UNIVASの概要

UNIVASは、文部科学省・スポーツ庁が2019年3月1日に設立した一般社団法人大学スポーツ協会の略称です。大学スポーツを通して学生の社会人としての資質・素養育成や能力開発と大学所在地域の活性化、大学・スポーツ価値の向上を目標に、大学、競技団体、そして理念を共有する企業と協調しています。2022年5月10日時点で加盟大学は220大学、加盟競技団体32団体であり、今後もさらなる参加拡大が見込まれています。

スポーツ医学総合センターの特長

アスリートをいかに良いコンディションで復帰させるか、また、スポーツ障害をいかに予防するか、ということはスポーツ医学の重要な命題です。

慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センターは、「スポーツ医学」が「スポーツ整形外科」とは異なる診療部門として独立し、スポーツ医学全般の診療・研究・教育体制をもっています。スポーツ医学は、スポーツ整形外科、スポーツ内科などを包含したより大きな存在であり、リハビリテーション科、精神・神経科、婦人科、小児科などとも密接な連携を有し、クラスター診療科として科の枠を超えて協働しています。このスタイルは他学にはないものであり、スポーツ・運動という視点で総合的に幅広く診療・研究・教育を行える部門であることを特長としています。

 

UNIVASとの共同研究について

我が国のスポーツシーンにおいて、大学スポーツは重要なコンテンツであり、東京六大学野球・東都大学野球などの大学野球、年末・年始の大学ラグビー選手権大会や箱根駅伝、アメリカンフットボールの甲子園ボウルなどなど、絶大な人気を誇るスポーツイベントが数多くあります。

スポーツ活動において外傷や障害の発生は不可避であり、しかもそれは時としてアスリートの選手生命にも影響する重大な問題となることもあります。現在、外傷・障害を負った学生アスリートの医療サポートは、各競技、所属チームあるいは個々のアスリートに任されており、傷害の種類・発生数・原因などの正確な情報を統括的に把握することは困難です。例えば、国内で昨年1年間に膝の靱帯損傷を受傷した学生アスリートの人数、その程度、スポーツ復帰可能であったかなどの情報はありませんでした。

一方、スポーツ大国の米国ではNCAA(全米大学体育協会)が学生スポーツ全般を統括しています。NCAAは、1900年代初めに重大事故や死亡事故が多発した米国大学アメリカンフットボールにおける安全への提言、ルール改正などをきっかけに発足した、全米の大学スポーツを総合的に統轄する組織です。NCAAの医療部門は、学生スポーツのみならずスポーツ医学全般の統計学的データ(年報)や新知見を絶えず発出し、スポーツの普及とスポーツ医学の進歩に大きく寄与しています。

本学とUNIVASとの共同研究は、学生アスリート個々の外傷・障害という点と点を集約するプラットフォームを構築しビックデータを作成する「改革」から始まります。このビックデータ構築はこれまで国内にはなかったものです。ビックデータに加え、本学が提案する前向き研究により得られた研究結果を解析し、外傷・障害のガイドラインなどを含む科学的根拠に基づく新しい知見をUNIVAS・本学から発信しスポーツ現場に実装していきます。

 

また本共同研究では、学生アスリートが引退後のキャリアや人生に活かせるような情報を双方向性に発信します。例えば、しばしば女性アスリートを悩ます3徴(摂食障害の有無に関わらない利用可能エネルギー不足、機能性視床下部性無月経、骨粗鬆症)は、現役アスリート時代に正しい知識を身につけることにより、競技の引退後に問題となることが多い閉経後骨粗鬆症にも対応することができます。国内で年間15万人(2007年)が受傷する骨粗鬆症に起因する大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折)や65歳以上の約1割が罹患しているとされるフレイル・ロコモーティブシンドロームは高齢化社会の大きな問題点となっています。学生アスリートが運動に関する正しい運動知識を習得し、引退後も適度な運動を継続することが、これらの問題の解決策になります。学生アスリートにその後のキャリア、人生において有益な知識を身につけてもらうこと、つまり教育・シーディング(種まき)も本共同研究の重要な目的の一つです。

はじめに

スポーツ医学総合センター(旧称:スポーツクリニック)は、アスリート外来とメディカルフィットネス外来の2つの部門で構成されています。アスリート外来は、スポーツに起因する外傷・障害の治療とスポーツ早期・完全復帰を目指したサポートを、メディカルフィットネス外来は種々の疾病をもった患者さんの運動療法の充実に加え、未病(注)に対する適切な運動指導(運動処方)を行っています。診療には整形外科・内科をはじめ、多くの診療科が診療科の枠を超えて協働しています。

スポーツ選手、アスリートに対する治療・サポートと一般患者さんの運動療法は、大きく異なるように思われますが、個別にきめ細やかな食事・運動指導を必要とすること、さらに究極的には予防が重要であることなど多くの共通点があります。

(注)未病:健康と病気を「二分論」の概念で捉えるのではなく、心身の状態は健康と病気の間を連続的に変化するものとして捉え、この全ての変化の過程を表す概念(厚生労働省ホームページより)。

アスリート外来

アスリート外来では、スポーツに起因する外傷・障害の治療に特化した専門診療を行っています。その対象はトップアスリートのみならず、学生・学童、スポーツ愛好家まで、スポーツ・運動を行うすべての皆さんです。

スポーツ外傷・障害の治療では、可及的早期の競技復帰が望まれる、早期復帰のため手術適応を拡大することがある、逆に競技継続を優先して治療のタイミングを逸することがある、再発予防の注意喚起が重要である、など一般の外傷、疾患治療と異なる点があります。また、トップアスリートであるのか、スポーツ愛好家であるのか、いつまでに復帰をするのか、どのようなレベル(パフォーマンス)での復帰を目指すか、など個々の患者背景も異なり、それにより治療の方針も変わってきます。

当センターはプロ野球3球団とチームドクター契約を締結しているほか、ラグビー、サッカー、バスケットボールなど複数のプロ・アマスポーツチーム、また、慶應義塾大学体育会をはじめとする学生スポーツチームのチームドクターを受託し、多くのアスリートの活躍のお手伝いをしています。対象とするスポーツ外傷・障害も幅広く、上肢、下肢のあらゆる病態に対応しています。特に、投球動作による肘関節の障害である野球肘(肘離断性骨軟骨炎、肘内側側副靱帯損傷など)を負った選手は全国から数多く来院します。

アスリート外来を担当する医師は、アスリートに特異的な疾患の診断、治療、復帰過程について熟知し、様々な治療提案を行えるプロフェッショナルです。

メディカルフィットネス外来

身体の健康に対して運動が有益であることは広く認識されています。しかし、実際の医療現場では単に「運動してください」、「1日1万歩歩いてください」という曖昧な指示のみで、患者さんは実際にどうすれば良いか困ってしまうことが多いのが現状です。私たちスポーツ医学総合センターは、呼気ガス分析という特殊な装置を用いた運動検査を行うことで、どのくらいの強さの運動を行うべきかを評価し、実際にどのような種類の運動を、どのくらいの頻度で行うかなどを具体的に指導します。

また、2号館3階フィットネスエリアでは、医師およびアスレチックトレーナー(日本スポーツ協会認定アスレチックトレーナー)とともに、運動指導および運動処方を行っています。具体的には現在の健康状態および運動習慣を確認し、個々に望ましい運動を実際に行っていただく運動指導を提供しています(自由診療 30分セッション5000円)。

スポーツ医学総合センターメディカルフィットネス外来

スポーツ医学総合センターメディカルフィットネス外来

おわりに

2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムである国立競技場は、慶應義塾大学病院と目と鼻の先にありますが、同競技場はオリンピック後も市民に開かれたスポーツクラスターの拠点として活用されていくことが期待されています。東京オリンピック・パラリンピックの際に、新たに設立されたスポーツ庁も、アスリートの育成はもちろん健康スポーツの充実のための取り組みが期待されています。

当センターも、スポーツ・運動の視点から、整形外科、内科といった既存の科の枠組みを超えて、競技スポーツ、生涯(レクリエーショナル)スポーツに多くの人がかかわるための全般的サポートを行うことで、スポーツの楽しさ、素晴らしさを実感していただき、結果としての、日常生活の充実、疾病の予防、健康寿命の延長を目指していきたいと考えています。

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