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がんのIVR(画像下治療)

がんのIVR(がぞうかちりょう)

概要

IVRとは、インターベンショナル・ラジオロジー(Interventional Radiology)の略です。和名は「画像下治療」であり、「血管内治療」、「血管内手術」などもほぼ同義語として扱われています。X線透視や超音波画像、CTを使用しながら体内に細い管(カテーテルや針)を入れて病変に到達し、種々の器具を用いて病気を治す治療法の総称です。

IVRは手術とは異なり、局所麻酔で、皮膚を数mm切開することで治療が可能であるため、身体にあたえる負担が少なく、病気の場所だけを正確に治療でき、入院期間も短縮できるなど優れた特徴を持っています。このため、近年高齢者の患者さんや状態の悪い進行がんを含めたがん治療に広く応用されています。がんに関係するIVRには以下のような治療法が含まれ、病気の種類や状態によって選択され、時には組み合わせて治療することもあります。

血管系IVRの例

非血管系IVRの例

動脈塞栓療法
リザーバー留置療法
静脈塞栓療法
経皮的血管形成術
下大静脈フィルター留置術
疼痛軽減目的の動脈塞栓療法

針生検
胆管ドレナージ療法
胆管ステント留置療法
ラジオ波焼灼療法
経皮的エタノール注入療法
凍結融解壊死療法(cryoablation)


当院では対象疾患・臓器により、IVRを担当する診療科が異なっていますが、体幹や手足(四肢)など、心臓の動脈や脳の動脈を除く全身の各領域の血管IVRや非血管IVRは、関連各診療科との密接な連携を保ちつつ、主として放射線診断科IVR医が担当しています。

所要時間

1時間以内に終了するような簡単な治療もあれば、5~6時間を要する場合もあります。IVRは患者さんの血管や体の構造を画像で把握しながら行うオーダーメイドの治療方法になりますので、患者さんの体の構造によって、あるいはがん病変の大きさや個数、場所によって治療時間は前後することがあります。

治療を受ける前に

血管系IVRは、造影剤を用いたCT検査や血管造影検査と同じようにヨードアレルギー、気管支喘息の既往、腎機能障害がある方では原則として治療は行えません。造影剤使用と必要としない非血管系IVRはその限りではありません。
治療に先立ち放射線診断科IVR担当医ないし入院主治医が、患者さんやそのご家族に対して、治療の目的・方法、他の治療選択肢、期待される効果と発生しうる副作用・合併症の種類と頻度、治療後の経過予測などに関して十分な情報を提供いたします。また治療は強制ではなく任意であり、治療を拒否しても患者さんの不利益とはならないなどの説明を行った上で、ご承諾を頂戴します。

治療の実際

原則としてX線機器、カテーテル、ステントなどの医療器具が揃っており、専門のスタッフが常駐する中央棟6階の血管造影室において施行されます。がんに関係するIVR治療につきまして、代表的なものをいくつかご紹介いたします。

1. 肝がんに対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)

TACEは手術やラジオ波焼灼療法などと並ぶ、肝腫瘍に対する代表的な治療法の一つです。局所麻酔をして足の付根の部分からカテーテルと呼ばれる直径2mm程度の長いプラスチックの管を動脈内に入れ、X線透視を見ながら腫瘍を栄養する血管の近くまでカテーテル先端を進め、ここから化学療法剤(組織や細胞を傷害する薬)や塞栓物質(血流を停滞させる物質)を注入することにより、腫瘍を壊死させることを目的とする治療です。 当院では血管造影室に常設されているCTを駆使して三次元画像を撮影し、極めて精度が高く、しかも副作用・合併症を最小限度に抑えた治療を行うことが可能となっています。

図1. 肝細胞がんに対する血管内治療前(左)・治療後(右)

図1. 肝細胞がんに対する血管内治療前(左)・治療後(右)

2. 肝がんに対する動脈化学療法(TAI)、リザーバー留置療法

進行した肝腫瘍に対する治療方法に動脈化学療法やリザーバー留置術があります。これは肝動脈内に先端を進めたカテーテルから薬剤を注入する治療法です。前述のTACEと違って血管を詰めることはしませんので治療効果はやや落ちますが、治療に伴う肝臓へのダメージを軽減することができます。またカテーテルの手元部分を、下腹部皮下に埋め込んだリザーバーポートと接続し、皮膚の上からポートに針を刺して抗がん剤を注入することで肝臓だけに高濃度の薬剤を注入できるという方法がリザーバー留置療法です。

3. 肝がんに対するラジオ波焼灼療法(RFA)、経皮エタノール注入療法(PEIT)

ラジオ波焼灼療法、経皮的エタノール注入療法は、どちらも肝細胞がんを死滅させるために行なわれる治療です。ラジオ波とは、AMラジオなどの周波数に近い高周波のことで、電気メスなどに使用される高周波と同様のものです。 腫瘍の中に針を挿入し、RFAではラジオ波電流を流す、PEITではエタノールを注入することにより、がん病変を死滅させます。ラジオ波焼灼療法は2004年から、日本でも肝細胞がんに対する保険適用手術として認められ、近年では肝細胞がんに対する標準的な治療の一つとされています。当院では消化器内科および放射線診断科IVR医がラジオ波焼灼療法を実施しています。超音波装置を用いて局所麻酔で病変に針をさし、必要に応じてCTを用いて病変の大きさに対して焼灼範囲が十分足りていることを確認しながら治療を行っています。

4. 肝、肺、骨の悪性腫瘍に対する凍結融解壊死療法(cryoablation)療法

凍結融解壊死療法(cryoablation、以下凍結療法)は、局所麻酔後に超音波装置やCTを用いてがんに針を刺し、がんを凍らせて死滅させる治療法です。当院では整形外科、一般消化器外科、呼吸器外科とともに放射線診断科IVR医が骨腫瘍、肝腫瘍、肺腫瘍に対して凍結療法を施行しております。詳しくは、肝臓がん(肝細胞がん、胆管細胞がん)肺がんに対する凍結融解壊死療法 -呼吸器外科・呼吸器内科・放射線診断科-の該当項目をご参照ください。

5. がんの胆管浸潤に対する胆管ドレナージ療法(PTCD)、胆管ステント留置療法

がんが胆汁を排泄する管(胆管)に浸潤した場合、あるいは胆管を強く圧排した場合、黄疸や胆管炎を起こすことがあります。この場合に超音波装置やX線装置で観察しながらお腹から肝臓を通して胆管に針を刺し、通過障害のために溜まった胆汁を体外に排出するという治療を行います。またがんによって生じた通過障害を改善させるためにステントと呼ばれる金属性の筒を留置する治療を行うことがあります。ステント留置療法は内視鏡で留置することもありますが、胃の手術後など内視鏡治療が困難な患者さんに対しては放射線診断科IVR医が治療に当たっています。

6. がんの浸潤に伴う上・下大静脈症候群に対する血管形成術

がんによる浸潤、圧迫により上半身の血液を心臓へと返す大血管(上大静脈)あるいは下半身の血液を心臓へと返す大血管(下大静脈)が通過障害を起こすことがあります。この場合、上・下半身に強いむくみが生じ、生活に支障をきたすことがあります。このため、通過障害を起こしている血管にステントと呼ばれる金属性の筒を留置する治療を行うことがあります。このステント留置療法により一定期間の症状緩和効果が期待されます。

7. がんの転移に伴う疼痛軽減目的の動脈塞栓療法

がんが骨や筋肉に転移した場合、強い痛みを伴うことがあります。一般的にはモルヒネ製剤などの麻薬製剤を使用したり、放射線照射を行ったりすることで痛みを軽減させますが、当院ではそれに加え、放射線診断科IVR医が動脈塞栓療法を行うことで疼痛の軽減を図っています。腫瘍の性質や場所によって治療効果は異なりますが、痛みのため歩行困難であった患者さんが歩けるようになるなど、一定の効果がみられています。

8. さまざまな臓器のがん、腫瘍に対する針生検

さまざまな臓器にできてしまった腫瘍に対して、適切な治療、効果の高い抗がん剤治療など薬剤を決定するため、腫瘍の性質を知る必要があります(病理組織診断)。1mm以下の太さの針を、超音波やCTを観察しながら安全に体に刺して、がん組織を取ってくることにより病理診断が可能となります。当院は、日本で最も多くの針生検が行われている施設であり、この針生検、病理組織診断により、より効果の高い治療が行えています。

治療後の注意

血管系IVRの際には動脈を刺して治療を行うため、数%以下の頻度でカテーテル、針を入れた部位(血管系IVRでは通常足の付け根の部分)からの出血や血腫形成を生じることがあります。そのリスクを軽減させるため、ベッド上安静が必要になります。

治療におけるリスク

IVRの各治療で使用する薬剤によっては副作用が生じる可能性があります。また治療に伴う放射線被曝が、人体に重篤な影響(白血球減少、脱毛、発がん作用など)を及ぼす危険性は低いと言われていますが、放射線被曝時間が1時間を超えた場合には皮膚に一時的紅斑が出現することがあります。また治療の内容により、痛み。吐き気、嘔吐、発熱、その他の症状が出たり、治療対象臓器の機能障害が生じたりする場合があります。

関連リンク

文責: 放射線診断科外部リンク
最終更新日:2015年10月14日

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