悪性黒色腫の治療とセンチネルリンパ節生検
皮膚の診察や生検(腫瘍の一部を摘出し組織を確認する)によって悪性黒色腫と診断されたときの多くの場合、速やかに手術が行われます。手術ではもともとの腫瘍(原発巣)の辺縁より約1~2cm大きな範囲での摘出を行います(目に見えない範囲ですでに腫瘍細胞が周囲に拡大している可能性があるためです)。手術の範囲は、悪性黒色腫の病変の厚さによって変わります。また、手術に先立って、全身に転移を生じていないか、画像検査を行い確認します。
悪性黒色腫が転移する場合の経路
以下の3つがあります
- リンパ行性転移: リンパ流にのって転移するもの。例えば、つま先であれば鼠径部(足の付け根)の部分に流れ込みます。
- 血行性転移: 血流にのって転移するもの。肺、肝臓、骨、脳への転移を来しやすいです。
- 局所浸潤: 原発巣から周りの皮膚や筋肉、骨へと拡大するもの。
転移についての検査
CT(肺、肝臓、リンパ節など)、MRI(脳)、PET-CTなどの画像検査が有用ですが、転移した腫瘍がある程度の大きさとならないと発見できないこともあるため、初期に転移が指摘されなかった場合でも、治療後に定期的な画像検査が必要となります。
中でもリンパ節への転移は早期からみられることが多いため、画像では明らかにリンパ節の腫れがない場合でも、原発巣にある程度の厚みがある場合にはリンパ節転移の有無をさらに確認することが勧められます。この検査をセンチネルリンパ節生検といいます。
センチネルリンパ節、センチネルリンパ節生検とは
悪性黒色腫の腫瘍細胞が原発巣からリンパ流にのって流れ出ていくとき、最初にたどりつくリンパ節をセンチネルリンパ節といいます。首や腋の下、足の付け根や膝の裏にあることが多いです(下図:引用元不明)。
センチネルリンパ節を1~数個取り出し(生検)、病理組織検査を行い転移の有無を確認します。センチネルリンパ節に転移がなければ、その先のどのリンパ節にも転移はないと考えることができます。
センチネルリンパ節の同定方法
センチネルリンパ節はそれ以外のリンパ節と見た目上は区別がつきません。センチネルリンパ節を見つけ出すためには色素または放射性同位元素を用いる必要があります。
- 色素法: 手術直前に原発巣の周囲に色素を注射します。リンパ流にのって流れた色素によって染まったリンパ節を探し摘出します。
- アイソトープ法: 手術の半日から1日前に放射性同位元素(RI)を原発巣周囲に注射します。RIは半日程度かけてゆっくりとセンチネルリンパ節に流れ込みます。注射から半日経過したところでリンパシンチグラフィの撮影を行い、センチネルリンパ節の同定を行ないます。(注1)さらに、手術中にナビゲーター(ガイガーカウンター)という特殊な器械をセンチネルリンパ節が存在すると思われる皮膚の上にあて、センチネルリンパ節の位置を再度確認します。
以前は1. のみまたは1. と2. の併用により生検や手術を行なっていましたが、近年リンパシンチグラフィの精度が向上し、センチネルリンパ節の位置が的確に把握できるようになったため(写真)、2. のみでも十分同定が可能となりました。
注1: 当院では手術当日の朝にRIの注射を行い、昼頃にリンパシンチグラフィの撮影を行なっています。手術は午後に全身麻酔または局所麻酔で行います。リンパ節生検自体は、翌日退院が可能な検査ですので、退院日は同時に行う手術の内容によって変わります。
注2: 色素法にはインドシアニングリーン、RI法では99mTc-フチン酸を用いています。検査に使用する量であれば健康への影響はありません。
文責:
皮膚科
最終更新日:2018年1月31日