キャッスルマン病(Multicentric castleman disease: MCD)
概要
キャッスルマン病はリンパ節の腫れ、熱、だるさなどを特徴とする病気です。これらの症状は風邪などと違い自然によくなることはなく、何週間も症状が持続します。一か所のリンパ節が腫れている場合は「単中心性キャッスルマン病」、複数のリンパ節が腫れる場合は「多中心性キャッスルマン病」と呼びます。この病気を初めて報告したCastleman先生の名前が病名の由来となっています。
キャッスルマン病を診断するうえでは腫れているリンパ節をとって、顕微鏡で腫れている原因をみることが重要です。リンパ節の腫れが一か所であるキャッスルマン病(単中心性キャッスルマン病)では、腫れているリンパ節をとるだけで、ほかの症状もよくなることが多いです。単中心性キャッスルマン病では腫れているリンパ節をとることが診断の役に立つだけでなく、治療にもなります。
多中心性キャッスルマン病はIL-6という免疫物質が体内で持続的に産生されることが原因であると考えられています。IL-6が作られ続けてしまう原因の一つとしてはヘルペスウイルス8型(HHV8)感染が知られています。HHV8はIL-6と同じ構造をした遺伝子を持っており、実際ヨーロッパやアメリカではHHV8感染に伴うキャッスルマン病の患者さんが多く報告されています。しかしながら日本ではHHV8の感染は珍しく、なぜ日本の多中心性キャッスルマン病の患者さんでIL-6が作られ続けてしまうのか原因は分かっていません。治療の項で詳しく説明しますが、IL-6をブロックするアクテムラ®が効くことが多いです。
キャッスルマン病にはTAFRO症候群という仲間の病気があります。TAFRO症候群は2010年に日本から初めて報告された病気です。TAFRO症候群は病気の特徴である血小板減少(Thrombocytopenia)、全身浮腫・胸腹水(Anasarca)、発熱(Fever)、骨髄の繊維症/腎障害(Reticulin fibrosis/Renal failure)、肝蔵/脾臓/リンパ節の腫れ(Organomegaly)のそれぞれの英語の頭文字が名前の由来になっています。キャッスルマン病と同様に熱やリンパ節の腫れといった共通の症状もありますが、腹水のように異なる症状もあり、またアクテムラ®が効きにくいのも特徴です。
日本でのはっきりした患者数は分かっていませんが、比較的珍しい病気であると考えられています。2020年にキャッスルマン病研究班から診療ガイドラインが報告されています。
症状
キャッスルマン病はリンパ節の腫れ、熱、だるさなどの症状が現れます。リンパ節は首のまわりや、わきの下、足の付け根にあり、これらの場所でシコリが触れる場合にはリンパ節の腫れを疑います。シコリのサイズは1センチ未満のこともあれば、数センチと大きく腫れることもあります。熱は38度を超えることも珍しくなく、数週間にわたり症状が持続します。長期にわたって熱が続くため、体力を消耗し、1か月で体重が数kg減ることもあります。だるさは熱自体の影響もありますし、熱による消耗の結果、ヘモグロビンという酸素を運ぶ物質が減った結果であることもあります。
TAFRO症候群でもリンパ節の腫れや熱といった症状が出ます。これ以外にも手足のむくみや、胸に水が溜まった結果、息苦しさが出ることもあります。TAFRO症候群の特徴の一つに血小板減少がありますが、重度の血小板減少ではあざができやすくなったり、皮下出血の結果、手足に赤い斑点が出ることがあります。
診断
キャッスルマン病の診断では腫れているリンパ節を切除し、リンパ節で何が起こっているか調べることが重要です。またリンパ節の腫れを起こすほかの病気として悪性リンパ腫のようながんもあるため、リンパ節検査を行い、悪性リンパ腫でないことを確認することも重要です。
血液検査もキャッスルマン病やTAFRO症候群の診断や病気の状態を知るうえで重要です。具体的にはこれらの病気ではCRPが非常に高値になり、赤血球やヘモグロビンは低値になります。血小板はキャッスルマン病で高値になりますが、TAFRO症候群では低値になるため、キャッスルマン病とTAFRO症候群の見極めに役立ちます。キャッスルマン病ではIL-6の過剰産生が原因であるため、IL-6の値を実際に測り、診断に役立てることもあります。
キャッスルマン病やTAFRO症候群で骨髄検査を行うこともあります。骨髄は骨の中にある血液の工場で、腰骨に専用の針を刺して検査をします。骨髄検査をすることで血液の産生源に異常がないか確認することができます。
キャッスルマン病やTAFRO症候群では造影CT検査も役立ちます。造影CT検査は画像をみやすくする「造影剤」という薬を注射しながら撮影するCT検査です。造影CT検査は身体の内部のリンパ節の状態もみることができるため、診察では分からないリンパ節の腫れをみつけられます。また、TAFRO症候群の症状である胸やお腹に水が溜まっているかどうかも造影CT検査で確認することができます。ただし、造影剤は腎機能が悪い患者さんには使うことができないため、腎機能が悪い場合には、造影剤を使わないCTやMRIなどのほかの画像検査で代用することもあります。
治療
一か所のリンパ節が腫れているキャッスルマン病(単中心性キャッスルマン病)の場合には、その腫れているリンパ節をとるだけで症状がよくなることが多いです。何か所ものリンパ節が腫れているキャッスルマン病(多中心性キャッスルマン病)の場合には、アクテムラ®が非常によく効きます。アクテムラ®は1~2週間に1回、病院で点滴注射します。アクテムラ®の治療を開始すると症状は比較的すぐによくなっていきます。ただし、一度症状がよくなってもアクテムラ®を中止すると症状をぶり返してしまうことが多いので、アクテムラ®の点滴は中止できないことが多いです。症状が安定していれば、3~4週間のようにアクテムラ®の投与間隔を延ばせることがあります。
TAFRO症候群では、キャッスルマン病と異なりアクテムラ®が効きにくいことも多く、メチルプレドニンの点滴注射やプレドニゾロンの内服治療を使用することも多いです。シクロスポリンやリツキシマブといった治療薬を併用することもあります。
生活上の注意
キャッスルマン病やTAFRO症候群で使用する薬は、感染症にかかりやすくなる副作用があります。もし体調が悪いと感じた時には早めに病院を受診するようにしてください。また治療後に症状がよくなったとしても、薬を中断すると症状をぶり返すことも多いので、自己判断で薬を中止しないことが重要です。
慶應義塾大学病院での取り組み
慶應義塾大学病院には50名近くの患者さんが通院されています。当院の免疫統括センターにアクテムラ®の点滴投与のために通院されている方も多くいらっしゃいます。病態を解明するために、基礎研究、臨床研究も積極的に行っており、新たな治療方法の確立なども視野に入れながら診療にあたっております。
さらに詳しく知りたい方へ
文責:
リウマチ・膠原病内科
最終更新日:2024年6月3日
膠原病と免疫の病気
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- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis: EGPA)
- 結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)
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- 再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis: RP)
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