ピロリ菌感染症
概要
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori :以下ピロリ菌) 感染は、胃・十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃MALTリンパ腫、胃がん、胃過形成性ポリープなどの上部消化管疾患だけではなく、特発性血小板減少性紫斑病や慢性蕁麻疹、鉄欠乏性貧血などの消化管外疾患にも関連します。特に胃がんは、ほとんどの場合にピロリ菌感染に伴う慢性萎縮性胃炎が存在し、除菌治療によって胃がん発症リスクを減らすことが出来ます。2013年に、「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌療法が保険適用となり、ほとんどすべての患者さんに健康保険で除菌することが可能になりました。本感染症と診断された場合、特に将来の胃がんリスクを低減させることを目的として除菌治療を受けることをお勧めします。
症状
一般的にピロリ菌感染による慢性萎縮性胃炎の場合、ほとんどの方が無症状です。早期の胃がん、胃MALTリンパ腫でもほとんどが無症状です。胃・十二指腸潰瘍の場合、上腹部痛の原因となります。また最近の研究で、胃もたれ症状、不快感の一因として、ピロリ菌感染が関わっていることが分かってきました。
診断
ピロリ菌感染は、ほとんどの場合は無症状なので、健康診断や人間ドックでまず上部消化管内視鏡検査や胃透視の所見から感染の有無を推定します。また、最近ではABC検診という、血液による検診でピロリ菌感染を指摘される場合もあります。内視鏡検査で胃・十二指腸潰瘍、早期胃がん内視鏡治療後、胃MALTリンパ腫、胃炎を認める場合は、必ずピロリ菌感染のチェックをします。 感染を診断する方法には内視鏡検査を使用する方法としない方法の大きく二通りに分かれます。検査ごとに長所と短所があります。通常、1種類もしくは2種類の検査の組み合わせで感染診断を行います。以下に検査方法を示します。
- 内視鏡による生検組織を必要とする検査法
(1) 迅速ウレアーゼ試験 (2) 鏡検法 (3) 培養法 - 内視鏡による生検組織を必要としない検査法(内視鏡検査で胃炎の診断がされないと受けることができません)
(1) 尿素呼気試験 (2) 血中、尿中抗体測定 (3) 便中抗原測定
治療
一次除菌治療としてはプロトンポンプ阻害薬 、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤を1週間投与します。
一次除菌で成功しない場合は、二次除菌として、プロトンポンプ阻害薬、 アモキシシリンおよびメトロニダゾールの3剤を投与します。
新しい機序の酸分泌抑制薬であるカリウムチャネル阻害薬、ボノプラザンが発売されました。ボノプラザンを用いた除菌療法は一次除菌、二次除菌ともに90%前後と良好な成績を示しており、ほとんどのピロリ菌感染症は二次除菌までの治療で除菌が可能になりました。
一次除菌 処方例
1. ボノプラザン | (20mg) | 1錠 | 1日2回 |
2. アモキシシリン | (250mg) | 3Cap(錠) | 1日2回 |
3. クラリスロマイシン | (200mg) | 1錠もしくは2錠 | 1日2回 |
上記1,2,3を朝、夕食後に1週間内服
二次除菌 処方例
1. ボノプラザン | (20mg) | 1錠 | 1日2回 |
2. アモキシシリン | (250mg) | 3Cap(錠) | 1日2回 |
3. メトロニダゾール | (250mg) | 1錠 | 1日2回 |
上記1,2,3を朝、夕食後に1週間内服
除菌判定
慶應義塾大学病院の場合、除菌判定は除菌治療薬終了後12週目以降に行います。
通常、尿素呼気試験もしくは便中抗原測定で除菌判定を行います。
定期的な検査の必要性
ピロリ菌除菌後の再発率は低く、ピロリ菌感染の再検査は原則必要ありません。ただし、多くの胃がんはピロリ菌感染による胃炎を背景として発生します。除菌後も胃炎はすぐには改善せず、胃がんのリスクもゼロにはならないため、除菌後も定期的に内視鏡検査を受けることをお勧めします。
慶應義塾大学病院での取り組み
二次除菌で成功しない場合や抗菌薬アレルギーをお持ちで除菌が困難な方の診療を、専門外来を設けて積極的に行っております。
さらに詳しく知りたい方へ
- ピロリ菌から胃を守れ!! 慢性胃炎・胃がんのもとを断つ(日本ヘリコバクター学会)
文責:
消化器内科
最終更新日:2022年4月1日