超音波内視鏡による治療(Interventional EUS)
概要
超音波内視鏡は文字通り超音波装置が先端に装備されている内視鏡です。消化管の中から、腹腔内の膿瘍、嚢胞に対して穿刺針を挿入して処置を行います。開腹処置や体外からの膿瘍のドレナージ(排液)処置が困難、あるいは危険性が高いときに内視鏡での治療を選択します。特に感染性膵壊死や被包化壊死といった難治性かつ重篤な腹腔内膿瘍について、他の治療法に比較して安全性、治療効果も高いことから、2012年より保険適応された治療方法です。本治療に用いる処置具も年々進歩しており、より安全かつ短時間に処置が可能となってまいりました。最近はHOTAXIOSという、新規膵臓用瘻孔形成補綴材を使用することが可能となり、当施設も処置可能な認定施設となっております。本治療は内視鏡透視室で行います。本検査専用の超音波内視鏡を使用して、胃・十二指腸より内視鏡先端の超音波を用いて病変部位を観察し、治療を行います。以下に代表的な手術を紹介します。
超音波内視鏡による膵周囲膿瘍、仮性嚢胞ドレナージ術
急性膵炎などの後遺症として発症する壊死性(えしせい)膵炎あるいは液体が貯留した仮性膵嚢胞に細菌感染を来すことが度々あります。合併症の観点から、開腹手術よりも内視鏡での処置が一般的に行われています。膿は胃のすぐ後ろや十二指腸の近くにできることが多いため、超音波内視鏡で胃より膿を確認し、針を刺して膿を吸引し、穴を風船(バルーン)で拡張します。最後にチューブを挿入して内容液を胃内あるいは鼻から通したチューブで吸引します(図1)。
図1.仮性膵嚢胞および仮性嚢胞ドレナージ術
内視鏡的壊死組織除去術(ネクロセクトミー)
膿の中身が壊死した固形物質(被包化膵壊死:WON)の場合、上記の細いチューブでは膿を排出できないため、治療が不十分となります。そのため、ドレナージ治療後数日してから、チューブを挿入してあった穴(瘻孔)を大きな風船でゆっくり広げて、直接胃カメラを膿の中に挿入します。投げ縄状のワイヤー(スネア)や網状の器具(ネット)を使用して壊死している組織を嚢胞内から掻き出して治療します。週1~2回のペースで洗浄処置を繰り返し、壊死組織や膿がきれいになったら終了です。慶應義塾大学病院では膵臓用瘻孔形成補綴材を使用することでより効率的な膵周囲膿瘍の処置が可能となりました。膿瘍の中の処置ですので、出血や穿孔などの合併症を来すことがあるため、これら合併症を来した際の手術や、血管内治療なども行える体制が必要です。この治療で多くの方は改善しますが、膿が広範囲に広がっていると、手術での洗浄や体の外からエコーやCTを見ながらチューブを挿入することもあります。
図2.被包化膵壊死組織除去術(患者さんより許可を頂いて掲載しております)
超音波内視鏡による胆管(EUS-BD)および膵管ドレナージ(EUS-PD)術
胆管、膵管を消化管内より超音波内視鏡で確認し、消化管壁を介してドレナージチューブや、膵管胆管への処置具を挿入して処置を行う方法です(図3)。各疾患によりドレナージ方法や合併症は異なりますので、十分な検討のうえで、必要に合わせて個別に内容を説明したうえで施行いたします。合併症が起こらないように最新の注意を払って処置を行いますが、出血、貧血、穿孔、穿通、感染の悪化、空気塞栓などの合併症が起こりうる治療法になります。患者さんの病状や施行する処置内容によって異なりますので、主治医から治療前に詳しい説明がございます。
胆道学会における提言(超音波内視鏡下瘻孔形成術による閉塞性黄疸治療に関する提言)の通り、本処置方法は十分な診療体制が構築された施設で、治療に習熟した医師が施行することを推奨しております。当院もこの提言に準拠して本処置を開始して約5年が経過しました。今後も安全を重視しながら患者さんへベストの治療を提供できるように努力いたします。
図3.超音波内視鏡による胆管および膵管ドレナージ術
慶應義塾大学病院での取り組み
超音波内視鏡による治療は高難易度の処置になります。特殊な技術や知識、設備を必要とする内視鏡治療であり、最新の内視鏡設備と十分トレーニングされた内視鏡医が診断から内視鏡治療に携わりよく説明の上で処置を行います。また、内科・外科合同で密に連携を取っていることから、垣根なく必要な治療を選択し提供いたします。
さらに詳しく知りたい方へ
- 膵仮性嚢胞の内視鏡治療ガイドライン2009(一般社団法人 日本膵臓学会)
- 超音波内視鏡下胆道ドレナージの安全施行への診療ガイドライン:2018(一般社団法人 日本胆道学会)
文責:
消化器内科
最終更新日:2022年4月1日