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全身性強皮症(systemic sclerosis: SSc)

ぜんしんせいきょうひしょう

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概要

強皮症は、皮膚が硬くなること(皮膚硬化)を主な症状とする原因不明の病気です。広い意味での強皮症には、限局性強皮症と全身性強皮症の2つがあり、前者は皮膚だけが障害される病気ですが、後者は皮膚だけでなく全身の様々な臓器に病変がみられ、末梢循環障害といわれる手足の血行障害も伴います。また、大半の症例で自己抗体が検出されます。両者は全く異なる病気で、全身性強皮症は膠原病の一つです。これからの話は全て全身性強皮症に関する内容で、以下略して「強皮症」とします。

我が国の推定強皮症患者数は約2万人とされています。男女比は1:10と圧倒的に女性に多く、30~50歳で発症することが多く、小児を含めてあらゆる年齢層でみられます。

強皮症の病因は未だ解明されていませんが、免疫異常、線維化、血管障害の3つの異常が病態に深く関与していると考えられています。また、強皮症は遺伝子異常のみで発症するいわゆる遺伝病ではありませんが、遺伝的な要素(遺伝素因)と環境因子(環境素因)の両方が発症に関与していると考えられています。

全身性強皮症は難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づく指定難病の一つであり、重症者や継続的に高額医療費の負担がある場合には医療費助成制度の対象となります。

臓器病変および症状

強皮症は、皮膚及び諸臓器の線維化、微小血管障害、自己抗体産生の3つを特徴とします。皮膚硬化のみならず、多彩な臓器、特に心臓や肺などの重要臓器にも病変を伴うこともあります。強皮症は皮膚硬化の範囲で2つの病型に分けられ、肘や膝を越えて体幹部に向かって皮膚硬化がみられる症例を 「びまん皮膚硬化型全身性強皮症(diffuse cutaneous SSc:dcSSc)」 、皮膚硬化が肘や膝よりも末梢にとどまる症例を 「限局皮膚硬化型全身性強皮症(limited cutaneous SSc:lcSSc)」 と呼びます。強皮症では全身の臓器に病変が生じますが、それぞれの臓器病変が起きるか起きないかは患者さんによって異なります。病型を分類することにより、将来どのような症状や臓器病変が起こり得るかをある程度予測することができます。以下に強皮症でみられる臓器病変および症状を概説しますが、すべての臓器病変が同時に一人の患者さんに起きることはあまりありません。

・皮膚症状

強皮症と診断される半数以上の初発症状は、レイノー現象です。レイノー現象とは、寒冷刺激や精神的緊張によって手足の指先に起こる色調変化のことで、典型的には白→紫→赤の3段階、または白→紫や白→赤の2段階に変化します。冬場の外出時や、夏でも冷房の効いた部屋に入った時や冷蔵庫に手を入れた時など、急な温度変化がある場合や精神的な緊張状態にあるときなどにみられます。この症状は、強皮症以外にほかの膠原病の患者さんや健康な方(振動工具を用いる方など)でもみられることがあります。

皮膚硬化(図1)は、びまん皮膚硬化型の患者さんでは指先から始まり徐々に体の中心に向かって広がりますが、限局皮膚硬化型ではあまり広がりません。顔面にもみられ、表情の変化や口が開きにくくなることがあります。指先の血行障害の症状として、レイノー症状のほか爪のあま皮に現れる黒い小さな血点や指先にみられる凹んだ傷跡、皮膚潰瘍がみられることがあります。

図1.

図1.手指の皮膚硬化
手指の皮膚に光沢があり、皮膚の色が濃い部分と色が抜けている部分が混在している。

・関節症状

肘や膝や手首や指などの関節痛や、関節が曲げられない、伸ばせないなど、可動域制限を伴うことがあります。

・間質性肺疾患

強皮症の半数を越える患者さんで、肺の間質に炎症や線維化が生じる間質性肺炎を来します。症状としては咳や息切れが多く、徐々に息苦しさが増して酸素吸入が必要となるケースもあります。びまん皮膚硬化型の症例でその頻度は多いですが、進行の程度は様々ですので、定期的に胸部レントゲンCT検査肺機能検査(肺活量などの検査)で評価します。

・肺高血圧症

心臓から肺へ血液を送る肺動脈に変化が起こり、肺動脈の圧が過剰に上昇する病態を肺高血圧症と呼び、強皮症の10%前後の方に起きるとされます。初期では自覚症状が乏しいですが、進行すると息切れ、呼吸困難があります。 突然死の原因になることもあります。 進行してからの治療は困難なことが多く早期発見が重要であり、診断のために心臓超音波検査心臓(右心)カテーテル検査などを行います。

・消化管障害

線維化により腸管の運動(蠕動運動)が悪化することにより起きますが、比較的多いのは食道の障害です。「食べたものが胸につかえる」や「胸やけがする」といった症状を自覚することがあります。また、下部消化管に生じると、便秘や腸閉塞を自覚することもあります。

・腎クリーゼ

頻度は少ないですが、重篤な腎障害を来すことがあり、びまん皮膚硬化型の患者さんに多くみられます。罹病期間の短い症例、すなわち発症早期に、急激な血圧上昇を伴う腎機能障害を突然発症し、「腎クリーゼ」と呼ばれています。症状として頭痛や吐き気を伴い、尿が出にくくなることがあります。

診断

下記に示す厚生労働省の診断基準や欧州/米国リウマチ学会の分類基準を用いて総合的に診断します。

全身性強皮症・診断基準 2010年(厚生労働省)

大基準

手指あるいは足趾を超える皮膚硬化

小基準

1) 手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
2) 手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指腹の萎縮
3) 両側性肺基底部の線維症
4) 抗Scl-70(トポイソメラーゼI)抗体または抗セントロメア抗体陽性

大基準、あるいは小基準1)かつ2)~4)の1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断

*限局性強皮症(いわゆるモルフィア)を除外する。
*手指の所見は手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く。


EULAR/ACR による全身性強皮症 分類基準(2013年)

項目

副項目

点数

両手指のMCP関節より近位の皮膚硬化

-

9

手指の皮膚所見(高得点をカウント)

手指腫脹(Puffy fingers)

2

MCP関節からPIP
関節の皮膚硬化

4

指尖の皮膚病変(高得点をカウント)

指尖部潰瘍

2

指尖部陥凹性瘢痕

3

毛細血管拡張症

-

2

爪郭毛細血管異常

-

2

肺病変(いずれか)

肺動脈性肺高血圧症

2

間質性肺疾患

レイノー現象

-

3

SSc関連自己抗体(いずれか)

抗セントロメア抗体
抗Scl-70/トポイソ
メラーゼI抗体
抗RNAポリメラーゼIII抗体

3

*合計9点以上で全身性強皮症と分類する。

*手指硬化のない場合や、強皮症に類似する疾患(腎性全身性線維症、全身性のモルフィア、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、肢端紅痛症、ポルフィリア、硬化性苔癬、GVHD、糖尿病性手関節症など)には適応しない。

強皮症と自己抗体について

強皮症では、診断された95%以上の患者さんに"抗核抗体"という自己抗体が血液中で検出され、特徴の一つと考えられています。抗核抗体には様々な種類がありますが、強皮症では抗Scl-70(トポイソメラーゼI)抗体、抗セントロメア抗体、抗U1-RNP抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体がしばしば検出されます。

キャピラロスコピー/毛細血管顕微鏡について

強皮症では爪郭部の出血点や毛細血管拡張が肉眼でもみられることがありますが、キャピラロスコピー/毛細血管顕微鏡(nailfold videocapillaroscopy:NVC)を用いて肉眼的には観察できない巨大毛細血管や無血管領域などの異常所見を評価することが、強皮症の早期診断や活動性の評価において有用であることが示されています。

治療

現時点ではこの病気を根本的に制御できる治療は確立されていませんが、病気の自然経過を抑えることで障害を最低限に食い止める「疾患修飾療法」と、病気によって起こった症状を和らげる「対症療法」が行われます。疾患修飾療法としては、びまん皮膚硬化型の発症早期に少量ステロイドやリツキシマブ(商品名:リツキサン®)などの免疫抑制剤を用いることで皮膚硬化を改善させる効果が示唆されています。また間質性肺炎に対しては、進行の程度によってシクロフォスファミド(商品名:エンドキサン®)などの免疫抑制剤やニンテダニブ(商品名:オフェブ®)という抗線維化剤を用いることで肺機能の低下を遅らせることが示されています。対症療法としては、レイノー現象や皮膚潰瘍に対するプロスタサイクリン製剤、肺高血圧症に対する肺血管拡張薬(エンドセリン受容体拮抗剤、PDE5阻害剤など)、逆流性食道炎に対するプロトンポンプ阻害剤、関節痛に対する鎮痛薬、腎クリーゼに対するACE阻害剤などが用いられます。

生活上の注意

長く向き合わなければならない病気だからこそ病気のことを正しく理解して生活習慣に気をつけることが大切です。また、強皮症の症状や経過は、患者さんごとに大きく異なりますので不安をひとりで抱えこまず、病気や治療などの心配点については主治医の先生とよく相談しましょう。
例えば、レイノー症状には、指先の保温を心掛けることが大切です。喫煙は血行をさらに悪化させるため、絶対にやめましょう。もし、皮膚潰瘍ができてしまったときは、自分で対処せず主治医に相談してください。感染が契機となり皮膚潰瘍は悪化しますので、適切な処置が必要です。また、手指の拘縮には、痛みが残らない程度にストレッチをすることが推奨されます。一方、強皮症の治療によっては感染に対する抵抗力を下げることがあり、肺病変に感染が合併すると重篤な状況になることがあります。うがいや手洗いなど感染に対する対策を心掛けるとともに、発熱やせきの悪化がみられたら、速やかに主治医に相談しましょう。

慶應義塾大学病院での取り組み

強皮症の病態は未だ不明な点が多く、国内外の多くの科学者が様々な研究を行っています。慶應義塾大学病院リウマチ・膠原病内科でも精力的に研究を行っており、原因の追究と新規治療法の開発を試みています。また早期診断のため、強皮症が疑われる患者さんに対して上記のキャピラロスコピー/毛細血管顕微鏡を積極的に行っています。的確で迅速な診断と治療を心がけています。

さらに詳しく知りたい方へ

文責: リウマチ・膠原病内科外部リンク
最終更新日:2023年6月7日

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