に転移のない症例ではリンパ節郭清が省略でき、多くの患者さんで縮小手術が可能になると思われます。

婦人科がんにおけるセンチネルリンパ節ナビゲーション手術

乳がんと悪性黒色腫については、2010年4月から保険診療として承認され、既に実際の臨床現場で行われています。婦人科領域では、子宮体がん、子宮頸がん、外陰がんで臨床研究が広く行われており、海外では既にある程度確立された手技となっていますが、日本ではトレーサーが長年保険承認されず、保険診療ではなく施設ごとに臨床研究として研究段階として行われてきたのが現状です。

当院では臨床試験として2009年3月より、当院倫理委員会に臨床研究として申請し承認を受け、放射線科、病理診断部、消化器外科のご協力のもと、子宮体がんのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術を目指した研究を開始しました。対象の患者さんは、手術前検査にて子宮体がんと診断された方のうち、画像検査にて手術進行期I~II期が推定され、明らかなリンパ節転移がなく、リンパ節郭清を含む手術が予定された20才以上の方です。2015年12月までに約100名の患者さんにご協力いただき、研究を進めて参りました(現在はこの臨床試験は終了しています)。これまでのこの研究の成果については、「子宮体がんの手術とセンチネルリンパ節生検(改訂)」も併せてご覧ください。

トレーサーが待望の保険適用に

近年、婦人科悪性腫瘍に対する低侵襲手術が広く行われるようになり、子宮体がんでは2014年に、子宮頸がんでは2018年より、腹腔鏡下手術が保険適用となりました。また、ロボット支援下手術も2018年より子宮体がんで保険適用となっています。これらの低侵襲手術とセンチネルリンパ節の技術は相性が良いとされ、今後増加することが期待されてきました。

このような流れの中、2023年3月にRIのトレーサーとして、フィチン酸テクネチウムが乳がんや悪性黒色腫に次いで保険収載されました。そのため日本でも、保険診療としてセンチネルリンパ節ナビゲーション手術が行える見通しが立ってきたと思います。なおインドシアニングリーン(ICG)などの色素法や蛍光法と呼ばれる別の手法におけるトレーサーは、現状保険収載がなされていませんが、今後の保険収載が期待されています。

RI法の実際

センチネルリンパ節の同定法のRI法では、手術前日に子宮腟部や外陰のがんの周囲にRIトレーサー(フィチン酸テクネチウム)を局所注射し、手術当日の朝にSPECT-CTの撮像を行います(図2)。手術中には、ガンマプローブによる検索も行い、センチネルリンパ節を同定します。なお、RIの量は、骨シンチ検査で使用される放射線量の約50~100分の1であり、人体に悪影響を及ぼす被曝量ではなく、安全と考えられています。同定されたセンチネルリンパ節を術中迅速病理診断に提出し、また術後の詳細な免疫組織化学的検索も含めて、微小な転移も可及的に見逃さないようにします。

図2.RIトレーサーを用いてSPECT-CT画像で描出された子宮体がんのセンチネルリンパ節(矢印)

図2.RIトレーサーを用いてSPECT-CT画像で描出された子宮体がんのセンチネルリンパ節(矢印)

センチネルリンパ節ナビゲーション手術の年内導入に向けて

当院では、過去の約100例のセンチネルリンパ節手術の経験をもとに、現在2023年内の実臨床運用へ向けて、準備を進めているところです。センチネルリンパ節ナビゲーション手術が一般的になることで、婦人科がん患者さんの治療後の予後改善やリンパ浮腫などの合併症軽減につながることが期待されます。

文責:婦人科外部リンク
執筆:坂井健良、山上亘

最終更新日:2023年8月1日
記事作成日:2023年8月1日

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