病気を知る

摂食障害(食行動症または摂食症群)

概要

摂食障害は、体重や体型に対する強いこだわりを認め、体重が増加することを防ぐために食事量の制限、自己誘発性嘔吐や不適切な下剤の使用といった行動を認める疾患で、近年、心療内科、小児科、精神科外来において増加している疾患のひとつです。摂食障害は、いわゆる拒食症といわれる神経性やせ症、過食症と呼ばれる神経性過食症、過食性障害、回避・制限性食物摂取症とに大別されます(表1)。

本疾患群は、回復可能な心の病気であることをより分かりやすく伝え、偏見を軽減するため、「摂食障害」から「摂食症」という新しい呼称への変更が進められています。ただし、新しい呼称はまだ一般への認知度が十分でないことから、ここでは引き続き「摂食障害」という表記を使用しています。

摂食障害は、その病名からも体重や食行動に関する症状が目立つことから食行動異常の疾患と思われがちですが、患者さんの本質的な苦悩として、その背後に表面上は見えない心理的な問題や脳の働き(神経認知機能)の変容が潜在します。そのため、患者さんの支援には、食行動の異常だけに目を奪われるのではなく、そういった心の問題や日常生活での生きづらさにも目を向けることが回復への鍵となります。

患者さんの約90%は女性であるといわれていますが、近年は男性(約10%)における発症や、トランスジェンダーの当事者における発症も明らかになっています。最も頻繁に発症する年齢は10代半ばから後半であるといわれていますが、20代初期に発症する場合も5%前後あります。さらに、小学生などの児童期への発症の若年化や、中高年層における症状の慢性遷延化など、発症年齢は多様化しています。ここでは、それぞれの疾患について概略を説明いたします。

表1.摂食障害(食行動症または摂食症群)の分類
摂食障害の概説と疫学. 摂食障害情報ポータルサイト(専門職の方)を元に生成AIを用いて作成

神経性やせ症

診断と臨床的徴候

神経性やせ症では、必要とされるカロリー摂取を抑え、健康的であるために必要な体重よりも有意に低い(正常の下限を下回り、子どもまたは青年の場合は、期待される最低体重を下回る)値を呈します。そんな低体重にも関わらず、体重増加や肥満になることに対する強い恐怖感、または体重増加を妨げる行動がみられ、自分の体重や体型について歪んだ受け取り方をしており、自己評価において体重や体型が不適切な影響を与えていたり、低体重にも関わらず深刻だという認識に欠けている場合とされます。アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では、表2に示されるような基準で診断が行われます。

神経性やせ症は、制限型と過食/排出型のふたつの診断にさらに分類されます(表1参照)。

表2.神経性やせ症の診断基準
DSM-5(医学書院. 2014)p.332を元に作成

神経性やせ症/神経性無食欲症

 Anorexia Nervosa

 診断基準

  1. 必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。
  2. 有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。
  3. 自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。

 

病型

<分類>

制限型
AN-R
この3ヶ月において過食や排出行動(自己誘発性嘔吐、下剤や利尿薬、浣腸剤の乱用)を繰り返していない。
過食/排出型
AN-BP
この3ヶ月において過食や排出行動(自己誘発性嘔吐、下剤や利尿薬、浣腸剤の乱用)を繰り返している。

制限型とは、過去3ヶ月間に、繰り返し行われる過食または排出行動(自己誘発性嘔吐、または下剤、利尿薬、または浣腸剤の乱用)を認められない状態とされます。そのため、この型の患者さんにおいては、実際の体重減少は、主としてダイエット、断食、および/または過剰な運動によってもたらされているとされています。

過食/排出型とは、過去3ヶ月間に、繰り返し過食または排出行動(つまり、自己誘発性嘔吐、または下剤、利尿薬、または浣腸剤の乱用)が認められる状態とされます。

患者さんは最低限の正常体重を維持することも拒否し、正常体重を維持することに大きな恐怖感や抵抗感を抱きます。また体重増加を防ぐ手段として、多くのケースでは食べる量を減らそうとしますが、その結果として至った飢餓状態への反動として患者さんによっては過食が認められます。そして多くの場合、過食後に、太りたくないため自己誘発性の嘔吐を伴います。それ以外にも、不適切な下剤の使用、過剰な運動といった手段が用いられます。過剰な運動には、儀式的な体操や遠距離のサイクリング、散歩、ジョギング、マラソンなどがあります。これらの行動の大半は、隠れて行われることが多く、同居している家族でもその行動のすべてを把握するのは困難です。

重症度と身体症状

神経性やせ症の症状として多いものとしては、脈拍数の減少、低体温、低血圧、骨量減少や骨粗鬆症、貧血などの造血機能低下、ナトリウムやカリウムといった電解質異常、肝機能障害、低血糖、歩行困難や起き上がれないなどの運動障害、意識障害が挙げられます。本症の死亡率は約5~10%で、ほかの精神疾患より高いことから適切な対応が求められます。

臨床における状態や重症度判定には、国際的に合意された基準であるBMI(Body Mass Index)を主軸として用います。ただし、日本人の体型を考慮した目安を提示するため、国内では伝統的な「平田法」による標準体重比率も補助的な指標として現在でも併用されています(表3)。また、やせの度合いに応じた具体的な身体リスクと、推奨される生活管理の基準は以下の通り整理されています(表4)。例えば、標準体重比75%以下では成長期では成長障害を生じ、成人では骨粗鬆症が悪化することが示されており、標準体重比55%未満のやせでは重篤な内科的合併症(低血糖昏睡・心不全・致死性不整脈・腎不全)のリスクが急激に高まるため、入院治療の絶対適応とされています。

表3.

平田法

身長 標準体重
160cm以上 (身長cm-100)×0.9
150~160cm (身長cm-150)×0.4+50
150cm以下 (身長cm-100)

平田法と体重早見表

生成AIを用いて作成

表4.
神経性食欲不振症のプライマリケアのためのガイドライン(2007年)(厚生労働省難治性疾患克服研究事業「中枢性摂食異常症に関する調査研究班」)より引用

やせの程度による身体状況と活動制限の目安

%標準体重 身体状況 活動制限
55未満 内科的合併症の頻度が高い 入院による栄養療法の絶対適応
55~65 最低限の日常生活にも支障がある 入院による栄養療法が適切
65~70 軽労作の日常生活にも支障がある 自宅療養が望ましい
70~75 軽労作の日常生活は可能 制限つき就学・就労の許可
75以上 通常の日常生活は可能 就学・就労の許可

低体重が長く続くことで起こりうる影響

神経性やせ症は、低体重の状態が長く続くほど、全身の様々な臓器や機能に影響が及ぶことが知られています。多くの影響は、適切な治療によって体重が回復することで改善に向かいますが、なかには回復後も完全には元に戻りにくいものも含まれます。治療に踏み出すタイミングを早くするほど、こうした影響を小さくとどめることができると報告されています。以下に、主な影響について説明します。

骨への影響

低体重・無月経の状態が続くと、骨を作るために必要なホルモン(エストロゲンなど)が低下し、骨密度が下がります。骨密度は特に10代から20代前半にかけて形成される重要な時期があり、この時期に低栄養が続くと、生涯にわたる骨の丈夫さに影響する可能性があります。骨密度の低下は骨折のリスクを高め、脊椎や股関節などへの影響が出ると、日常生活や体を動かすことが難しくなることがあります。具体的には、転んで両手を地面についたときに両方の前腕が折れる、朝起きたときに骨盤が折れており動けなくなっているなど、日常生活動作で容易に骨折することもあります。体重が回復しても、一度低下した骨密度が完全に戻るとは限らないことが研究で示されており、早めの治療が骨を守るうえで大切です。

脳・認知機能への影響

低栄養の状態が続くと、脳の容積が一時的に減少することが画像研究で確認されています。これにより、集中力の低下、記憶力の低下、物事を柔軟に切り替えて考える力(認知の柔軟性)が落ちることがあります。こうした認知機能の変化は、体重回復とともに多くの場合は改善していきますが、長期にわたって低体重が続いた場合には、回復後も思考の硬さや切り替えのしにくさが残ることがあると報告されています。これは摂食障害の症状をさらに維持しやすくするという悪循環にもなりえるため、脳を守るためにも早めの栄養回復が重要です。また、集中力の低下は、学業や仕事にも影響します。健康体重の同僚が作業をこなしている中、そのスピードに追い付けず、さらに自信を失うこともあります。

月経・生殖機能への影響

低体重になると、体が生殖機能を維持するための栄養が不足していると判断し、ホルモンのバランスが乱れて月経が止まります(無月経)。月経が止まっている間は排卵が起きにくくなり、将来的に妊娠しにくくなることがあります。体重が回復すれば多くの場合は月経が再開しますが、低体重の期間が長いほど月経の再開に時間がかかったり、不妊の問題が残ったりすることも報告されています。「月経がないから妊娠しない」と考えるのは誤りで、不安定な排卵が起きることもあるため注意が必要です。男性患者でも、テストステロンなどのホルモンが低下し、骨密度や体の発達に影響することがあります。

消化器への影響

長期の低栄養状態では、胃や腸を動かす筋肉が弱くなり、消化器の機能が低下します。その結果、食べるとすぐに強い膨満感や吐き気を感じたり、慢性的な便秘に悩まされたりすることがあります。これらの消化器症状は、体重回復とともに改善することが多いですが、回復後もしばらく続く場合があります。消化器の不調は、食事そのものへの不安を強め、回復の妨げになることもあるため、治療のなかでしっかりと対処していくことが大切です。また、排出行動(嘔吐や下剤の乱用)を伴う場合は、歯のエナメル質が溶けるなどのダメージが蓄積することがあります。一度失われた歯のエナメル質は現代の医学では残念ながら回復させることはできません。また、下剤の乱用が続くと肝不全となり、肝移植しか治療法がなくなることもあります。

心臓・全身への影響

重症度と身体症状の項で述べた通り、低体重が続くと心臓の機能にも影響します。低栄養が進むと心臓の筋肉も萎縮し、脈拍数の低下(徐脈)、低血圧、ふらつきや立ちくらみが起きやすくなります。電解質(カリウムやマグネシウムなど)のバランスが崩れると、不整脈のリスクが高まり、場合によっては生命に関わることもあります。神経性やせ症は、精神疾患のなかでも特に死亡率が高い疾患のひとつとして知られており、身体的なリスクのサインを見逃さないことが重要です。また、貧血や免疫機能の低下により、疲れやすさや感染症にかかりやすくなることも報告されています。

これらの影響は、低体重の期間が短いほど、また発症から治療開始までの時間が短いほど、回復の可能性が高くなることが多くの研究で示されています。「いつか自分で何とかしよう」と思っていても、時間が経つほどに身体への影響が積み重なってしまいます。治療に踏み出すことは不安かもしれませんが、ひとりで抱え込まず、まず専門の医療者に相談することが、将来の自分の身体と生活を守ることにつながります。

疫学、病因

神経性やせ症の有病率については、研究により差が認められますが、思春期の女子の約0.5%から1%で神経性やせ症が発症すると推定されています。また男性の10倍から20倍の割合で女性に多く発生することが確認されています。

神経性やせ症の病因については、諸説が提示されていますが、確定的なものはなく、現時点では、特定の要因のみで発症するのではなく、生物学的、心理的、社会的な要因が複雑に絡んで発症すると考えられています。多くは、思春期における様々な課題に困難を感じ、それに対する反応として症状が出現しているとも考えられています。

治療

この疾患の中核となる症状を根本的に改善させる薬物療法は残念ながらまだ開発されていません。重度の低体重では精神療法の効果が限定的とされており、救命や合併症・後遺症の治療や予防のためにも、外来もしくは入院を通じての栄養摂取療法が優先されます。体重増加が精神病理の改善やQOLの向上に役立ち、その後の精神療法の導入にも有用であることも報告されています。しかし、ただ強引な栄養療法の導入は逆効果なことも多く、「ビルの上から飛び降りさせられるような」と形容される恐怖心を抱いている患者さんは体重増加を容易には受け入れませんので、その不安に共感しながら体重増加による利点を自覚させるような動機づけが求められます。

発症したばかりの若い患者さんでは、なるべく早期(できれば3年以内)での速やかな体重増加が良好な経過と結びつくと報告されています。逆に、10年以上の経過を辿る長期化したケースは重症遷延性摂食障害(SEED)と呼ばれ、本人や周囲の治療動機づけが下がり、入院回数も増え、様々な経験を経ることで本来得られるはずの成長の機会を逸する等、治療抵抗性が高まることが報告されています。また、体重を回復させない心理的治療は、SEEDの危険性を高めるとの報告もなされています。そのため、特に痩せ始めたばかりで発症したての時期には、できるだけ専門的な栄養療法が可能な治療機関での介入が望まれるといえるでしょう。

栄養状態が極端に悪化した場合[全身衰弱(起立、階段昇降が困難)、重篤な合併症(低血糖昏睡、感染症、腎不全、不整脈、心不全、電解質異常、標準体重の55%以下の重度やせ]には、身体的危機管理や栄養状態の改善を目的として、一時的な入院治療が望まれます。そこまでではないとしても、標準体重の65%以下(身長160cmで35.1kg、150cmで29.3kg)では外来における自力での経口摂取による体重増加は通常はほぼ困難と考えられており、一般的な入院適応とされてもいます。

入院の場合は、身体的な管理下での栄養療法(経口栄養摂取、またはそれが困難な場合は経鼻栄養摂取)が行われ、目標体重を細かく設定し、それが達成された場合には、段階的に行動制限を緩和していくなどの方法がとられます(神経性やせ症患者への点滴による高カロリー輸液はリスクが高く国際的には現在は推奨されていません)。危険な状態にも関わらず本人が治療重要性を理解できない場合には、家族の協力の下で行われる医療保護入院の治療形態をとる場合もあります。入院治療は通常、栄養状態が改善した時点で治療場面を再び外来に移します。

極重度のやせ状態(BMI<15)では、認知機能の低下や悪化した病理のため現状においては心理的介入のエビデンスはほとんど実証されておらず栄養療法が優先されます。しかし、体重が増加するに従って精神療法の効果が期待されます。神経性やせ症の精神療法においては、まだ治療が確立したとはいえる水準にはなく、国内での治療機会はさらに限定的ですが、諸外国ではいくつかの有望で先進的な試みの効果も示されてきており、その一部は国内でも導入されてきています。

その代表が、摂食障害の特有の考え方や行動の習慣に働きかける摂食障害特化型認知行動療法(CBT-E)です。近年は、全国的にも認知行動療法は広がり多くの施設で摂食障害の患者さんに対しても行われているようですが、実際にはうつ病の認知行動療法を摂食障害患者に適応しているのが大部分のようです。CBT-Eは、それとは異なり特に摂食障害のために特別に開発されたものです。また、これ以外には家族関係を組み入れた治療にも期待が高まっています。

慶應義塾大学病院での取り組み

神経性やせ症に対しては、一般外来での対応となり、特別に専門的な精神療法、専門外来等は設置されておりません。入院治療(約1ヶ月)の場合には、栄養療法、それによって順調に体重回復が得られた患者さんに対しては、ケースに応じて入院後半に認知行動療法、対人関係療法、家族療法の導入、および外来治療につながる橋渡し的なプログラムを提供しております。行動のコントロールが難しい患者さんのケースでは、大部屋では管理困難ですのでそこで治療効果が上がらないようですと速やかに退院となります。そのため、そういったケースや身体的重症度が高い場合は、当院では通常は個室(差額)からの治療開始をお願いしております。

神経性過食症

神経性過食症では、繰り返される過食(過食とは、明らかに普通よりも多い食物を、コントロールできないと感じながら一定時間内に食べてしまう行動)や、体重増加を防ぐための不適切な代償的ダイエット行動(自己誘発性嘔吐、下剤や利尿薬、やせ薬等医薬品の乱用、絶食や過剰な運動)が習慣化して行われ(3ヶ月にわたって週1回以上のペースで)、自己評価が体型および体重の影響を過度に受けている、といった症状を認めます。通常、過食は自己誘発性嘔吐の1年程前に始まるとされています。この疾患のほとんどの患者さんは標準体重の範囲内にありますが、低体重や高体重であることもあります。自分自身の身体像と外見に気を遣い、他人からどのように見えるかを心配していることが一般的です。

アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では、表5のような形で診断が行われます。

表5.神経性過食症の診断基準
DSM-5(医学書院. 2014)p.338-339より引用

神経性過食症/神経性大食症

 Bulimia Nervosa

 診断基準 307.51(F50.2)

  1. 反復する過食エピソード。過食エピソードは以下の両方によって特徴づけられる。
    1. 他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
    2. そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)。
  2. 体重の増加を防ぐための反復する不適切な代償行動。例えば、自己誘発性嘔吐;緩下剤、利尿薬、その他の医薬品の乱用;絶食;過剰な運動など
  3. 過食と不適切な代償行動がともに平均して3カ月間にわたって少なくとも週1回は起こっている。
  4. 自己評価が体型および体重の影響を過度に受けている。
  5. その障害は、神経性やせ症のエピソードの期間にのみ起こるものではない。

疫学、病因

神経性過食症は神経性やせ症より多くの人が罹患している疾患です。若い女性の1~3%に認められる疾患と考えられています。神経性過食症は、神経性やせ症と同様、男性よりも女性に際立って頻繁に起こりますが、神経性やせ症の発生に比べ好発年齢はやや遅く、10代後半もしくは、20代前半に発症することが多いと考えられています。

神経性過食症の原因も、神経性やせ症と同様、生物学的、社会的、心理的要因が考えられています。患者さんは一般的に高い目標の持ち主であることが多く、痩せているのが好ましいという社会的な圧力に応えようとするという社会的な要因も指摘されています。また、心理学的には、神経性やせ症と同様、思春期における様々な課題に困難を感じ、それに対する反応として症状が出現しているとも考えられています。

治療

通常、治療は外来で行われ、入院が必要になるケースはまれです。薬物療法としては、SSRIといった抗うつ薬(国内適応外)が過食や嘔吐への有効性を示し、治療に用いられることがあります。また、過食衝動を抑制する薬として「トピラマート」が国際的な治療ガイドラインで推奨(エビデンスレベルA)されていますが、こちらも国内は適応外です。一方で、薬物療法だけで完治することは多くはなく、専門的な精神心理療法と並行して用いられます。

精神療法については、神経性やせ症よりも神経性過食症の方が、過食を引き起こす特定の考え方や行動に対する認知行動療法、人間関係の問題に焦点を当てた対人関係療法の有効性、およびそれらと薬物療法の併用が最も高い効果が期待されることが国際的にほぼ確立しており、国内においては2018年より神経性過食症に対するCBT-Eに保険が適用されましたが、国内においてはマンパワー不足などの要因もあり、提供できているのは一部の専門機関に限られているのが現状です。その場合、こういった精神療法のエッセンスを自習しながら治療に臨む、読書療法の効果も示されており、国内でも翻訳されて出版されています。

慶應義塾大学病院の取り組み

一般外来での対応になります。神経性過食症への専門的な精神療法、専門外来は特に設置しておりません。入院治療での教育入院(約1ヶ月)においては、外来につながる橋渡し的なプログラムを提供しております。

過食性障害(むちゃ食い症)

過食性障害では、神経性過食症と同様に、繰り返される過食が特徴ですが、神経性過食症と異なり嘔吐や下剤といった代償的ダイエット行動は伴いません。また、その過食には苦痛を感じており、①早食い、②苦しいほど満腹になるまで食べる、③空腹感がなくても食べる、④過食を知られるのを恥じてひとりで食べる、⑤過食後に自己嫌悪やうつ気分、強い罪責感に苛まれる、のうち3つ以上当てはまり、習慣化して行われる(3ヶ月にわたって週1回以上のペースで)といった状態です。代償的なダイエット行動を伴わない過食症のため、過体重や肥満を呈する場合が多いことも報告されています。

アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では、表6のような形で診断が行われます。

表6.過食性障害の診断基準
DSM-5(医学書院. 2014)p. 343を元に作成

過食性障害(むちゃ食い症)

 Binge Eating Disorder (BED)

 診断基準

  1. 反復する過食エピソード、過食エピソードは以下の両方によって特徴づけられる。
    1. 他とははっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
    2. そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)
  2. 過食(むちゃ食い)エピソードは、以下のうち3つ以上と関連している。
    1. 通常よりもはるかに速く食べる。
    2. 苦しいほど(不快なほど)満腹になるまで食べる。
    3. 身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる。
    4. 自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため、ひとりで食べる。
    5. 食べた後に、自己嫌悪、うつ気分、または強い罪責感を感じる。
  3. むちゃ食いに関して、本人が明らかな苦痛(苦悩)を感じている。
  4. むちゃ食いが、平均して3ヶ月にわたって少なくとも週1回以上起こっている。
  5. その過食行動は、神経性過食症におけるような不適切な代償行動(嘔吐や下剤の乱用、極端な絶食など)を伴わず、また神経性やせ症や神経性過食症の経過中にのみ起こるものではない。

疫学、病因

過食性障害(むちゃ食い)は、18歳以上の男女比が約1:2(男性0.8~1.4%:女性1.6~2.6%)であり、神経性やせ症や神経性過食症に比べて男性の占める割合が多く、平均発症年齢も24歳前後と比較的高いことが特徴です。全世界の生涯有病率はおよそ2.0%に達し、神経性過食症(約1.0%)などと比べて頻度の高い摂食障害であることが報告されています。原因は、ほかの摂食障害と同様、生物学的、社会的、心理的要因が深く絡み合っていると考えられています。

治療

治療は基本的に外来で行われます。国際的なガイドライン(アメリカ精神医学会・英国など)では、心理療法が第一選択とされており、その中でも「摂食障害特化型認知行動療法(CBT-E)」および「対人関係療法」は複数の無作為化比較試験において一定の有効性が示されています。専門機関への受診が難しい場合には、認知行動療法(CBT)の要点を解説した書籍を用いながら専門家のサポートを受ける「ガイド付き自己ヘルプ」も選択肢のひとつとして挙げられています。なお、CBT-Eは国内では神経性過食症に対してのみ保険収載されており、過食性障害(むちゃ食い症)への適用は現時点では保険対象外となります。

また近年では、第3世代の認知行動療法の流れを汲む「マインドフルネスを基盤とした介入」も補助的なアプローチとして注目されています。そのひとつである「マインドフル・イーティング」は、食事中に「今この瞬間」の感覚(空腹感・満腹感・味・食感など)に意識を向けることで、ストレスや習慣に引きずられた無意識の過食に気づきやすくし、食事量の自然な調節を助ける可能性があると考えられています。特定の食品を禁じたりカロリーを厳しく制限したりするのではなく、「本当に必要なものを意識的に味わって食べる」感覚を身につけることを目指します。過食性障害(むちゃ食い症)に対するマインドフルネス介入の単独での効果については、CBT等の能動的な心理療法と比較したときに同等の効果があるかどうかはまだ十分明らかではなく、補助的な位置づけにとどまりますが、既存の治療と組み合わせることで生活の質の改善や食行動の安定に役立つ可能性があります。

薬物療法については、国際的には中枢神経刺激薬の「リスデキサンフェタミン(商品名:ビバンセ®)」が米国食品医薬品局(FDA)に承認されているほか、抗てんかん薬の「トピラマート」や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の有効性を示す研究報告もあります。ただし、これらの薬剤はいずれも国内では過食性障害(むちゃ食い症)に対する保険適用はありません。いずれの治療においても、食行動の背景にある心理的な問題や生活習慣全体を含めた包括的なアプローチが、長期的な回復には重要と考えられています。

慶應義塾大学病院の取り組み

一般外来での対応になります。過食性障害への専門的な精神療法、専門外来は特に設置しておりませんが、腎臓・内分泌・代謝内科と精神・神経科が連携し、肥満症を合併している方にマインドフル・イーティングを取り入れた診療を行っています。マインドフル・イーティングについてはこちらもご参照ください。2026年2月からは、不定期ではありますが、集団療法としての提供も開始しています。ご関心のある患者さんは、まずは肥満症外来の担当医にご相談ください。

回避・制限性食物摂取症(ARFID)

回避・制限性食物摂取症(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder:ARFID)は、食物摂取の回避または制限によって必要なエネルギーや適切な栄養の摂取を満たすことができず、著しい体重減少、栄養欠乏、経口栄養補助食品や経管栄養への依存、あるいは心理社会的機能の障害をきたす疾患です。アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5(2013年))および国際疾病分類(ICD-11)に取り入れられた、比較的新しい疾患概念です。神経性やせ症と同様に食事量が減少しますが、ARFIDでは体型や体重へのこだわり、やせ願望、肥満恐怖といったボディイメージの歪みは認めない点が大きな違いです。摂食障害患者の5〜32%を占めると報告されており、決してまれな疾患ではありません。

症状と発症パターン

ARFIDの主な症状は食行動の問題であり、食事量の減少、食べられる食品の種類が著しく限られる(偏食)、栄養剤や補助食品への依存、飲み込みへの恐怖や食事の拒否などが見られます。ほかの摂食障害に認められる排出行為(嘔吐や下剤の使用)や過食は一般的には認めません。低栄養の結果として、低体重・低身長・低体温・低血糖・無月経・徐脈などの身体症状が現れることもあります。

発症のパターンとしては主に以下の3つが知られています。①生来食事への関心が低く小食で低体重となるタイプ、②食べ物の味・食感・においへの感覚過敏から偏食が強くなり十分な栄養が摂れないタイプ、③のどへの詰まりや嘔吐などの体験がきっかけとなり、食べることや飲み込むことへの恐怖が生じるタイプです。

なお、ARFIDと自閉スペクトラム症(ASD)の併発は12.5〜33%と報告されており、ASDの特徴であるこだわりの強さや感覚過敏がARFIDの症状と深く関わっている場合があります。ただし、低栄養状態ではASD様の症状が現れることがあるため、体重回復後に改めて評価することが望ましいとされています。

疫学

一般人口におけるARFIDの有病率は、オーストラリアや台湾での大規模調査でいずれも約0.3%と報告されています。国内における一般人口での研究報告はまだ少ない状況です。神経性やせ症や神経性過食症と比べて、発症年齢が低い傾向があり(子どもから成人まで幅広く認められます)、男性の患者さんが占める割合が比較的多いことが特徴として挙げられます。

治療

ARFIDはその発症のきっかけや症状の程度のばらつきが大きく、現時点では一定の治療法が確立されているわけではありませんが、以下のような方針が基本的な関わり方として示されています。

まず何より優先されるのは栄養状態の改善であり、低栄養・低体重を是正することが治療の出発点となります。食べることへの不安や恐怖(のどの詰まり・嘔吐など過去の体験に関連するものを含む)に対しては、強制的に食べさせたり脅したりするのではなく、食物へのゆっくりとした段階的な慣れ(構造化された曝露)を通じて、食べられる食品の範囲を少しずつ広げていくことが重要です。間食を自由に摂らせるのではなく、規則的な食事習慣の構築を目指します。

また、不安障害やASDなどの精神疾患を併存している場合には、それらへの対応も含めた包括的なアプローチが必要です。ARFIDは発症の背景や症状が患者さんによって大きく異なるため、個々の状態に応じて、医師・看護師・管理栄養士・臨床心理士など多職種のチームが連携しながら支援を進めることが望ましいとされています。特別な心理療法や薬物療法についても様々な検討がなされていますが、現時点ではまだ知見の蓄積が続いている段階です。

慶應義塾大学病院の取り組み

一般外来での対応になります。ARFIDへの対応については、ほかの摂食障害と同様に多職種チームで連携しながら個々の患者さんの状況に応じて進めています。

参考文献

  • DSM-5精神疾患の分類と診断の手引 / American Psychiatric Association [編] ; 染矢俊幸 [ほか] 訳 東京 : 医学書院, 2014.10
  • 神経性食欲不振症のプライマリケアのためのガイドライン(2007年)(厚生労働省難治性疾患克服研究事業「中枢性摂食異常症に関する調査研究班」)
  • 臨床精神医学テキスト : DSM-IV診断基準の臨床への展開 / ハロルド・I・カプラン [ほか] 編著 ; 井上令一, 四宮滋子監訳 東京 : 医学書院エムワイダブリュー, 1996.12
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  • 摂食障害情報ポータルサイト(専門職の方)(摂食障害全国支援センター)
  • マインドフルネス・ダイエット : 頑張らないから痩せていく / 山市大輔監修・著,横山貴和子絵・著 東京 : 金剛出版, 2024
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