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腸管ベーチェット病

ちょうかんべーちぇっとびょう

概要

ベーチェット病は、全身諸臓器に多彩な炎症病変が繰り返し出没する原因不明の難治性炎症性疾患で、再発性の口腔内アフタ、陰部潰瘍、眼症状、皮膚症状の4つを主症状とします(KOMPAS病気を知る「ベーチェット病」をご参照ください)が、ベーチェット病の診断基準(完全型ないし不全型)の条件を満たし、かつ消化管に特徴的な潰瘍病変を呈する特殊型は「腸管ベーチェット病」と定義されます。腸管ベーチェット病では、典型的には回盲部(小腸と大腸の境目)を中心に円形または類円形の深掘れ潰瘍を呈しますが、その他のあらゆる消化管の部位にも潰瘍を生じる可能性はあります。現在、国内のベーチェット病患者数は約2万人と推計されていますが、そのうち消化管病変の出現頻度はおよそ2割と考えられています。

症状

典型的には回盲部を中心とした円形〜類円形の深掘れ潰瘍の部位に一致して腹痛を生じます。また潰瘍の程度によっては下痢、血便、発熱などの症状を来します。食道に潰瘍が生じると嚥下時の疼痛を伴うこともあります。潰瘍が重症化すると大量出血や穿孔を来し、時に生命予後を左右しかねない状況となる可能性があります。一方、軽症例では無症状で経過することもあります。

図1.典型的な腸管ベーチェット病の回盲部の深掘れ潰瘍

図1.典型的な腸管ベーチェット病の回盲部の深掘れ潰瘍

診断

腸管ベーチェット病は再発と寛解を繰り返すため、検査時期によっては病変が消退することもあり、その場合には経時的に検査を繰り返す必要があります。消化管病変の精査として各種画像診断が重要です。内視鏡検査や注腸造影CT検査を行い病変の有無や範囲を把握します。小腸の病変はこれらの検査で見つけることが難しい場合があるため、慶應義塾大学病院ではカプセル内視鏡も積極的に活用しております。

腸管ベーチェット病と鑑別を要する疾患として、クローン病、サイトメガロウイルス感染症、単純ヘルペスウイルス感染症、腸結核、薬剤起因性消化管潰瘍、などが挙げられます。Trisomy 8という染色体異常を伴う骨髄異形成症候群(MDS)患者で腸管ベーチェット病に酷似した腸管潰瘍病変を合併することもあります。また、ベーチェット病の主症状を認めず診断基準を満たさないにもかかわらず、消化管に腸管ベーチェット病とよく似た病変を形成している「単純性潰瘍」という疾患があります。これが腸管ベーチェット病と同じ病態か異なる疾患であるかは議論の分かれるところですが、腸管ベーチェット病に準じた治療が行われます。

治療

治療の目標は潰瘍病変の治癒ですが、日々の診療においては臨床的症状の改善、炎症反応の陰性化をひとつの目安として治療を行い、最終的には内視鏡など画像検査により治療効果を判定します。腸管ベーチェット病ではベーチェット病と同様の全身性抗炎症治療薬が用いられるほか、腸管病変特有の治療薬も用いられます。重症度に応じて以下のような薬を用います。

軽症〜中等症

  • 5-アミノサリチル酸(5-ASA)、サラゾスルファピリジン(SASP)
    潰瘍性大腸炎やクローン病で標準的な治療薬で、全身の免疫力を低下させることなく腸管粘膜の炎症を抑える効果のある薬剤です。腸管ベーチェット病ではまだ十分なデータが集まっていませんが、これらの薬剤が有効な場合があり、比較的安全性も高いことから軽症から中等症例で用いられることもあります。

中等症〜重症

  • 副腎皮質ステロイド
    様々な免疫・アレルギー疾患で広く使用される薬剤で、腸管ベーチェット病にも有効性が示されています。腹痛、下痢、血便など消化器症状が強く全身症状が不良の場合や、内視鏡所見で深掘れの潰瘍が確認された場合、寛解導入療法として副腎皮質ステロイド薬を投与します。しかし長期にわたる副腎皮質ステロイド薬の投与は様々な副作用を生じる可能性があるため、症状が改善したところで徐々に減量しつつ他剤への切り替えを検討します。

  • 抗TNF阻害薬(アダリムマブ、インフリキシマブ)
    炎症細胞から産生されるTNF-αという細胞情報伝達物質をブロックして炎症を強力に抑える薬剤です。副腎皮質ステロイドや他の免疫抑制治療が無効な難治性腸管ベーチェット病に対して潰瘍消失の有効性が示されており、長期投与による寛解維持効果もあることから、現時点で本疾患に対する保険適応のある薬剤の中では最も有効性が期待できる治療薬です。(投与方法などはKOMPAS病気を知る「クローン病」をご参照ください)

  • 免疫調節薬(チオプリン製剤、メトトレキサート)
    副腎皮質ステロイドやTNF阻害薬が奏功しない場合、あるいは副腎皮質ステロイドによる寛解後の維持療法として使用を考慮します。チオプリン製剤(アザチオプリン、6-メルカプトプリン)ではまれに投与後比較的早い段階で脱毛や白血球減少などの副作用を来すことがあり、これらの重篤な副作用にNUDT15という遺伝子の個人差が関与していることが分かっていることから、これらの治療薬を開始する前に血液検査によりNUDT15遺伝子多型検査を行うことが推奨されます。メトトレキサートはインフリキシマブとの併用で有効であったとの報告がありますが、単独での効果については不明です。

その他

  • コルヒチン
    炎症の原因である白血球の働きを抑制する機能を持ち、ベーチェット病において一般的な薬剤ですが、腸管ベーチェット病では本薬剤の有用性は明らかになっていません。副作用として下痢を来すことが多く、また稀に血球減少や横紋筋融解症、神経障害などの副作用を生じることがあります。

  • カルシニューリン阻害剤
    カルシニューリン阻害剤(シクロスポリン、タクロリムス)は、免疫反応を抑える薬剤で、ベーチェット病の眼病変や潰瘍性大腸炎などに有効性が示されており、エビデンスは乏しいものの腸管ベーチェット病に対しても有効であったという症例報告があります(保険適応外)。ただし神経型ベーチェット病に対して神経症状を悪化させるとの報告もあり、注意が必要です。

  • 手術療法
    上記いずれの薬物療法も無効、あるいは大量出血や穿孔など重篤な合併症を来す例では病変部を含めた腸管切除術が施行されます。ただし術後に吻合部を中心に潰瘍が再発することも多く、術後も引き続き薬物療法を要することが一般的です。

さらに詳しく知りたい方へ

  • ベーチェット病診療ガイドライン2020 / 日本ベーチェット病学会監修
    東京 : 診断と治療社, 2020.1

文責: 消化器内科外部リンク
最終更新日:2022年4月1日

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